171ー3歳児の実験
「殿下、それはどう言う事ですか!?」
シオンが身体を乗り出して食い付いてきた。
「え、え!? シオン、何!?」
「魔力量を増やすとは!?」
「え? あれ? ボク3歳の時に、実験しようとしたんだよ。
ギリギリまで魔力を使うと、魔力量が増えると思って」
俺は3歳の時に、こっそり実験した話をした。
あの頃俺は魔法を覚えたてで、興味があった事と、暇だったんだ。一緒に別邸に来ていた兄弟達は、先に帰ってしまったし。
まず、自分の魔力量を確認してみたくて、魔力を使い切ってみようとしたんだ。
どうやったか……
自分にヒールを掛けまくった。
「ヒーリュ……ありぇ? 発動しない。なんで?
ん〜……あ、そうか。発音できてないかりゃ、発声したりゃダメだってルーが言ってた。じゃあ……」
『ヒール……』
身体に白い光が降り注いだ。
「これが、ヒーリュかぁ。ん、1回くりゃいなりゃ、変わりゃないよね」
とりあえず、10回やってみた。
「ん〜、変わりゃないなぁ。全然わかんない。じゃあ、あと10回やってみようかな」
また、10回自分にヒールを掛けてみた。
「ありぇ、変わりゃない。減ってない」
もう10回……
また10回……
あと10回……
「あー、もう! 全然減りゃないじゃん! どうなってんの!?」
ポンッとルーが現れた。
「リリ、何馬鹿な事やってんの?」
「ルー!」
俺はルーに説明した。
もう、ヒールを50回掛けている。だが、全然魔力量が減った気がしない。
自分の魔力量が分からない。だから、確認したかったと。
「まあ、結論はね。使えば使う程魔力量は増えるよ。」
「やっぱり!」
「だがな、リリ。リリの魔力量は、僕でも分からない」
「ありゃりゃ……」
それで止めてしまったんだ。
「それは本当ですか!?」
「うん。何年もかけて上位魔法が使える様になるのは、少しずつ魔力量が増えてるからだって言ってたよ。
ボクは最初から魔力量が多いから、上位魔法が使えるんだって」
「なんと……!!」
「では、魔力量を増やす事が、出来るのですね?」
「うん。出来るよ。多分ね、限界まで一度使い切る方が、早く魔力量が増えると思うよ。枯渇させちゃったら駄目だけど」
「殿下! それは素晴らしい発見です!」
「え、そうなの?」
その時、ポンッとルーが現れた。
「そうさ、人は気付いてなかったんだよな」
「ルー」
「…………精霊様!!」
シオンが跪いた。
「あー、止めてくれ。普通にしてよ」
「お初にお目に掛かります。シオンと申します」
「シオンか。リリの教育を、しっかり頼んだよ」
「はい! お任せ下さい!」
「シオンは、火と水と雷か。すこし、光も使えそうだな」
「ルー様! 私が光をですか!?」
「ああ。お前の何代か前に、使えた者がいたんじゃないかな? それに毎日休まず、魔法の精度を上げる為に訓練しているだろう?」
「はい。少しでも早く発動出来る様に。少しでも威力を高くと。」
「その訓練の賜物だ。魔力量が少しずつ増えているんだ。まだまだだけどな。
もう少し増えたら、ヒール位は出来る様になるんじゃないか?」
「な、な、なんとッ!!」
あー、シオンが涙ぐんでるよ。
ルーて、こう言うの好きだよねー。
光の精霊様! ルー様! 凄い! てのがね。
「リリ、そんな事は……」
「あるでしょ?」
「まあ、な。あれだ」
なんだよ。図星だろーが。
そんなとこも、ちょっと人間ぽくって俺は好きだよ。
「まあ、細かいことは良いじゃない。
それよりさ、リリの考えは正解だよ。
枯渇しない程度に限界まで一度魔力を使い切る方が、魔力量は早く増えるよ。」
「素晴らしい!!」
「一晩寝たら回復するから、寝る前にでもやってみれば? ああ、もちろん枯渇させないようにだよ」
「はい! ルー様!」
「ルー、何かご用事だったの?」
「あー、まあ。皇帝がまた何か考えてるぞ」
「ルー、父さまが?」
「ああ。クーファルは良い迷惑だよな。クーファルは頭が切れるから、仕方ないけどな。本当、お前達子供世代はよくやってるよ」
「でしょ? ルーもそう思うでしょ!?」
「殿下、陛下も前皇帝がお亡くなりになられてから、努力なさって来られたのですよ」
「シオン、知ってるの?」
「いえ、知りません」
きっぱり言ったよ。なんだよ、知らないのかよ!
「私はまだ子供でしたからね」
と、またニッコリ微笑む。
超胡散臭い微笑みだ。
「殿下、失礼ですね」
「あらら。ごめんなさい」
「ハハハ、いいコンビじゃない。リリが魔法を教わっていると聞いて、来てみたけど」
「うん。凄く勉強になるよ。シオンは良い師匠だよ」
「私などが師匠など、おこがましいのですが」
「でも、リリ。魔力操作上手くなったじゃない」
「そう? ありがとう」
俺は徐ろに、りんごジュースを出して飲む。
「コクコク……」
「リリ、りんごジュースかよ……」
「うん。美味しいよ……コクコク」
「またかよ……」
「え? ルーも欲しいの?」
「いらねーよ」
「ククク……仲が良くて微笑ましいですね」
「シオン、油断するとリリは、すぐりんごジュース飲むからな。
てか、持ち歩いてんのかよ!?」
「うん。ニルが持たせてくれるの」
「そうかよ。ニルも大変だな」
「え、何で?」
「いや、なんでもないさ。シオン、その調子でリリの事頼むよ」
「はい。ルー様」
そしてルーはポンッと消えた。
「殿下、魔力量を増やす方法を、魔術師団の団員達に教えても構いませんか?」
「うん。いぃーよー」
「そんな軽くて良いのですか?」
「だって、皆んなの役に立つなら、全然いいよ。」
「そうですか。しかし今迄、魔力量を増やすのは、不可能だと思われてましたが」
「そうなの? でもボク、最初から知ってたよ?」
「最初とは?」
「3歳」
「3歳ですか?」
「うん。初めて魔法を使ったのが、3歳だから」
そうさ。自分にヒール掛けまくって実験したからな。
「殿下、普通は10歳で、自分の属性と魔力量を見てもらってからですよ」
「あぁ、だからみんな魔力量を増やすの大変なんだ」
「と、言いますと」
「だって、10歳スタートと、ボクみたいに3歳スタートだと7年も違うでしょ?」
「確かに。この件も検討しなおす必要がありますね」
「うん。属性が分からなくても、魔力操作は教えるとか。生活魔法を、どんどん使うとかすれば良いと思うな」
「確かに。殿下の仰る通りです。早いうちから、魔力操作を覚えるに越した事ありませんね」
「うん。今迄の習慣や慣例を重視しすぎたら駄目だね」
「殿下、少し見直しました」
「え、少し……?」
「はい」
またシオンはニッコリと微笑む。
シオンの中での、俺の評価はどうなってるんだ? 超不安だ。