170ーシオン
テントを出ると、クーファルやオクソールがクスクスと笑い出した。
「リリ、なかなか役者だったね」
「クーファル殿下、そうですか? あれはバレバレじゃないですか? グフフッ」
「リュカ、本当にいつも酷いね。いい感じじゃなかった?」
あれが精一杯の俺のブラックさだ。
「リリアス殿下、お疲れ様でした」
「オク、あれで少しは冷静になるかなぁ?」
「さあ、どうでしょう? クフフッ」
「オクまで笑ってる」
「いやぁ、黒いリリを見れるとは思わなかったよ。良いものを見た。クフフ」
「もう、兄さままでー!」
「でも、ユキの出現で真実味が出たんじゃないか?」
「我は何事かと思ったぞ」
「え? ユキそう?」
「ああ」
「まあ、後は城に帰ってからだね」
「はい、兄さま」
しかし……皆俺の事をよく分かっている。
何も打ち合わせしてないのにね。ビックリするよ。ありがたいね〜。
俺達は、怪我人の治療がもう必要ないのを確認して、早々に城に戻った。
後は、父にお任せだ。
「殿下、ソファーで寝られると身体が痛くなりますよ」
「……ん、ニル。もう起きるよ」
俺はもう7歳になったのにさ、昼飯食べたらやっぱ眠くなるんだよ。
まあ、何時間も寝る事はなくなったけどな。ほんの15分、30分ウトウトする。
「ニル、りんごジュースちょうだい」
「ニル、我も」
「はい、畏まりました」
「殿下、起きておられますか?」
「リュカ? 起きてるよ。入って」
「失礼致します。クーファル殿下がお呼びです」
「コクコクコク……分かった」
俺はリュカと一緒に、クーファルの部屋に向かう。
「ねえ、リュカ」
「はい、殿下。何でしょう?」
「兄さまは、何のご用事だろ?」
「さあ、何も聞いてませんよ」
「そう」
「殿下?」
「ああ、ほら。王国の人達を捕らえたでしょ? あれに関係あるのかなぁ、て思って」
「さあ、どうでしょう」
まあ、いいか。
「兄さま、リリです」
「入りなさい」
部屋に入ると、クーファルとソール。そして知らない人がいた。
「兄さま、お呼びですか?」
「ああ、リリ。父上とも相談したんだけど、彼に指導してもらう事になった」
指導? 何をだ?
「リリアス殿下、お初にお目にかかります。魔術師団副師団長を拝命しております、シオン・マグルスと申します。
お見知りおき下さい」
そう自己紹介した彼は、
ストレートの艶のある黒髪を後ろで一つに結んで、オリーブ色の瞳の物腰の柔らかい穏やかそうな男性。
クーファルや、フレイより少し上、てとこかな?
「リリです。宜しくお願いします」
「殿下、私共にそんなに丁寧に仰って頂く必要はございません」
「ああ、シオン。リリは誰に対してもこうなんだ」
「え? 皇子殿下で、あらせられるのにですか?」
「ああ。そのうち慣れてきたらまた変わるから、気にしないでくれ」
「分かりました」
なんか、凄いジーッと見られてる。なんか見てるよな?
「ほう、殿下は全属性持ちですか」
「なんで分かったの?」
「殿下は、鑑定のスキルをお持ちですね?」
「うん。それも分かるの?」
「はい。私の持っているスキルは、その下位だと思われます。属性が色で見えるのです」
「ほぉ〜! 凄いね!」
それもいいなぁ〜。レピオスのスキャンも良いけどなぁ。
「何を仰います。凄いのは殿下です。なんですか、その魔力量は!? 底が見えませんね!」
「え、そう?」
「はい、何より殿下は光属性がとてもお強い。白く光って見えて眩しい位です」
「エヘヘ」
「リリ、これからシオンに魔法を基礎から教わるんだよ」
「では、シオンはボクの魔法の師匠ですね!」
「殿下! 畏れ多い! 止めて下さい!」
「え? どうして? レピオスもボクの師匠だよ。オクだって、剣の師匠だね」
「殿下は本当に想像を超えていらっしゃる。私、シオン・マグルス。誠心誠意務めさせて頂きます」
「シオン、宜しくね」
「はい、リリアス殿下」
こうして、俺の魔法の師匠が決まった。
「殿下、もう一度」
「ええ〜!」
「ええ〜! じゃあありません。さあ、もう一度どうぞ」
「はい……『鑑定』」
「もう少し、集中しましょう」
「むむ……」
「まだまだ」
「むむむ……」
「まだです」
「むむむむ……」
「駄目です。最初からやり直し」
「ええ〜……」
「殿下、集中してますか?」
「してるよー!」
「全然駄目ですね」
「なんで〜! だって、シオンの能力ちゃんと見えてるよ?」
「殿下、それだけですか?」
「え……?」
「せっかく、伝説の鑑定をお持ちなのですから、限界までやりましょう」
「ええ〜……!」
今、俺はシオンに教わっている。
鑑定でどこまで見えるか。練習中だ。
このシオン。穏やかな振りして、魔法に関してはドSだった。
魔法の何たるかを教えるのは、流石に上手い。とても分かりやすい。
が、実践になれば人が変わる。
「殿下は魔力切れの心配がありませんからね。ガンガンやりましょう」
と、言ってニッコリ笑う。
俺には悪魔の微笑みに見えるぜ!
だが、そんなシオンに教えてもらうのが、実は結構楽しい。
俺はMじゃないぜ。念の為言っておくけどな。シオンは教えるのが上手なんだ。
「ねえ、シオン」
「はい、殿下。何でしょう?」
「人は皆、魔力を持っていたの?」
「元々は、と言う事ですか?」
「うん。そう」
「まあ、色々諸説はありますが。魔法は使わないと、退化していきます」
「そうなの? 使えなくなるの?」
「はい。そうです。ですので一説では、王国等魔法が使えないのは、今迄長い年月を掛けて魔力を失ってきたのではないかと、言われています」
「使わなかったから?」
「はい、そうです。帝国は建国から常に魔物と対峙してきました。
魔物に荒らされた土地を開拓するのに、魔法を駆使してきました。
王国はそうではありません。
魔物もいない、平和な豊かな土地だったので、魔法の必要性がなかったのだと言われています」
「そうなんだ」
王国は、平和な良い土地だったんだ。
「じゃあ、魔力量を増やすのと真逆なんだね」
「え……!? 殿下……!?」
え? 俺なんか変な事言ったか?