186ー前王弟
前王弟フロプト・ガルーストは片膝をついたまま続ける。
「あの時に皇女殿下から、婚約破棄をされたのは致し方ない事でございます。小さい末の弟君を、暗殺しようとしたのですから当然でございます。しかしその時に、第2王子は幽閉されました。
関税を撤廃されたのも、むしろそれで堪えて頂き感謝しなければなりません。ですのに、この王は関税が入らないからと帝国の商人達を国内に入れなかったのです。その様な事をすれば、たちまち民は困窮致します。それを指摘した第1王子を幽閉し、4年前の罪を王子達になすりつけ、王国中に嘘の触れを出したのです。そればかりか、また今回皇子殿下のお命を狙うなど。
4年前に皇帝陛下のご温情を頂いておきながら、また今回この様な事を仕出かす始末、大変申し訳なく……心よりお詫び申し上げます!
しかし今一度、ご温情を賜りたく。どうか、お許し頂けないでしょうか!」
前王弟、フロプト・ガルーストは父に向かって土下座した。
この世界でも土下座があるんだ……なんて呑気に俺は考えていた。
前王弟の真実の告白に、会場内が騒然とした。
「そなた、今申した事を王国中に公表できるか?」
「はい、もちろんにございます」
父の問いに間をあけず答えた前王弟。
「叔父上! 待って下さい! その様な……」
「黙りなさい!」
「あの時……兄上が亡くなられた時に、やはりお前を王にするのではなかった。
国民が、どれ程の思いをしているか、お前は分かっているのか! 隣国の皇子殿下の命を狙うなど、戦になっていても仕方のない事なのだぞ! それを皇帝陛下は、許して下さったのだ。なのに、お前は何をしている! そのだらけた身体は何だ!」
「お、叔父上……!」
「この場にいる者、先程の私の話を聞いていたな! 全て真実だ。今すぐ、触れを出せ! 真実を国民に知らせるのだ!」
「叔父上、そんな事をしたら……」
「したら、何だ? お前が王でいられなくなるか? ここまで王国を食い物にしておいて、まだ王の座にしがみつくか!」
「叔父上……」
「謹慎していなさい。王をお連れしろ! 今すぐ、第1、第2王子の幽閉を解くのだ!」
「ははッ!!」
うん、俺の出番はなかったね。良かった、良かった。
「な、何を勝手な……! 王国を、動かしているのは私だ! 私なんだ!!」
突然、宰相が短剣を取り出し、前王弟目掛けて突進して行った。
『シールド』
――ガキーン……!
「あ、あ、何故だ……!」
宰相の短剣は、前王弟に届かなかった。
寸前に俺がシールドをはったからな。
「宰相、第5皇子の力だ。私達は皆、魔法が使えるのだよ。忘れたか?」
父が、跪き項垂れている、宰相の頭の上から言い放った。
「宰相を牢へ!」
「はッ!」
「第5皇子殿下、有難うございます。かたじけのう御座います」
「お気になさらないで下さい」
「公爵、後の始末は任せてもよいか?」
「はい。お任せ下さい。皇帝陛下、此度の国内でのご慈悲に、心より感謝致します。
第2皇子殿下、第5皇子殿下、民を助けて頂き、有難う御座います」
ん? バレてた、て事か? クーファルをチラッと見ると、クーファルはニッコリ笑った。
あー……そうか。バレてたか。
俺達は、控え室に戻ってきた。
「殿下、ご無事でなによりです」
真っ先に、リュカがやってきた。
「リュカ、そっちは大丈夫だった?」
「はい、有難うございます」
「殿下、りんごジュースです」
「ニル、ありがとう。危なくなかった?」
「はい、大丈夫ですよ」
皆に、お茶が出された……ん? 待てよ……
「駄目! 飲まないで下さい!」
俺は立ち上がって、叫んだ。
「オク! そのメイド、捕まえて!」
「はッ!」
オクソールが一瞬で、俺が指したメイドを拘束する。
「飲んでいないですか? 飲んだ人は、毒消しがあるから言ってください!」
大丈夫そうだ。
「リリ、毒が入っていたのか?」
「はい、兄さま。皆、レジストするとは思いますが、飲まないに越した事はありませんから」
俺はオクソールが拘束したメイドに目を向ける。
『鑑定』
「……そうか。でも君、宰相はもう捕らえられたよ」
「そんな……!」
「大丈夫、もう宰相に何の力もない。君のご両親を、殺める者はもういない」
「あ……有難うございます!」
メイドが崩れ落ちた。
「オク、念の為宰相の動きを確認する方が良いね。それと、彼女のご両親も助けてあげて」
「はい」
オクソールは、騎士団にメイドを引き渡し、指示をしている。
「ニル、お願い」
「はい、殿下」
「ニルが、お茶も軽食も持っています。今はそれで、一息つきましょう」
ニルがマジックバッグから、お茶とクッキーを皆に出している。
「リリ、便利ね。やはりお母様欲しいわ」
「はい、母さま。いつでも言って下さい」
「リリ、父さまも欲しいよ」
「父さま、ユキまで使って、ちょっと演出しすぎではないですか?」
「リリ、何を言う。あれ位脅しておいて丁度良いんだ」
「父上、しかし公爵が出てくるとは、思いませんでしたね」
「ああ。クーファル、そうだな。リリ、鑑定したんだろう?」
「はい、父さま。どうして公爵が王位を継いでいないのか、不思議な位です」
「そうか。それ程か……」
俺の横でユキが、クッキーを口いっぱいにして食べていた。一仕事してくれた事だし、おつかれ様。