182ーヘリウス・マールン
俺は表情を変えず感情を抑えて、ヘリウス・マールンに尋ねる。
「じゃあ、爆弾を用意したのは、貴方ですか?」
ヘリウスの顔が引きつった。
「殿下、それには色々事情が御座いまして……」
「どんな理由があっても、人の命を脅かす事をした言い訳にはならない。
ボクはそんな力は認めない……許さない」
俺が睨みながらそう言うと、ヘリウスは跪いた。
「大変、申し訳ございません!」
「彼等は、ボクを誘き出す為だと言っていた」
「殿下、もうどうしようも無く、打つ手がなかったのです!」
「だからと言って、命を狙っても良いのか! 全く関係ない人達が、大勢死ぬかもしれなかったのだぞ!」
俺はヘリウスを睨みつけた。
超むかつく! このおっさんも考えられない人間なのか!?
自分の欲の事しか考えられないのか!
何が支援だ! 何が打つ手がないだ!
「どうか、どうか! 罪滅ぼしをさせて下さい! 陛下や殿下のお力になりましょう! 私に出来る事なら、何でも致します! どうか! お許し下さい!」
ヘリウスは大袈裟に、身振り手振りで言い頭を下げた。
お力になりましょうだと!? 何を言っている!
「そんな事がどうして謝罪になる! ボクを舐めているのか!」
こんな奴、許せるかよ!
「リリよ」
ユキがブワッと大きくなった。
と、瞬時にヘリウスを倒し背に前足をのせた。
「ヒッ……!!」
ヘリウスが真っ青な顔をして、こっちを見ている。
「それはボクを守護している神獣だ。ボクが一言言えば、貴方の命などアッと言う間に消える」
「殿下、どうかお許しを! お、お許し下さい!!」
「命を狙われた気分はどうだ? 狙う側から、狙われる側になった気分はどうだ!」
「殿下、浅はかな事を致しました。
申し訳ございません……どうか、お許しください……!」
ヘリウスはもう半泣きだ。
ソールが目配せしている。クソッ、仕方ないな。
「ユキ」
俺が声を掛けると、ユキが前足を離して俺の側に来た。
「ヒィ……!」
恐怖で腰が抜けたか? ヘリウスは立ち上がれないでいる。
「良いか。ボクは人の命を狙う者は決して許さない」
「はっ……リリアス殿下!」
ヘリウスはもう土下座状態だ。
「殿下、お着替え下さい。こちらです。ご案内致します」
一室に通された。
「殿下……」
「ん? ソール何?」
「ご立派でございました」
「ハハハ。ソール、何言ってんの?」
「殿下のご成長を、嬉しく思います。よくぞ、仰いました」
「ソール。ボクはね、本当に怒っているんだ。この国の王や貴族達は何をしている。
ヘリウスだって商人だろ? 何だ、あの貴族の様な格好に振る舞いは。商人なら、品物を売って商売するのが、本当だろう?
王国には食べる物がなくて、飢えている人達が沢山いる。なのに、彼等は何をしているんだ?」
「殿下の仰る通りにございます」
ニルがバタバタと、着替えを用意してくれている。
ユキはまた小さくなって、ソファーでおやすみだ。
オクソールとリュカ、シェフは別室で着替えているらしい。
「殿下、着替えられましたら、馬車を乗り換えて頂いて城に入ります。呉々も油断なさいませんよう」
「ソール、分かった」
ニルが着替えを手早く手伝ってくれる。
「ニル、いいよ。ニルも着替えてきて」
「はい、殿下。では、失礼致します」
入れ違いで、オクソールとリュカが入ってきた。
「殿下、やるなら一言言っといて下さいよ。ビックリしました」
「リュカ、黙ってろ」
「オク、いいよ。別にあんな事、するつもりはなかったよ。でも、ムカついちゃって」
「殿下、ご立派でした」
「オク、やめて。今ソールにも、言われたとこなんだよ」
「りゃりりゅりぇりょと、仰っていた殿下がと思うと」
「オク……そこは可愛いかったと言って」
俺はソファーに座って、マジックバッグからりんごジュースを出して飲んだ。
オクソールの軽口で、少し気持ちが落ち着いた。有難うよ。
「コクン……コクン」
「殿下、りんごジュース持ち歩いてるんですか?」
「うん。リュカ、りんごジュースは大事……コクン」
「ククク……」
あ、ソールに笑われたぜ。和むね。
ちょっとピリピリしちゃったからね。
「リリ、我も欲しい」
「ん、ちょっと待って。入れ物がないや」
「殿下、こちらに」
ソールが、部屋にあったティーカップを持ってきてくれた。
「ソール、ありがとう」
俺はりんごジュースをユキに入れてあげる。
ユキは、ペロペロと舐めている。小さいと、本当に猫みたいだ。
可愛いすぎるぜ! モフリたいぜ!
「殿下、お待たせ致しました」
「ニル、大丈夫だよ。じゃあソール、行こうか」
「はい、殿下。ご案内致します」
商会の建物の表に、堂々と帝国製の立派な馬車をつけてある。
此処からは、御者がいる。オクソールとシェフ、リュカも馬だ。
ニルとユキは一緒に馬車に乗る。
先頭をソールの馬が行く。
さっきの商人、ヘリウス・マールンが、馬車の後ろで頭を下げて見送っている。こいつ……俺は嫌いだ。
馬車が貴族街に入って行く。貴族街の入り口に門があって、警備の兵がいる。帝国ではあり得ない事だ。
なんなんだ? どんだけ偉そうなんだよ。
お前らは特別だって言いたいのか? 皆同じ人間なんだよ!
貴族街は、外と違って綺麗な街並みだった。貴族専用の店もあり、優雅に貴族達がお茶を飲んでいる。
着飾った貴族がチラホラいる。その貴族達の従者か侍女だろう。綺麗な制服を着て後をついて行く。
民はボロボロで、食べる物もないというのに。ふざけやがって!
「殿下」
「ニル、分かってる。ここは王国だ。帝国じゃない」
「そうです」
だが! 腹立つもんは、腹立つんだよ!
「殿下……」
「分かってるよ」
馬車が城に入って行く。
煌びやかで、華やかな城だ。立っている兵士達もピカピカだ。
ソールが通ると、兵士達が敬礼をしている。
さあ、俺は来たぞ。狙えるものなら、狙うがいいさ。
絶対に返り討ちにしてやるよ‼︎