184ー謁見の間
無事に夕食を済ませて、俺に充てがわれた部屋に戻る。
「殿下、明日は国王に謁見ですよ。その後に、ガルースト公爵ともお会いするそうです」
「そっか。ニル、なんか胡散臭くない?」
「そうですね。公爵様がついていながら、幽閉されると言うのも」
「そうなんだよ。公爵か王子達がよっぽど馬鹿なのか。国王側にキレる奴がいるのか」
「そうですね。そう言えば父が……」
「セティが何?」
「宰相が切れ者だと、聞いた覚えがあります」
「宰相かぁ……」
悪代官みたいなもんなんかね。
お主も悪よのぉ、みたいな。ププッ。
その日は平和に過ぎていき、翌日。
俺は公式用の、キラキラVer.の皇子様ルックだ。
5歳のお披露目パーティーに着た時の服の様な感じで、しかも儀礼バージョンだ。
儀礼バージョンなので、今日は俺もサッシュをつけている。ソードベルトの代わりに、お飾りのチェーンベルトだ。腰には、愛用の小さなマジックバッグ。今日は魔石と、ちょとした武器も入れてある。
「殿下、準備は宜しいでしょうか?」
オクソールだ。今日はオクソールも礼装をしている。
儀礼用の白の団服に、ネイビーブルーのマントだ。
この格好のオクソールも、お披露目パーティーの時に見ている。
「うん、いいよ。行こうか」
オクソールの後ろにリュカがいた。従者の儀礼用の制服を着ている。
「リュカ、今日は一緒に行けるの?」
「謁見の間には入れませんが、直前までお供致します」
「そっか。あと扉一つだね」
「はい、殿下」
そうか。リュカよく頑張った。あと本当に扉一つだ。騎士の叙任式を終えたら、その扉もなくなるだろう。
途中、クーファルと一緒になる。
クーファルも儀礼用の皇子様ルックだ。
俺とは違う。俺はどうもピアノか何かの発表会の様な感じになるが、流石クーファルはオーラが違う。ただでさえイケメンなのに。反則だぜ。
「リリ、どうした?」
「兄さま、カッコいいですね」
「おや、有難う。リリも可愛いよ」
「ハァ……まだ可愛いですか。まあ、まだ半ズボンですからね」
そう、俺はまだ膝丈の半ズボンにブーツだ。豪華な刺繍の入ったベストに膝丈のジャケット。中は襟と袖がフリフリのシャツに、ネクタイ代わりのふんわりおリボン。足元はハーフブーツだ。
クーファルは、同じ様な豪華な刺繍のベストに、膝下丈のジャケット。
ネクタイではなく、クラバットだ。上から俺と同じサッシュをつけていて、細身のパンツを、ロングブーツにインしている。
足なげーな。何等身なんだよ。
「リリ、何かな?」
「兄さま、ボクはカッコいいと、言われる日が来るのでしょうか?」
「ん? アハハ。リリはカッコよくなるよ。今でさえ、こんなに可愛いんだから」
前を父と母が歩いていた。
父と母は、襟が白でフワフワした豪華なルビーレッドのマントを羽織っている。
「まあ、リリ。とっても可愛いわ!」
「母さま……有難うございます」
「あら? リリ、どうかしたのかしら?」
「リリはカッコいいと、言われたいそうですよ」
「まあ、リリにはまだ早いわ。でも、クーファル兄上みたいに、カッコよくなりたいと思ったのね?」
「はい、母さま」
「見かけだけだと、駄目だわ」
「はい」
「まだまだこれからよ。今は可愛いリリでいて欲しいわ」
「はい、母さま」
「さあ、皆いいかな?」
謁見の間の前だ。
リュカ達従者はここまでだ。
セティと、ソールの側近二人は俺たちの後ろについて入る。
そして、いつもは黒っぽいグレーの隊服を着ている騎士団達も、今日はオクソールと一緒で儀礼用の白の隊服を着ている。
隊長以外は、マントはない。儀礼用のマントは、騎士として叙爵された1等から3等騎士だけらしい。
「皆、ネックレスはしてますか?」
俺は最後に確認する。全員、頷いた。よし、行くぞ。
父を先頭に、謁見の間に入って行く。
俺達が進む所に、真紅の絨毯が敷かれ、まだ午前中なのに夜会の様にライトが灯され、花や訳の分からない飾り付けがしてある。
真紅の絨毯の先には、エンジ色に金色の縁取りをしたマントを着け、金色の杖を持ち、金色の王冠を頭にのせた、でっぷりとした腹の王が座っていた。
父は王の前に出たが、身動きしない。
宰相らしき人物が、焦っている。
「皇帝陛下、ガルースト王の御前でございます」
「それがどうした。我が帝国は、貴国の属国ではないのだがな」
俺の知らない父の低い声が、響いた。空気が、ピシッと張り詰めた。
立てよ、お前。て、事だろう。
「皇帝陛下、並びに殿下方、改めて歓迎致しますぞ」
やっと、王は立ち上がって歓迎の意を口にした。
めっちゃ汗かいてるじゃねーか。冷や汗か? もしかして、父よ。威圧をとばしたりしたか? やってそうだ。
「私は来たくはなかったのだが、4年前の約束を忘れられた様なのでな。今回改めて、異議申し立てに参った」
そこには、俺が今迄見た事のない父が……皇帝がいた。
謁見の間の室温が数度下がる。ピリピリとした空気が頬を引き攣らせる。
父よ……氷魔法で自ら演出するのは止めろ。
「な、何をおっしゃる」
ああ、魔法が日常でないから、もう空気に呑まれている。
「私の息子が4年前に警告したはずだが? 我が帝国に二度と手を出すなと。″警告″をな」
「な、な、何を……我は何もしていない。言いがかりだ」
王よ、大丈夫か? 少し考えたら分かるだろう? ハッタリでわざわざ、皇帝自らが出てくる訳ないだろう。そのデップリした腹を括れよ。
「騎士団、連れて来なさい」
「はッ!」
騎士団の隊員が連れて来たのは、鉱山襲撃者の4名だ。あれ? 何で4名だけ?
「王様! お許し下さい!」
跪かされた4名のうち、リーダー格であろう男がいきなり叫んだ。
「何を! 我はこの様な者は知らぬ!」
「王様! 襲撃に失敗致しました! どうか、私の命で償わせて下さい! かわりに、この者達はどうかお許し下さい!」
あー、言っちゃったよ。本当に王国の人て馬鹿なの? 襲撃に失敗したと、ハッキリ言っちゃったよ。
「知らん! 我は知らん!」
「王よ。4年前にハッキリ言ったはずだ。次はないと思えと。今すぐにこの国を吹き飛ばす事もできるのだぞ。クーファル」
「はッ、父上」
クーファルがそう言って少し離れて距離をとる。掌を上に向け、突然特大の火の玉を出した。
あー、本当に火の玉を出して脅してたんだ……なるほど~
「止めろ! いきなり何をする!」
「止めろだと?」
「い、い、いや、どうか止めて下さい!」
「次はないと言った筈だ」
「あ……あ……」
王がもう既に立っていられない様だ。
足に力が入らないのだろう。膝をついた。