表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/442

178ー娘の耳

 畑はシェフとニルに任せて、俺はおっちゃんを連れて、オクソールとリュカと一緒に宿屋に戻る。


「女将さん、娘さんていくつ?」

「9歳です」


 え、俺より上じゃん。ちゃんと食べられてないから成長が遅いんだ。

 耳が聞こえないのは、生まれつきと言ってたけど。


「耳は医師に見てもらった?」

「いや、そんな金ねーよ。医師なんて城にしかいないしな」


 マジかよ!? じゃあ病気になったらどーすんだよ!? ムカつくなぁ。なんなんだ、この国の王は!


「ちょっと見てもいい?」

「ああ」

「あんた…… 」

「まあ、どうなるもんでもねーだろう」


 俺は鑑定する……なるほど。妊娠中から栄養が足りてなかったのか。

 どーしたらいいんだ? もう一度だ。……鑑定。

 まあ、やってみるか。


「少し、触るよ。痛くないから大丈夫」


 少しおびえる女の子に言い聞かせて、て聞こえないんだった。俺は驚かせない様に、そうっと両耳を塞ぐ。


 『ヒール』


 とりあえずやってみたが、これじゃあ駄目だろうな。

 なんだっけなぁ……シオンが何か言ってたよなぁ。えっと……リ……リジェジェ?ジェジェ? いや、それは違うだろ。


『リリ、リジェネーションだよ』


 ん? この声は、ルーか?


『ああ、姿は出せないからね』


 俺、使った事ないけど大丈夫なのかよ?


『リリ、魔法は想像力だ!』


 嘘つけよ……まあ、いいか……やってみよう。

 ちゃんとすぐに発声できるように。聞こえるのは大丈夫だと思うんだ。問題は発声だよ。少しでも喋れる様にしてあげたい。

 耳の細部まで、喉の器官まで思い浮かべる。前世医者で良かった。


『リジェネーション』


 白い光が女の子を包んで、消えていった。


「どうかな? あんまり自信がないんだけど」


 俺がそう話しかけると、女の子の目から涙がポロポロ流れ出した。


「え、えッ!? 痛かった? 痛くないはずなんだけどな。ごめんよ」


 女の子が首をフルフルと横に振った。


「ち……ちが……き、聞こ……」

「えッ、聞こえる? 良かった」

「おか……ぁ……聞こぇ……!」

「ジェミナ!  聞こえるの!? 本当に!?」

「おと……! おか……! ち、ちゃ……きこぇ……!」


 女の子が一生懸命喋ろうとしているが、今迄ずっと喋れてなかったんだ。聞こえても、すぐには喋れないだろうな。掠れて声になってない。

 それでも『聞こえるよ!』と伝えたいのだろう。コクコクと何度も何度も頷いている。

 良かったぜ。ルー、ありがとうよ!


『ハハハ、僕にかかれば、どうって事ないさ』


 自慢気に小さな胸を張ってる姿が、目に浮かぶぜ。


「坊ちゃん! 坊ちゃん! 有難うよ! 本当に有難う!」


 俺は宿屋の主人に、ガシッと抱き締められた。


「ちゃんと治したからね。時間が経てばもっとしっかり喋れるようになるよ。毎日、無理しない程度に声を出す練習をしてね」


 宿屋のおっちゃん、メーニスと言うらしい。

 茶髪に紺色の瞳をした、無精髭のおっさんだ。ちゃんと食べていたら、スタイルは良いんだろうな。背は高いが、ガリガリだ。


 おっちゃんの奥さん、サウレだ。

 金髪を無造作にまとめていて、茶色の瞳の愛想の良いおばちゃんだ。

 やはり、食べられてないから痩せている。


 娘のジェミナ。

 俺より2歳上だが、俺より小さい。

 おっちゃんと同じ茶髪をおさげ髪にしている紺色の瞳の女の子だ。

 この子は鑑定して分かったんだが、母親のお腹にいる時から栄養が足りていなかった。でも、無事に生まれてくれて良かった。

 しかし、一体何年まともに食べてないんだよ? 俺を狙う前から食料は足りていなかった事になる。


 もう一人、息子がいるらしい。

 ここにいても食べれないからと、王都に行ったらしい。

 息子は、アウーリ。17歳。

 金髪に茶色の瞳をしているらしい。

 俺達も王都を目指しているから、縁があれば会えるかな?


「リュカ、シェフはまだ外かな?」

「いえ、先程戻ってきてますよ。リリ様の昼食を作ると言ってました」

「さすが、シェフだね。お腹すいちゃった」


「リリ様! お食事ですよ! さあ、皆さんも動いたらお腹が空いたでしょう! 食べて下さい! 沢山ありますからね! 遠慮はなしです!」


 シェフ、どんだけ食料持って来たんだ?


