179ー狩りと釣り
午後からは、男達は二手に分かれて狩りと釣りだ。
ニルは、女性や子供達を連れて野草を採りに行った。
釣りは、近所のリーゼ河の支流に、男達数人を連れてシェフが向かう。
シェフは何故か、辺境伯領で使った釣竿をマジックバッグに入れていた。
マジ、なんとかポケットかよ。
狩りはオクソールとリュカだ。こっちも男達数人を連れて行く。
俺は狩りについてきた。
町の人達に、剣は無理かも知れないので、オクソールとリュカが即席で弓を作った。
ま、どっちも試してみよう。
「へえ、リュカも出来るんだね」
「で……んん! リリ様、俺は狩猟民族ですよ?」
「ああ、そっか」
リュカが器用に弓を作る。リュカ、殿下て言いかけたよな。
――おおーー!!
町の男達が歓声をあげている。
あー、オクソールが面倒になって、剣で仕留めたな。
「まあ、剣が使えるとそうなるよね」
「リリ様、罠も教えておきましょう」
「うん。そうだね。安全だしね。でもさ、辺境伯領で魔物を見てるからさ、なんかへちょいよね。可愛いと言うかさぁ」
「そうっスね。獣も狩られた事がないんでしょうね。全然警戒してないですよ。こんなの楽勝っスね」
「ハハハ、本当だ」
「そうなのか?」
うおぉッ! ビックリしたぜ。おっちゃんが後ろから、ヒョコッと顔を出した。
「おっちゃん、ビックリするじゃん」
「魔物を見た事あんのか? スゲーな!」
「あるどころか、リリ様は魔法でガンガン仕留めますよ。シェフも凄いっスよ」
「そうなのか!? 帝国てスゲーんだな」
「魔物がいる土地だから、仕方ないよ」
「坊っちゃん、スゲーんだな」
おっちゃん、さっきからスゲーしか言ってないぞ? 語彙力よ、どこいった?
「ほら、こっちだと野うさぎでしょ? 帝国だと角うさぎだからね」
「角……!! 坊っちゃん、魔物じゃねーか!」
「そうっスね。シェフが、ウホウホと狩ってましたね」
「そうそう。あの時はほら、ワイバーンだよ」
「アハハハ! あれは傑作でしたねー!」
「ワイバーン!?」
「うん。シェフがね、ワイバーンの尻尾を切り落としてさ!」
「そうそう! 嬉しそうに、さっさと尻尾引きずってどっか行ったんスよね!」
「リュカ、あれは笑ったね!」
「なんか……スゲー話してるな」
「おっちゃん、帝国だと普通だよ?」
「そうなんだな……」
「うん。町も全然違うよ。頑丈な防御壁で囲まれてるもん」
「防御壁か……」
「うん。そんな環境で生きてきたんだ」
「そうか……」
「おっちゃん、そうなんだよ」
「坊ちゃんが言ってた、王が帝国の皇子を暗殺しようとしたのは本当なのか?」
「うん」
「いつだ?」
「えっとね、4年前だ」
「4年前……帝国から第2皇子が来た頃か」
「そう。その時に暗殺の命を受けた工作員を護送したんだ」
「……なんて馬鹿な事を」
「生きてきた環境が全然違うからね。騎士団の強さには敵わないよ」
「そうか……坊ちゃん、朝話した王都にいる俺の息子に、是非会ってやってくれねーか?」
「会えるかな?」
「あいつは、食っていけないからってさ、自分だけでも出て行くて言って、王都に行ったんだ」
「それって、自分がいなくなったら、食べていく負担が少しでも減るから、て事?」
「ああ、そうだ。あいつはまだ17歳なんだよ」
「そっか」
「帰って来いて、言ってやってくれねーかな」
「おっちゃん……」
「リリ様」
「リュカ、いいんだ。おっちゃん、息子さんの詳しい事教えて。お手紙書いてくれる?」
「俺、あんまり字が得意じゃねーんだよ」
「でも、何か証拠がないとさ」
「じゃあ、うちのに書かせるよ」
「うん。探してみるよ」
「坊ちゃん、有難うな。恩にきるよ」
「あ、リリ様。狩れたみたいですよ」
「そう? あー、本当だ」
オクソールと町の男達が、ワイワイと戻ってきた。手には野うさぎを何羽も持っている。
俺達は宿屋に戻ってきた。
調理場では、オクソールが捌き方を教えている。オクソール、何でもできんだな。
「坊ちゃん! 戻りました!」
「シェフ、どうだった?」
「いやーもう、入れ食いですよ!」
「そうなの!?」
シェフが持っていた、即席の魚を入れる容器を見ると、ピチピチはねている魚が沢山入っていた。
「凄いじゃん!」
「今まで、とってなかったんでしょうね。警戒心が全くないんですよ。餌がなくても食いつきますよ」
「えー、それは凄い!」
「夕食は豪華ですよ!」
そう言ってシェフは、調理場に入って行った。
ユキが後をついて行く。ユキは小さくなっていても、よく食べる。
「リリ様、戻りました」
「ニル、どうだった?」
「はい。少し茂みに入れば、野草が沢山ありましたよ。丘の方はまだ大丈夫です。土地も生きてますね」
「そっか。それも今迄とってなかった感じ?」
「そうですね。全くとっていなかった様です」
「そっか……」
「採りすぎてもいけないので、しっかり教えておきました」
「有難う。これで食べて行けるね」
「はい。大丈夫だと思いますよ。数ヶ月後には、ジャガイモとサツマイモも収穫できますし」
「うん。じゃあ、明日は次に移動しよう」
「はい」
少し考えて行動していれば、こんなに食べ物に困る事もなかっただろうに。
王国は一体どうなっているんだ?
その日の夕食はお祭り騒ぎだった。
町中の人がやって来て、皆で沢山食べた。
「坊ちゃん、坊ちゃん達のお陰で食べて行けるよ」
「良かった。おっちゃん、忘れないでね。
考えないと駄目だよ。
考える事を止めたら駄目だ。」
「ああ。よーく覚えておくよ。売り物に頼らなくても、こんなに食べれるものがあるんだ。俺達は今迄一体何をしていたんだ」
「試行錯誤してね。危ない事は駄目だけど、挑戦も必要だよ。
まず考えて、よーく考えて、やってみる事が大切だよ」
「ああ。分かった。坊ちゃんの様な、子供に教えられるなんてな」
「まあ、リリ様は特別ですけどね」
「そうか! そうだよな!」
リュカは本当に一言多い……
あー、ユキ。お腹がパンパンじゃねーか……