187ー忘れてたよ
「失礼致します。公爵が来られました」
「入って頂きなさい」
父がそう言うと、前王弟で公爵のフロプト・ガルースト公爵が入ってきた。
フロプト・ガルースト公爵
前王の一番末の弟だ。ウェーブ掛かった肩下位の長さの、濃い茶色の髪を後ろで一つに結んでいる。
聡明そうな、蒼緑の瞳が印象的だ。
「陛下、度重なるご無礼を、申し訳ございません」
身体をガバッと折って頭を下げた。
「ああ、メイドの彼女は宰相に、両親を人質にとられていたみたいだよ?」
「はい。衛兵が向かっております。有難うございます」
ああ、もう気持ちがお疲れだね。ゲッソリしてるよ。
「それで?」
「民だけでなく、王国を助けて頂きました。王子二人も、助け出せました。有難うございます」
父が、黙って見ている。
「陛下……?」
「君は、何故王位を継いでいない?」
「前王の希望だったのです。息子に王位をと」
父よ……分かってると思うんだが。
「そうか? 本当に……?」
うん。父は分かってる。
「陛下……」
「私は帝国の人間だ。内政干渉はしない。と、言っても今更だが。
君は、今まで何をしてした? 君には、何が出来る? 後悔はないか?」
「陛下……お見通しですか……」
「私ではないがね」
「少し、お話を聞いて頂けますか?」
公爵は、静かに話し出した。
「私は、リリアス殿下と一緒で末っ子なのです。それに私の母は一番、位が低かった。王位継承なんて、思いもしませんでした。
私は兄弟の中で、変わり者でした。王国の今迄のやり方は間違っていると、私一人が兄に訴えていたのです。もっと、国力を底上げしないといずれは民が犠牲になる。
そんな事を言っていた私は、王族では変わり者だったのです。そんな私に、自信など何もありませんでした。ましてや、王位など……
ですので陛下。私は怖かったのです。自分が王位を継ぐなどとても……
しかし……あの甥が王位を継いで、この国は衰退の一途を辿りました。それでも私は目を塞いでいた。
王子二人が幽閉され、国中から食べ物が無くなり、それでもまだ私腹を肥やそうとする甥を止める事さえ出来ませんでした。いえ、しなかったのです。
そして、今回。クーファル殿下がこの国でされた事。こんなにお小さいリリアス殿下が民達に、して下さった事。それを聞いて私は……自分が恥ずかしくなりました。一体私は何をしているのだ? と。
陛下、私に10年下さいませんか? 10年頑張ってみます。まだ若い王子に、今の王国を任せるのは酷すぎる」
「公爵、勘違いしてはいけない。私は帝国の人間だ。王国の内政に、どうこう口を出す立場ではない」
「陛下……」
「だが、頑張る者を支援する事位は出来る。やってみなさい。私も皇帝になった頃は大変だったよ。今は息子達が支えてくれるから、呑気なものだがね」
「陛下! 有難うございます! この御恩は必ず!!」
「期待しているよ」
公爵は、頭を下げて退出していった。
「父さま、呑気だと分かっていたのですね?」
「リリ、酷いよ?」
「ボクは、父さまの頭の中に、時々お花畑が出来るのだと思ってました」
俺は、りんごジュースを飲む。
「え? リリの父様の印象て、そんな感じなのかい?」
「はい……コクンコクン」
「えぇー」
「でも……父さま。今日はカッコ良かったです。見直しました」
「リリ、そうか。クーファルそしてリリアス、よくやってくれた」
父はギュッと、俺を抱きしめた。
「父上、王子を救い出す必要もなくなりましたし、帰りますか」
「そうだね、クーファル」
あれ、何か忘れているぞ……?
「殿下、殿下。あれです。おっちゃんの息子です」
「あ……! リュカ、そうだった」
「リリ、なんだい?」
「父さま、ボクちょっと王都に出てきても良いですか?」
「いやいや、リリ。良い訳ないだろう?」
「んー、でもボクご用事があるのです」
「リリ、それは何かな?」
「兄さま。宿屋のおっちゃんと約束したのです」
「また、おっちゃん?」
「え? 兄さま何ですか?」
「リリは、おっちゃんの友達が多いんだね」
「そうですか?……コクン」
「ほら、辺境伯領にもおっちゃんがいたろう?」
「ああ、おっちゃんいますね」
「リリ、近所にちょっと散歩に行くみたいに言うけどね。危険なんだよ?」
「だって、父さま。その危険な所に無理矢理連れて来たのは、父さまです」
「いや、それを言ったらね」
「なんですか?」
「まあ……もう、仕方ないね。オクソール、リュカ。頼むよ」
「はい。陛下」
と言う訳でだな、俺は王都に出てきている訳だ。
ちゃんとお着替えしてさ。ちょっと小綺麗な商人の息子さ。
で、何してるかって?
覚えてるかな? 例の胡散臭い商人さ。ヘリウス・マールン
こいつがね……あ、ほら来たよ。
「リリ様! お待たせしました!」
「え、何? 一緒に行くの?」
「当然です! さあ、参りましょう! 名前は何でしたか?」
何故かさ、懐いてしまった訳よ。俺が王都に出ると聞いたらしくて待ち構えていた訳さ。
それで、このヘリウスの店に来ていたんだ。まあ、いいけどね。
「アウーリ、17歳。金髪に茶色の瞳だ」
「田舎から出て来た者は、大抵私が関わっている筈なんですがね。私が提供している家に行ってみましょう」
「そんなのがあるの?」
「はい。この近辺に3箇所あります」
「凄いじゃん」
「そうでもして保護しないと、盗みをしたり、人を殺めたりする様になるんですよ。逆もありますしね。若い子達が、そうなるのは放っておけませんから」
こいつ、本当に色々支援していたんだ。
爆破事件は間違った選択をしたが、こうして考えて支援するのは良い事だ。
「いえね、時々商人に向いている子がいるんですよ。そんな子を見つけた時は、もう体が震えますね」
んー……やっぱちょっと変?
オクソールとリュカが、少し引きながら付いてくる。
何故か小さいユキも、トコトコと付いてくる。ユキちゃん、ニルとお留守番していていいんだよ?