185ー国王と宰相
「リリ、サーチしているね?」
「はい、父さま」
「バインドしなさい」
「はい」
俺は謁見の間に入る前から、サーチを広げていた。
この部屋の外に数人、そして中にも数人。武器を持って待機している者を確認していた。その者達に意識を向ける。
『ライトバインド』
――ドサッ
――バタッ
――ドサッ
俺が心の中で詠唱すると同時に、外でも中でも人が倒れる音がした。
「騎士団!」
「はッ!」
オクソールが、護衛についていた騎士団に指示を出す。
彼方此方から、キラキラした光の鎖で拘束された黒尽くめの男達が引き摺り出された。
バンッと、扉の開く音がしソールを先頭に騎士団に引き摺られる様にして、連れて来られる光の鎖で拘束された者達。
いつもはバインドと言うと、アースバインドを使うんだけどね。見た目が地味だからさ。今日はキラキラした、光のバインドにしてみたよ。
父に言わせると、これも演出の一つだそうだ。
「さあ、これをどう説明するか?」
父が王を追い詰める。
「な、な、なんだこれは? どうなっている……!?」
王よ、とうとう腰が抜けたかな?
「この場にいる者、高位貴族か? 大臣か? 官僚共か? 他人事ではないぞ。お前達も同罪だ。今すぐに全員跪け!!」
父が声を張って言うと、王以外の全ての人が跪いた。
ところで父よ。
もう、クーファルはいいんじゃね? いつまで火の玉を出しとくんだよ。
そう思いながらクーファルを見ていると、父が合図し無事に火の玉は消えた。
「王よ。贅沢な衣装だな。それに良い物を食べているのか? その醜い腹は何だ?
お前達は、この国の民達がどの様な状況なのか把握していないのか! 食べる物がなく、餓死していく者がいる事を分かっていてやっているのか!」
「お前達帝国のせいじゃないか!!」
おお、この状況でこの言葉を言うとは。本当に……馬鹿なんじゃないかな?
「ほう……帝国のせいだと? 構わぬ、申してみよ」
馬鹿な男は、まだ下っ端官僚なのだろう。最後尾にいた。
声を震わせながら、男が訴える。
「4年前、帝国がいきなり第2王子との婚約を破棄した! それだけでなく、商人も来なくなった! 王子殿下が二人共、幽閉された! 帝国に脅されたから、仕方なくだそうじゃないか! 俺達が帝国に何をしたんだ! どうして、こんな仕打ちをする!」
呆れた……マジで呆れた。
「王よ。これは一体どう言う事だ?」
父がギロッと睨みつける。
「あ、あ……それ、それは……」
帝国の商人が来なくなったとは、どう言う事だ? 関税が掛からないんだぞ。商人にとっては、儲け時じゃないか。
「すべて話してもらおうか」
セティやソール達が、椅子を出してきた。言うまで終わらないぞ、と言う意思表示だ。俺はクーファルの隣に座った。
「ああ、紹介がまだだったな。リリアス、来なさい」
「はい」
呼ばれたぜ。俺はトコトコと父の隣に出て行く。
「お前達が、躍起になって暗殺しようとしていた我が帝国の第5皇子、リリアスだ」
俺は黙って父の横に立つ。
「わざわざ連れて来てやった。お前達を拘束したのも、第5皇子だ。ここにいる全ての者が一斉にかかってもリリアスは倒せないぞ。リリアス」
「はい、父さま」
『ユキ、おいで』
シュンッと風が吹いて、ユキが現れた。
「ヒィッ……!!」
「ひ、ひ、豹!?」
「リリ、我を呼んだか?」
「うん。ユキ有難う」
俺はユキを撫でる。
「これは第5皇子を守護している神獣だ。光の神の使徒だ。リリアスを害する者は、神獣が許さない」
「我が守護する皇子に、仇なす者がいるのか? 我が相手をしてやろう」
「し、し、喋った……!!」
王国側の誰かが言った。
「お、恐れながら申し上げます」
「そなたは?」
「はい。宰相を拝命しております、グラプス・ブリンデンと申します」
「で? 宰相が何だ?」
「皇帝陛下のお怒りは、ごもっともでございます。全て、王が私利私欲に目がくらみ、された事にございます。私共はお止めしたのですが、聞く耳を持って頂けず」
「な、な、何を言う! 其方とて、私腹を肥やしておるではないか! 其方が計画した事であろう!」
「第5皇子殿下のお命を狙うなど、とんでもない事にございます」
「ブリンデン侯爵! 第5皇子を殺せば光の神の加護は我が王国にと申したではないか!」
「私は何も! 全て王が!」
あー、もう。本当に嫌になる。
その時だ。謁見の間の扉が開いて一人の男性が入ってきた。
「お待ち下さい! 皇帝陛下!」
その男性は、父の前に片膝をついた。
「大変失礼致しました! 私は前王弟であり公爵のフロプト・ガルーストと申します。この甥の失礼の数々、心よりお詫び致します」
そう言って頭を下げた。
「ほう。そなたが」
「今ここに、全ての真実を明らかにし、謝罪致します! どうか、お怒りを収めて頂けないでしょうか!?」
父が俺を見る。俺は少し頷き、前王弟をジッと見る。
『鑑定』
……え、この人なんで王になってないの? 何やってんの?
俺がそう思うだけの、スキルと頭脳をこの前王弟は持っていた。
流石に魔力はほとんどないが、それでもこの人の知識と人望があれば、普通に良い王になっていただろうに。
まだ若いしさ。前世の俺より少し年下位じゃねーか? なんだよ、頑張ろうぜ。
そう思いながら、父に向かって小さく頷く。
「話を聞こうか」
さっきまで、揉めていた王と宰相はピタッと静かになった。
「有難うございます。まずは、4年前の第5皇子殿下襲撃の件に関しまして、深くお詫び致します。
皇帝陛下、側妃殿下、大変申し訳ございません。また、リリアス殿下。お小さい殿下に怖い思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げた。