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189ー兵士達の罰

「それと、リリ。あの元兵士達の仲間には、会ったのか?」

「あ……、兄さま忘れてました。どうしましょう」


 それもあったか。マジ、忘れてたな。


「彼等は復帰できるそうだよ」

「兄さま、それは良かったです」

「ああ、元々辞めさせられた理由が理由だったからね。でも、リリ。襲撃の事は良いのかい?」

「兄さま、どうしましょう。怪我人が出てますからね」

「まあ、会いに行ってみようか?」

「会えるのですか?」

「ああ」


 クーファルに連れられて、城の兵士達の詰所に向かう。歩いていると、周りが何だ? この人達は? て、目で見ている。

 帝国だと、俺達皇族が騎士団の詰所に出向くのは、ごく普通の事だ。初代皇帝が、普通にどこにでも足を運ぶ人物だったそうで、その名残だ。

 皇族と言えど、驕り高ぶるなと言う意味もあるそうだ。


「兄さま、凄い見られてますね」

「ああ。王国では王族はもちろん、貴族も城を守っている兵士達の詰所に来る事はないそうだ」

「はぁ……」

「呆れるだろう?」

「はい。同じ人間なのに。たまたま貴族の家に生まれただけなのに」

「そうだね」

「そんな事をしているから、勘違いするんだ」

「リリ、その通りだ」



 詰所に着いて、オクソールが中に声をかける。


「殿下、どうぞ」


 クーファルに続いて、中に入る。


「殿下!!」


 ああ、襲撃してきた元兵士4人の中の1人だ。


「こんな所まで来て頂かなくても、呼び出して頂ければ」

「いや、見ておきたかったんだ」

「クーファル殿下。この度はご温情を有難うございました!」


 ん? クーファル、また色々してくれてたのか?


「ああ、復隊できて良かったね」

「有難うございます!」


 慌てて残り3人も出てきて、頭を下げた。


「元気そうで良かったよ」

「リリアス殿下、申し訳ありませんでした!」


 男達が、頭を下げたり、殿下と呼ぶものだから、周りの兵士達まで畏まってしまって固まっている。


「あー、あの皆さん。ボク達の事は気にしないで。お仕事して下さい」

「リリアス殿下、この国では王族や貴族の方が、この様な所に来られる事はないのです。ですので、皆緊張していて」


 クーファルが一歩前に出た。兵士達が一斉に跪く。


「私達は、王国の者ではない。帝国の皇子だ。私は第2皇子のクーファル。これは第5皇子のリリアスだ。

 帝国では、兵と皇族との距離は近いんだ。私は、今王国に来ている第2騎士団の責任者をしているが、全員の顔と名前を知っている。リリアスもそうだ。

 一緒に鍛練もするし、一緒に食事もする。だから、私達にとっては普通の事なんだ。皆、今は緊張しているかも知れないが、これから君たちの王国も変わるだろう。もっと、王族との距離が近くなるかも知れない。その分、守る事も増えるだろう。

 君達は、民の暮らしも、王族や貴族達の暮らしも見て知っている。良い架け橋になってくれれば良いと思うよ。両方守れる兵士になってくれる事を期待している」

「有難うございます!!」


 兵士達が皆一礼した。


「少し彼等に話があるから、来ただけなんだ。皆気にしないでくれないか? ね、リリ」

「はい、兄さま」


 襲撃してきた兵士の横にいた者が、一歩前に出た。

 関係ない兵士達が、一礼してバラバラと持ち場に戻っていく。


「私は彼らの団長をしております! 話は彼等から聞きました。大変ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした! リリアス殿下、本当に申し訳ございません。

 罰を受けなければ、なりません。どんな処罰でも、受けさせます。どうか、彼等の命を奪う事だけはお許し頂けないでしょうか?」


 いやいや、そんなつもりないし。すっかり忘れてたし。


「団長さん、そんなつもりはないです」

「しかし、殿下。彼等は無関係の民を傷つけました」

「そうなんだよね。それがね……」


 そうなんだ。それがなければこのまま、良かったね、で済むんだよ。


「兄さま、どうしましょう?」

「さあ、リリ。どうしようか?」

「んん〜……」


 こんな時、前世ではどんな罰則があったっけ? なんかないかなぁ……そうだなぁ……


「兄さま、ボクが決めてもいいのですか?」

「ああ。何か考えがあるのかな?」

「でも……それが適当かどうかは……」

「リリ、構わない。言ってみなさい」

「はい、兄さま」


 俺は、兵士達を改めて見た。


「ボクは、どんな理由があっても、人を傷付ける事は駄目だと思っています。帝国の、鉱山で働いている無関係の人達が、傷付きました。それは、許される事ではありません。ですから、貴方達には償ってもらいます」

「はッ!」


 鉱山を襲撃した4人が、再度跪いた。


「王都の街の、清掃活動をして下さい。下町やスラムもです。隅から隅までです。少しずつでいいです。王都全てを清掃して回ったら、それで罰は終わりにします」

「……殿下、清掃ですか……?」

「うん。お掃除だね」

「それが、刑罰ですか?」

「うん、そう。言っておくけど、簡単じゃないよ? 王都は広いし、路地も入り組んでいる。全てだよ。全部の路地をお掃除するの。大変だよ?」

「殿下……!」

「この王都を見て、思ったんだ。汚いし臭い」

「ああ……」

「だからね、綺麗にして下さい! お掃除していて、路地に人が倒れていたら無視しちゃ駄目だよ。困っている人がいたら、知らん顔したら駄目だよ。ちゃんと助けてね。下町も、スラムも全部です!」

「はッ! 殿下、必ず!」

「ハハハ。リリは本当に、意外な事を考えつくよね」

「兄さま、そうですか? だって、牢に入るだけだと、食費が掛かって何の役にも立たないし。今の王都は、このままだと病が発生しそうな位汚い。お掃除したら、街は綺麗になるでしょ? その内、王都の人達と話すようになるでしょ? 何より、兵士がウロウロしているだけで、犯罪の抑止力になります」

「そうだね。良い考えだ」

「手伝おうと思う人がいたら、お手伝いしてもいいよ」


 ――やりますよ!

 ――皆で、王都を綺麗にします!

 ――もちろん、やります!


 側で聞いていた兵士達が、口々にそう言った。

 うん。良いんじゃないか?


「殿下のお気持ちを、無駄にはしません! 有難う御座います!」


 うん、少しでもやってくれたら良しとしよう。


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