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190ー母の実家

「お手紙預かっていたけど、どうしようか?」

「殿下、もういいと思います」

「だよね、じゃあ返しておくね」

「はい。リリアス殿下、クーファル殿下。本当に申し訳ありませんでした。捕らえられた時に、出して頂いた食事を忘れません」 

「美味しかったでしょー?」

「はい! リリアス殿下。今迄食べた事のない物ばかりで。とても、美味しかったです」

「王国でも、食べられる様に頑張ってね」

「有難うございます!」


 まあ、良い感じになったんじゃないかな?


「じゃあ、邪魔したね。リリ、行こうか」

「はい、兄さま。じゃーね、頑張ってね!」

「有難うございました!」


 兵士達が皆一礼した。

 俺は、クーファルと詰所を出た。



「しかし、リリ。よく思いついたね」

「兄さま、お掃除ですか?」

「ああ。兄さまは驚いたよ」

「だって兄さま。もう隊に復帰してますし、今更……」

「そうだね」

「はい。だから、ちょうどいいかと思いました」

「ちょうどいい?」

「はい。本当に王都は汚くて、臭いですから」

「アハハハ、そうか」

「兄さま、王都の街を歩いてないでしょう?」

「ああ。馬車で通っただけだね」

「ボクは、何度か歩いてますから。汚いし臭い。本当にこのまま放っておくと、病の発生原因になりかねません」

「そんなにかい?」

「はい。汚物処理ができていないですね。下水道はあるのかな?」

「どうだろう?」

「帝国は綺麗です」

「ああ。初代皇帝が何もない所に、帝都を作ったんだ。その時、まず上下水道から作ったらしいからね」

「そうなんですか。凄いなぁ」

「それに帝国民は皆、魔法が使えるだろう? だから、排泄物や汚水も下水に流す前に一度魔石でクリーンされるんだ」

「なるほど。トイレには必ず魔石がありますね」

「そうだね。王国はこれから大変だ」

「はい。街もですが、民の意識が帝国とは全然違います」

「ああ。それが1番大変かも知れないね」

「はい」


 城の部屋に戻ると、セティが待っていた。


「お二人揃って、どこに行かれてたんですか?」

「セティ、もしかして探してくれていたかな?」

「はい。クーファル殿下。シェフが夕食の時間なのに、リリアス殿下がどこにも居られないと騒いでおりますよ」

「あ、そうだ。お腹すいた」

「リリ、食事にしよう」

「はい、兄さま」

「それで殿下方。明日の夕食は、王子お二人がご一緒される事になりました」

「分かった」

「えぇー、ボクもですか?」

「リリ、言っただろう?」

「でも、ボクまだ7歳ですよ?」

「気にしなくていいさ。父上もエイル様もいるんだし」


 まあ、決まったものは仕方ないか。

 それより、今は夕飯だ。腹がへったぜ。



「殿下! お探ししました!」

「シェフ、ごめんね。遅くなっちゃった!」

「いえ、お腹空いたでしょう。さ、お食べ下さい!」


 お、今日はグラタンだ。食堂に当てている部屋で、父と母とクーファルと一緒だ。


「んー、シェフのグラタンは最高!!」

「有難うございます!」

「うん。美味しい。シェフはどれだけ食料を持ってきたんだ?」

「はい、クーファル殿下。それはもう沢山です」

「ハハハ、沢山か」

「はい、陛下」

「じゃあ、まだまだあるのね?」

「はい、エイル様。ございます」

「母さま?……モグモグモグ」

「そのまま持って帰るのもね……」

「母さま、そうですね。シェフ、このお城の厨房に、冷蔵庫はあるの?」

「リリアス殿下、私は驚きました。ないんですよ」

「え、やっぱり」

「生活水準が、違いすぎるね」

「はい、陛下」

「父さま、冷蔵庫があるなら、お城に置いて帰ってもいいかな、と思ったんですけど」

「ねえ、リリ。じゃあ、王都で炊き出ししない?」

「母さま、炊き出しですか?」

「そう。王都の中心で。それから、下町とスラムでもやりたいわ」


 おいおい、母よ。母は俺が思っていた以上に、お転婆か?


「リリ、エイルの実家はね、そういう家なんだ」

「父さま、そうなんですか?」

「ああ、孤児院も経営しているしね。帝都に浮浪者がいないのは、エイルの実家の功績だと言う人もいる位だ」


 スゲーじゃん! ビックリだよ!


「母さま、凄いです!」

「リリ、貴族として当たり前なのよ。しない方が、おかしいわ」


 スゲー……! 尊敬するぜ!


 そう、母の実家の侯爵家は、孤児院を帝都に2件も経営している。その上、侯爵家の領地にも1件。

 そこで、子供達に教育を施し、手に職をつけ、独り立ちしても困らない様にカリキュラムを組んでいるんだそうだ。


 孤児院で、畑を作り、物を作り、それを売って経営資金にしている。

 ある程度大きくなったら、侯爵自身が後見人になって、街の店に働きに出る子もいるらしい。

 そんな子供達の中から、侯爵家の使用人になる子や、騎士団に入団した子もいるそうだから凄い。

 そして、その孤児院での力仕事や食事の用意等々、子供には無理だろう仕事を浮浪者になりそうな人達に斡旋しているそうだ。家のない人は、孤児院に住み込みもできる。


 素晴らしいじゃないか!

 そんな家の令嬢だから、炊き出しにも躊躇がないんだろうな。


「リリの考え方は、エイルの血筋かも知れないね」

「父さま。ボク、頭の中お花畑でなくて良かったです」

「リリ……それはもうよそう?」

「え、父さま。ボクだけじゃなくて、皆思ってますよ?」

「そうなのか!?」

「父上、残念ながらそうですね」

「クーファル、ショックだ……」

「父さま、日頃の行いの成果ですね……モグモグモグ」

「リリ、それは成果とは言わないね」

「そうですか?……でも、父さま。今回ご一緒して、父さまもやる時はやるんだと分かりました。皇帝の父さまは、カッコ良かったです」

「リリ……有難う」

「そうだね。皇帝の時の父上は、威厳もあるしね」

「はい、兄さま。驚きました」


 うん、本当に父の印象が変わったよ。

 ちゃんと良い皇帝だった。この皇帝が治める国に、生まれて良かったと思うよ。自慢の父だ。普段のお花畑の父は、この際だから少しだけ横に置いておこう。


「シェフ、じゃあ明日、炊き出しできる様に準備してくれないかしら?」

「はい、エイル様。メニューはどうしましょうか?」

「そうね……リリ」

「え? 母さま、ボクですか?」

「だって、リリの方が色々知ってるじゃない?」


 あー、それは母よ。丸投げ、てヤツですね……言い出しっぺなのに。




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