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175ー坊っちゃん

 翌日、検問を超えてすぐに、俺たちは別行動に移った。


 俺は、オクソール、リュカ、ユキ、シェフ、そしてニルと一緒に、商人が使う荷馬車に乗り換えて王国入りする。ま、荷馬車と言っても、色んな所に分からない様に手を加えてある。幌付きでちょっと小型で小綺麗な荷馬車だ。

 ここから俺は、世間知らずで気紛れな帝国の裕福な商人の跡取り坊ちゃんだ。


「いい? 此処からは、殿下て呼んだら駄目だよ」

「はい、リリ様」

「うん。ニルそれでいい」

「ん〜、私は坊っちゃんで」

「えー、シェフそれ嫌だー」

「おや? どうしてですか? しかし、坊っちゃんが一番間違えなくて呼びやすいのですよ。暫く我慢して下さい。坊っちゃん。」

「グフッ……!」

「リュカ、笑ってるけど、リュカが一番心配」

「大丈夫ですよ、リリ様」

「私は自信がないので、出来るだけお呼びしない様にします」


 オクソールよ。お前、超不安じゃん。



 俺たちは、商人の一行に扮している。服もちゃんと、それらしいものに着替えたしな。

 オクソールと、リュカは商人の使用人兼護衛だ。

 シェフはまんま、シェフ。ニルは俺付きのメイドだ。ユキは小さくなって、俺に抱かれている。

 リュカが馬車を操り、オクソールとシェフは馬だ。帝国で最強の3人だ。かかってこいやぁ! て、感じだぜ。


 このまま王国に入り、王都にいる鉱山を爆破した元兵士だった者の仲間に会う。ちゃんと、紹介状も書かせた。

 それから、王都までの道中で、思い切り食料をバラ撒かせてもらう。

 病の者がいれば、治す。その為に薬湯も沢山持ってきた。

 ヒールを使うと目立つからな。



「待て、身分証はあるか?」

「はい、こちらです」


 リュカが王国に入る検問で見せる。

 帝国の商人の身分証を、予め用意していた。不備があるはずない。無事に通過だ。



「リリ様、まず一番近い町に向かいます」

「うん、分かった」


 荷馬車から景色を見る。

 見るからに、痩せた土地が広がっている。

 所々に木はあるが、元気がない。雑草まで枯れている。土地自体の養分がないのだろう。


「土地が痩せたら、何でだろうとか考えないのかな? どうしたら良いか、考えていたら此処までにならなかっただろうに」

「リリ様、王国では帝国ほど教育が発達していないのです」


 ニルに教えてもらった、帝国と王国の、教育事情。

 帝国には、学園の初等部、高等部、それにアカデミーと呼ばれる国立の学士院がある。

 

 アカデミーまで進学するのは、学費の払える貴族か商人。

 もしくは平民には、高等部で最終1年間の成績が、学年3位以内であれば学費を免除される制度があり、アカデミーに進学する事ができる。


 俺達皇族や高位貴族は、初等教育は個人に教師が付く為、学園の高等部から通う事になっている。

 低位貴族や一般の平民は10歳から5年間、学園の初等部に通う。平民の低所得者には特典がある。

 初代皇帝が……

 教育はその人の武器になる。未来の選択肢が増える。ひいては、国の力になる。と言って、初等教育は義務化されている。

 その為、低所得者の平民は無料だ。

 その上教材も、制服も、なんと昼食も無料だ。


 そして、初等部から高等部に進学する時も、学費免除制度がある。

 最終学年の1年間の成績が、学年8位以内の者は学費が免除される。

 希望すれば、食事付きの寮にも入れる。

 この制度のお陰で、平民でも初等部から高等部に進学する者もいる。

 もちろん、学費を払えば平民でも進学できる。


 また、貴族が個人的に将来有望だと思った生徒の学費等を援助できる制度もある。

 学生後見人制度だ。

 若者を援助し育てるのは、貴族としては当然の義務になっているんだ。


 しかし王国では、平民は殆ど教育は受けられない。よっぽど裕福な家でないと無理だ。

 王国の初等教育は8歳から7年間。国からなんの援助もなく、貴族達の嫌がらせも酷いらしい。

 初等教育から差があるので、両国の識字率が全然違う。雲泥の差だ。

 王国では、文字が読めない、計算できない者が多い。


 帝国の学園の高等部の様な教育機関もあるが、貴族しか通えない。

 何故なら、高額な学費と寄付金が掛かるからだ。

 

「そんなんじゃ、国力が衰えても仕方ないね」

「はい。ですので、裕福な家だと帝国に移住してくる者もいるそうです」

「帝国に移住しても、魔法が使えないなら不自由するでしょう?」


 帝国では、普段の生活でも魔力を使う。魔道具が生活の必需品なんだ。

 火を起こす、水を出す、光を灯す。

 生活の全てと言っても良い位に、魔力は必要だ。


「その分、魔石でカバーするそうですよ。もちろん、魔石はタダではありません。そうしてでも、移住したいのでしょう」

「どうして?」

「何より税金が違います」

「王国は高いの?」

「王国では貴族は非課税なんです。その分、平民から取り立てているので、当然高くなります」

「何それ!?」


 なんだよ、スゲー昔の日本みたいじゃないか。


「王族や貴族が、得をして楽ができる仕組みなんですね」

「帝国だと関係なく、儲けた者はそれなりの税金を払わないといけないもんね」

「はい。所得税ですね。それも初代皇帝の考えです」


 本当に初代は凄い。よく考えたよ。

 実は俺も所得税を支払っている。

 俺が考案したレシピや、道具などなど。商標登録をしてくれていて、収入があるんだ。



「リリ様、もう日が暮れます。もう少し行くと小さな町があります。そこの宿屋で一泊します」

「うん。オク、分かった」


 父一行も、そこで休むんじゃないのか?


「大丈夫です。あちらは別ルートで、真っ直ぐに王都を目指しますから」


 そうなんだ。オクは俺が口に出さなくても、理解している時があるよね。

 うん、ニルもあるよね。不思議……てか、優秀。超優秀。



 小さな町が見えてきた。町と言うか……帝国なら村じゃね?

 なんだ? スゲー閑散としてないか? 人が歩いてないぞ? 人は住んでいるのか?

 町にここだけなのだろう、小さな宿屋に荷馬車は止まった。


 荷馬車をリュカに任せて、宿屋に入って行く……誰もいない。


「すまない! 泊まりたいのだが!」

「へーい」


 オクソールが声をかけると、奥から男性が一人出てきた。


「すんません。お泊まりは大丈夫ですが、お食事を出せないんです。それでも構いませんか?」

「え? おじさん、どうして?」


 俺は背伸びをして、受付らしいカウンターからヒョコッと顔を出す。


「坊っちゃん。食料がないんだよ」

「なんで?」

「物価も高いし、物自体がないんだよ」

「えー! シェフ、どうする?」

「坊っちゃん、では作りますよ。ご主人、厨房をお借りできますか? 貸して頂くお礼に、ご馳走しましょう。坊っちゃん、構いませんか?」

「うん。そうして」

「そりゃあ、有難い。いいんですか?」

「うん。いいよー」

「じゃあ、お部屋に案内します」


 俺達は、2階の部屋に案内された。


 俺はニルと一緒の部屋だ。

 部屋も質素だ。このベッド、大丈夫か?

 布団がペラッペラじゃねーか。

 庶民て、こんなもんなのか?


「リリ様、帝国はこんなに酷くありませんよ」

「そっか……」


 産まれる国は選べないもんな……

 国民に罪はない……はず……


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