172ー父の思いとリリの思い
「失礼致します。殿下、陛下がお呼びです」
来たぜ。さっきルーが言ってた件だぜ、きっと。
「リュカ、分かった。
じゃあ、シオン。また明日ね」
「はい。殿下」
俺はリュカと、父の執務室に向かう。
俺、今回は正直関わりたくないんだ。でも、父はきっと俺に行けとか言うんだぜ。でないと、呼び出さないよな?
でもさ、王国だぜ? 何年も前から、俺を殺そうと狙ってきた国だよ?
そりゃ、嫌だよ。マジ、行きたくない。
でもなぁ……まあ皇帝の出方次第だよな。
「嫌です!」
父の執務室に来ている。
父の話を聞いて、俺は全身で嫌だと主張している。両手をきつく握りしめて目をギュッと閉じて嫌だと主張している。
「リリ、そう言わないで。ちょぉ〜っと行って、ちゃちゃぁ〜と片付けてきてくれないかな?」
なんだよ、その軽い言い方は!?
ちょっとそこまでお使いに行くんじゃないんだぞ!!
「父さま、絶対にボクは嫌です! なんでボクの命を狙ってる国に、わざわざボクが行くんですか! 今度ばかりは、絶対に行きません!」
プイッと、そっぽを向く。
しかし、父は折れてくれない。分かっていたけどな。
「リリ。頼むよ」
「父さまは、ボクが死んでも良いんですね? いえ、死んでこいと言う事ですか!?」
「リリ! それは違う!」
「だって、そうじゃないですか!」
そうだ。父は俺に王国へ行けと言っている。
しかも、第1王子を助けだして、譲位させろと言う。そんなの無茶だ。
内政干渉は、しちゃいけないんじゃなかったのかよ。
「陛下、今回はいくらなんでも、リリアス殿下に行って頂くのは危険すぎます」
そうだよ。セティ。言ってやってくれよ。
「だけどね、今回また送り返すだろ? そうしたらあの馬鹿な王の事だ。
また、違う手でリリを殺そうとするだろう。もう、それはウンザリじゃないか?」
「だからと言って、狙われている張本人のリリアス殿下を行かせるのは、どうかと思います。
また、クーファル殿下と私が行ってガツンと言ってきますから」
「セティ、だからね、あの王を失脚させないと意味がないんだよ。そして第1王子を王位につけて、不可侵条約を結びたいんだ」
「陛下、お気持ちは分かりますが」
「セティ、分かっているだろう? 王国なんて、潰そうと思えばいつでも簡単に潰せる。
だがね、そうしたら帝国に組み込まないといけなくなるだろう? それは駄目なんだ」
「父さま、それはどうしてですか?」
「リリ、そんなの決まっているじゃないか。王国なんて、いらないからだよ」
マジか……父の中では、王国てそんな感じなのか!?
簡単に潰せる、て認識なんだ。しかも、いらないんだ。
「あんな国、いらないよ。くれると言われても断るね」
あー、そんなにかぁ……
「だからね、もう鬱陶しいのは止めさせたいんだ。だから、ここはリリが行って、サクッと第1王子を助けて譲位させて、恩を売っておいてさ。二度と帝国には手を出さないと、条約を結びたいんだよ」
おい、皇帝陛下よ。その言い方だ。軽すぎるんだよ。
ちゃちゃ〜っと、とかさ。サクッととかさ。それ止めな? 超ムカつくからな!
「父さまが行けば良いんです」
「リリ!」
「だって、そうでしょう? 父さまが行って、第1王子を出せと要求したら良いじゃないですか」
「リリ、それだと内政干渉になるだろう?」
「ボクが行ってする事も、同じじゃないですか!?」
「だから、こうサクッとさ。リリならこっそり気付かれずに、転移できるじゃないか」
マジ、この父は……!!
また言い方が気に入らない! 簡単に言うなよな! 命懸けなんだぞ! 俺は狙われているんだぞ!
「父さま! ふざけるのも、いい加減にして下さい!!」
「いや、父様は真剣だよ?」
「とにかく、ボクは嫌です! 絶対に行きません!」
「まあ、リリ。落ち着きなさい。外にまで声が聞こえているよ」
「クーファル兄さま」
クーファルが、ソールを連れて執務室に入ってきた。
「だって兄さま!」
「リリの気持ちも分かるよ。でもね、リリ。うっかり街に食料を落とせるよ?」
う……! クーファルめ! 痛いところをつくな。
「リリだと、バレなきゃいいんだからね。色んな街に落とし放題だよ?」
「兄さま……兄さまは鬼ですか?」
「リリ、それは酷い。兄様はね、もう顔を知られているから出来ないけど。リリなら出来るだろう?
それに、王国もまさか当のリリ本人が来るなんて思ってないさ」
クソー! クーファルには敵わない!
「それでも、嫌です! ボクは行きません!!」
俺はそう言いながら、泣き出してしまった。
くっそ、泣くなよ俺! 悔しいじゃねーか! ギュッと手を握り締める。
「……ゔッ……グシュ……」
「リリ、泣かないでおくれ」
父が俺の頭を撫でる。
「だって……ヒック。父さまなんか嫌いです!……グシュ」
「リリー! そんな事言わないでおくれ。
このまま送り返して、また暗殺者を送られてごらん? リリだけじゃなくて、鉱山の時みたいに無関係の民が傷付くんだよ。分かるかい?」
「……ヒック……」
それ位、分かるさ! よーく分かってるさ!
「リリだけじゃない。民を守らなきゃいけないんだ」
「グシュ……父さまはズルいです。ヒック」
「リリ、すまない。小さなリリにばかり、辛い役目をさせてしまって。
でも、リリには出来る能力があるだろう? 父さまだって、リリをやるのは嫌だよ。でも、一番確実で一番被害がないだろう? リリ、分かってくれるよね?」
――バンッ!!
「リリ!」
その時、母がいきなり入ってきて、抱き締められた。
「リリ、聞いたわ。陛下、あんまりじゃないですか! リリは道具じゃないんですよ! まだ7歳の子供なんですよ!」
「エイル……」
「無理矢理リリを、行かせようとするなら、私にも考えがあります」
「エイル、どうしようと言うんだ」
「リリと一緒に、実家に帰らせて頂きます!」
「エイル!」
おおー! 母よ! よく言ってくれた!
「リリは皇子である前に、私の息子です! 私がお腹を痛めて産んだ子です!
命を狙っている国にやって、万が一の事があったらどうするのですか! 私はリリを亡くしたら、生きては行けません!
……ですので陛下、お暇を頂きたく存じます」
母は父に向かって、頭を下げた。
おいおい……それは待ってくれ。そんな大事にしたい訳じゃないんだよ。
「母さま……ヒック、グシュ。母さま!……あーん!!」
げげッ! 大泣きしてしまったぜ。