「リリ様、それはもう大量にです。私達も、持たされてますから」

「え!? オク、そうなの?」

「はい。多少使っても、どうと言う事はありません」


 スゲーな! シェフやるじゃん! 今回シェフは自分でもマジックバッグ2個持ってるんだぜ。出発前に俺に『もう1個欲しい』と、言ってきたから作ったんだ。


「みんな、食べよう!」


 昼食は俺の好きな、クリームパスタだった。


「チュルチュル……んまんま。美味しいー!」

「坊ちゃん、また見た事ない料理だな!」

「え? そう? 普通だよ?……んー!美味しい!」

「坊ちゃんよ、さっきみんなで話し合ったんだけどな」

「うん、何?……マジうま!」

「いや、夢中かよ!」

「……モグモグ……え? 何?」

「いや、いいよ。食べてからにするわ。」

「……? ニル、りんごジュースが欲しい」

「はい、リリ様」

「ニル、食べてる?」

「はい。食べてますよ。ほら、リリ様。こぼしますよ」

「あ……モグモグ……」

 

 ふう、よく食べたぜ。食べたら眠くなるぜ。


「坊ちゃんよお」

「……ん? ふわぁ……」

「今度は眠いのかよ!」


 なんだよ、おっちゃん。さっきからツッコミうるさいなぁ。

 おっちゃんは、お笑い志望ですか? なんてな。

 眠いからちょっとごめんよ。俺は、ちょっとウトウトする。

 椅子に座って、ニルの膝枕だぜ。いいだろう。役得だぜぃ。


「なあ、兄さん方よ。坊ちゃんはいつもこんな感じか?」

「ハハハ、そうですね。昼を食べたら駄目ですね」

「はぁ…… そうか」

「でも、よく寝ても30分位ですよ。直ぐに目を覚まされますよ」

「そうか。じゃあ、待ってるわ」


 リュカが説明してる。なんとなく聞こえてんだよ。

 3歳や5歳の頃はガッツリ爆睡してたけどな。そうさ、俺も成長してんだよ。


「ん、ん〜」

「リリ様、お目覚めですか?」

「うん……あ、ニルごめんなさい。重かったね」

「いえ、そんな事はありませんよ」

「よお、坊ちゃん。起きたか」

「うん。おっちゃん、どうしたの?」

「リリ様、りんごジュースです」

「ありがとう」

「実はよ、相談があるんだが」

「……コクコクコク」

「今度はりんごジュースかよ!」

「……何? おっちゃんも飲む?」

「いや、いらねー」

「そう?……コクコク」 

「だからな、相談があるんだよ」

「うん……コクン」

「町の皆で金を出し合うからさ、食料を少しでも分けてもらえないか?」

「うん。いーよー」

「へ? いいのか?」

「うん。いぃーよ。オク」

「はい。しかし我々も慈善事業ではないので、金額に見合う分になりますが。宜しいですか?」

「ああ、もちろんだ!」


 ぶっちゃけ、慈善事業なんだけどな。


 それから、町の人達が集まってお金を出してきた。

 しかしだな。もし大量に置いて行っても腐るだろう?

 だから、肉や魚はそんなに置いていけない。野菜も程々だ。小麦粉や調味料、日持ちのする物を中心に置いて行く事にした。ナマモノにはたくさんの氷付きでな。さて、そこでだ。


「おっちゃん達は、狩をしたり釣りをしたりはしないの?」

「ああ、しねーな」

「どうして?」

「知らねーもんよ」

「狩の仕方を?」

「ああ」

「この辺に獣はいるの?」

「ああ、ここはド田舎だからな」

「おっちゃん……ほんと、ダメダメだね」


 マジかよ。これは意識から変えないといかんね。


ご指摘頂いたので考えて少し変更しました。

耳が聞こえるようになってすぐに喋れるはずがない。と、ご指摘頂きました。

でも、ファンタジーです。ご都合主義と言われてもファンタジーです。千切れた腕がくっつくように、直ぐに喋らせてあげたかったのです。リリの気持ちなのです。

それで、一度目にご指摘頂いた時はスルーしたのですが。

現代医学でどうであれ、学習ができていないからとかではなく、喋らせてあげたかったのです。

ですので、これがギリギリ妥協点です。申し訳ありません。

現実はどうあれ、身体の欠損が治ったり、生き返ったりするのがファンタジーです。リアルを追求してはいません。なら、獣人なんて有り得ないと言う事になります。

割り切って頂ければ幸いです。

ご指摘、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 言われた事を、考えることなくただやるだけ…知識は幹部たちだけのもの。昔の共産や社会主義とかはこんな感じだったのかな?
[気になる点] 耳が聞こえない人が聞こえるようになってもいきなりは話せませんよ(笑)発音が拾えなくて会話学習ができないのですから。当たり前のことでの矛盾・ご都合主義は御伽噺の絵本を目指すならともかく、…
[気になる点] 生まれつき耳が聞こえなかったなら、多分ここまではっきり喋ることは出来ないかなーと……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