181ー王都
翌朝、早くに俺達は出立の準備をした。
下におりていくと、シェフがもう朝食の用意をしていた。
「坊ちゃん、行くのか?」
「うん。王都を目指さなきゃ」
「坊ちゃん、有難うございました」
「あり……が……う!」
女将さんと、娘が礼を言ってくれる。
「ボクこそ、楽しかったよ。ありがとう」
皆一緒に朝食を食べた。
「おっちゃん、じゃあね!」
「おう! 気をつけて行くんだよ!」
「うん、ありがとう」
宿屋を出ると、町の人達が集まっていた。
オクとシェフはもう馬の側にいる。リュカは荷馬車の御者席だ。
ニルはユキを抱っこしながら、俺の横にいる。
「どうしたの?」
「坊ちゃん、みんな礼を言いたいんだ。坊ちゃんのお陰で食べていける」
「やめて、そんな大袈裟なもんじゃないから」
「でも、坊ちゃんが来なかったら俺達はずっと飢えたままだった。有難うよ。本当に感謝する。
娘の耳も治してくれて、本当に有難う」
「おっちゃん、ボクは出来る事をしただけだよ。
みんな、頑張ってね。みんなで協力して頑張って生きていってね」
「ああ、有難う」
――有難うー!
――有難うございました!
みな、口々に言ってくれる。良かった。少しでも助けられたかな?
さあ、次だ。
「ニル、行こう」
「はい、リリ様」
ニルと、荷馬車に乗る。
オクソールとシェフも馬に乗った。
オクソールの合図で、リュカが荷馬車を出す。
まだ、町の人達が見送ってくれる。
俺は大きく手を振った。
馬車は王都を目指して、ガラガラと進む。荷馬車だけど、帝国製だから俺の可愛いお尻も平気さ。いつもの様に俺がいつコテンと寝てしまっても大丈夫なように、クッションがいくつもある。
商人なのに、馬車には商品がほとんど積まれていないとは、これ如何に。ぷぷぷ。超胡散くせー。
「ニル、でも酷かったね」
「はい。これほどとは思いませんでした」
「でもね……」
「リリ様、どうされました?」
「普通さ、食べ物がなかったら何とかしようとしないかな? あの町の人達は、何もしていなかった」
「はい。そうですね……」
「商人が来るのを待つだけなのかな。ずっと来なかったら、どうするつもりだったんだろう」
「リリ様、もしかしてですが……」
「うん、ニル何?」
「どうすれば良いのかも、分からなかったのではないでしょうか?」
「どう言う事?」
「先日も申しましたが、教育を受けておりません。あの町でも、文字を読めて書ける者が、数える位しかおりませんでした」
「そうだね。おっちゃんも宿屋て商売をしているのに、文字を書くのが苦手だと言っていた」
「はい。ですから、考える力が不足しているのではないかと。
帝国では、当たり前の事でもこの国の人達にとっては、考えもつかない事なのかも知れません」
「そっか……そうかも。それって、不幸な事だよね」
「はい」
そうして、俺達は次の町でも同じ様に食事を振る舞い、食料を分け、畑を耕し、狩りを教えたりして、王都に向かって進んでいた。
「リリ様、今日野営をしたら、明日は王都に入りますよ」
「オク、そう。少し時間かけすぎたかな。父さま達はどの辺かな?」
「今朝の定時連絡で聞きましたが、今日王都に入られるそうです。
陛下の方は、クーファル殿下が色々されたらしいです」
「そう。兄さまが。やっぱ、兄さま考えてくれてたんだね」
「はい」
「リリ様、で、おっちゃんの息子を探しますか?」
「うん。リュカ、探すよ。
でも、先に父さまと合流しなきゃ。オク、ボクも公式の謁見には、出なきゃ駄目なんでしょう?」
「はい。こちらからは、殿下も同行すると伝えてありますから」
「オク、それってさぁ。王にしてみれば、絶好のチャンスじゃない?」
「チャンスですか?」
「うん。ボクを殺すチャンスだよ」
「なんか腹立ちますね」
「リュカ」
「だって殿下、そう考えただけで腹立ちますよ」
「そう簡単には、やられないけどね」
「当たり前ですよ! てか、やらせませんよ!」
「リュカ、ありがとう。頼んだよ。でも、リュカも無事じゃないと駄目だよ?」
「はい。心得てます!」
そして翌日、俺達は王都に入った。
王都も、活気はなかった。至る所にボロボロの格好で道端に寝ている人がいる。それに、汚い、臭い。
「殿下、まだ下町だからですよ」
「ニル、いくら下町でも、帝都だとこんな事はないでしょ?」
いつも通り過ぎるだけだから、あんま知らねーけどさ。
だって、辺境伯領は綺麗だったよ?
「はい、そうですね」
「もうすぐ、商人街です」
「リュカ、商人街てなに? 商人が集まっている街て事?」
「そうです。王都は1番外側が、下町やスラムです。次が商人の家や、店が集まってます。で、城に近い中央寄りが、貴族街です。
この荷馬車じゃ、貴族街に入れないので、商人街で乗り換えます」
「分かった」
商人街に入ると、ソールが待っていた。
ピアス型の魔道具、役に立ってるみたいで良かったわ。
「殿下、ご無事で何よりです」
「ソール、ありがとう」
「こちらの商人が協力してくれています。中で、お着替え下さい」
「分かった」
ニルと馬車をおりて商会に入る。相変わらず、ユキはニルの腕の中だ。
商人街に入ると、少し治安がマシみたいだ。道端で寝ている人も少ない。
しかし……やはり物がないのが見て取れる。開いている店自体が少ない。
俺達は、応接室に通された。
「リリアス殿下、お初にお目に掛かります。私、ヘリウス・マールンと申します。
この王都で1番の、マールン商会を経営しております。どうぞ、お見知り置き下さい」
貴族の様な格好をした男が、わざとらしく挨拶をする。
ヘリウス・マールン
緩くウェーブの掛かったマロン色の髪を後ろに撫で付け、シルバーの瞳をした細身のアラフィフ位の男性。
口元を少し歪めて微笑む顔が、超胡散臭い。プンプン臭うぜ。
「初めまして。リリアスです」
「お目に掛かれて光栄にございます」
「殿下、マールン殿は、兵士や民達の第1王子派を、取りまとめておられます」
「そうなの?」
「はい。しかし力及ばず、王子殿下は幽閉されてしまいました。打つ手もなく、考えあぐねておりました」
「帝国に来た元兵士達の事も知っているの?」
「はい。私共が援助しておりました」
援助だと……? こいつ、何自慢気に言ってんだ?




