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188ーアウーリ

 ヘリウス・マールンの案内で、一軒の家に来た。ヘリウスの店から、徒歩でほんの数分の距離だ。 

 王都に出てきた若者だけではなくて、使用人も暮らしているらしい。


「ヘリウスさん、どうしました?」


 中に入ると、早速一人の男の子が声を掛けてきた。


「ちょっと人を探していてね」

「誰ですか?」

「アウーリて少年を知らないか?」

「ああ、アウーリなら、今ヘリウスさんの店の仕事を、手伝っているじゃないですか」

「え?」

「え?」

 最初の「え?」は俺。

 次の「え?」がヘリウス。


「私の店を?」

「ヘリウスさん、忘れたんですか? こいつは見込みがある、て半年位前かな? 無理矢理引っ張って行ったじゃないですか」

「半年……あ! 彼か!」

「ヘリウス……」

「で……いや、リリ様! 申し訳ありません。忘れてました!」


 なんなんだよ! こいつは!


「リリ様。彼の事はアリと呼んでいたので!」


 いや、どうでもいいよ。


「ヘリウス、戻ろう」

「はい、リリ様!」


 はい、戻ってきました。またヘリウスの店です。


「君がアウーリ?」

「はい。そうです」


 すごく呆気なく見つかっちゃったよ。


「君のご両親からお手紙を預かっているんだ。帰って来い、って言っていたよ」


 そう言いながら、預かっていた手紙を渡す。

 宿屋の主人よりも、女将さんに良く似た金髪に茶色の瞳の少年だ。


「はあ、親父は字が苦手なのに……」

「うん。お母さんが書く、て言ってたよ」

 

 アウーリが手紙を読む。


「はぁ……あの、あなたがリリ様ですか?」

「うん」

「両親や、町の人が世話になったみたいで……妹の耳も治して頂いて、有難うございます」

「うん、気にしないで」

「えっと……ですが俺、帰りません」

「どうして? もう食べ物の心配はいらないよ?」

「はい。手紙に書いてありました。でも、俺。ここで、ヘリウスさんの店を手伝いたいんです」

「あら、そうなの? ヘリウスどう?」

「まあ、見込みがあるので、引っ張ってきたんで」

「そう。でも、ご両親が心配してるよ?」

「はい。手紙を書きます」

「本当に?」

「はい」

「良いご両親だから、心配かけないでね」

「はい」


 そっか。じゃあ、俺どうしよう? する事なくなったぜ?


「リリ様、そう言う事なら、もう良いんじゃないですか?」

「オク、そう?」

「はい。仕事を見つけて働いている訳ですし」


 だけど、少しな。俺の希望だ。


「んー……まあ。ねえ、アウーリ。勉強はしている?」

「勉強ですか?」

「うん。店の仕事だけじゃなくてね。ちゃんと、勉強もしなきゃ駄目」

「はあ……」

「ヘリウス、お願いがある」

「はい! リリ様! 何なりと!」

「店の事を教えるだけじゃなくて、彼等に学問も学ばせてあげてくれない?」

「学問ですか?」

「そう。文学でもいいし、商人に必要な計算でもいい。ちゃんと教育を受けさせて、考える力をつけて欲しいんだ。

 この国の人達は、考えて工夫をして努力する事が足りない」

「なるほど。分かりました。早速、教師をつけましょう」

「お願い。アウーリだけじゃなくて、みんなにだよ」

「あの、必要ですか?」


 アウーリが不思議そうな顔をしている。


「アウーリ、教育を受ける事は、君たちの権利なんだ。いずれは、君たちの生きる武器になる。自分を守ってくれる。未来の選択肢が増える。教育を受けると言う事は、そう言う事なんだよ」

「はあ……」

「リリ様! 素晴らしい!」

「これから、帝国の商人もやって来る様になるだろう。だけどね、そればかりに頼っていたら駄目だ。自分達で、生きる力をつけるんだ」

「はい」

「これから王国は変わって行くだろう。君たちの時代だ。君たちの子供が飢える事のない国を作るのは君たち自身なんだ」

「はい!」

「さすが殿下、素晴らしい!」


 あー、こいつ。殿下て言ったよ。


「え? 殿下?」

「いや、何でもないよ。じゃあ、必ずお手紙書いてご両親を安心させてあげてね」


 さっさとはけよう。


「オク、リュカ行こう」

「はい」


 俺達は慌てて店を出る。


「リリ様、申し訳ありません!」

「いいけど。それより教育の事、頼んだよ」

「はい。お任せ下さい。必ず!」

「じゃあ、ボク戻るよ」

「あ、殿下。もう、帝国に戻られるのですか?」

「うん、もう用はないしね」

「そうですか……私、殿下にお会いする事ができて、幸せでございます! 人生が変わりました! また、是非いらして下さい。その時には、もっと良い国になってますよ!」

「アハハ、そうか。楽しみにしているよ。ヘリウス、彼等を頼んだよ」

「はい! 必ず!」


 俺は馬車に乗った。

 もう、あいつ普通に殿下て言ってるし。


「リリ様、行きます」

「うん。リュカお願い」


 そして、父達のいる城へ戻って行った。



「リリ、お帰り。早かったね」

「兄さま」


 城に戻ると、クーファルが待っていてくれた。心配してくれていたのかな。


「人を探していたのですが、すぐ見つかったんです」

「そうか」

「兄さま、こっちはどうですか?」

「ああ。宰相をはじめ、王の側にいた者達は見事に駄目だね」

「そうですか」

「まあ、あの公爵が本気みたいだから、大丈夫だろう。まだまだ、色々あるだろうけどね。ああ、それと」

「はい、何ですか?」

「一連の真実を、明日にでも触れが出される事になったよ。即刻、譲位だ」

「そうですか」

「譲位を見届けて、相互不可侵条約を締結してから帰る事になるよ」

「え、じゃあまだ暫くいるんですか?」

「そうだね。と、言っても2〜3日じゃないかな?」

「そうですか」

「リリ、王子二人と会談しなければならないよ」

「ボクもですか?」

「ああ、兄さまも一緒だけどね。リリの初めての外交だ」


 えー、勘弁してほしい。


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