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17ーシェフ

 俺はオクソールに送られて部屋に戻ってきた。ルーもパタパタ飛んで付いてきている。


「オク、奴隷商人がどうして獣人を?」

「殿下、希少な獣人を欲しがる貴族もいるのです。奴隷商人がどうやって狼獣人を見つけたのかは分かりませんが、希少であればある程高値で売れます」

「そりぇを買ってどうすりゅの?」

「さあ。それは私にはハッキリとは分かりませんが、獣人は皆人間より身体能力が高いので働かせるか若しくは慰み者にするのか」


 慰み者て何だよ。どこの世界でも人間の悪いところは変わらないのか。


「では殿下、私はこれで」

「うん、無理はしないで。オクも気をつけてね」


 オクソールに任せたから大丈夫だ。俺に出来ることは何もない。でも、落ち着かない。


「リリ、気になるのかい?」

「うん。るー、だってあんな酷い怪我させりゅなんて…… 」

「人間の中には欲深い者がいるからね。リリだって被害者なんだよ」

「ボクが?」

「ああ、殺されかけたじゃないか。殺意がある分、鞭より酷いよ」


 ああ、あれも欲か……そっか……


「そうだよ。自分には無い立場、自分には無い髪色、自分には無い魔法適性。彼女の母親もそうだね。そんな風に思わなければ、今も皇女として何不自由なく幸せに暮らせていた筈さ」


 そうか……そっか……


「彼女の姉が言っていたけど、心根だよね」


 どの世界も変わらないんだな。


「殿下、お疲れではありませんか?」


 そう言いながら、ニルが部屋に入ってきた。


「ニリュ。ありがとう。迷惑かけちゃった?」

「いいえ、殿下。何を仰いますか、迷惑なんて掛かっていませんよ」


 俺はニルに抱きついた。ま、小さいから残念ながら、足にしがみ付くみたいになるんだけどな。


「まあ、殿下。どうされました?」


 ヒョイとニルに抱き上げられる。そして俺はニルの首にしがみつく。


「ニリュ、ありがとう。ボクは恵まりぇていりゅ。ニリュやオク、そりぇにるーもいてくりぇてよかった」

「殿下、勿体ないお言葉です。有難うございます。さあ、殿下。夕食にしましょう」

「うん」



「殿下、スープは溢されますから私が」


 俺は今、食事中だ。ニルがスープを飲ませようとするので、攻防中だ。


「だめ。ニリュは手をださないで」


 ニルはやたらと俺に食べさせたがる。そりゃまだ食べ方は下手だけどさ。食べさせてもらってばかりだと、いつ迄たっても下手なままだろ?

 だから俺は下手でも一生懸命食べるのさ。口の周りがベットベトだけどな。

 この世界、食事もそこそこ豊かで良かったよ。なんせ前世食に拘る日本人の俺にとっては、食事事情は重要だ。


「んー……おいしいね〜」


 モグモグとちょっぴり唇を尖らせて食べる。もちろん、ほっぺも膨らんでるさ。ウマウマさ。


「美味しいですか? シェフが喜びます」

「うん、おいしい。いつもおいしいよ。ありがとう言わなきゃ」

「有難うですか?」

「うん」

「シェフにですか?」

「うん。いつもおいしい食事をありがとう。て言わなきゃ」


 ――ガタッ!!


「……? ニリュ?」

「……ああ、殿下。お気になさらず」


 ええ!? だって今、明らかにドアの所で音がしたぞ。人がいるだろ?


「ニリュ? なあに?」

「シェフです」

「シェフ?」

「はい。シェフは気になるんだそうです」

「なにが?」

「殿下が美味しく召し上がっておられるか、気になるのだそうですよ」

「え……もしかして、いつも?」

「はい。止める様には言っているのですが」


 マジかよ。なんだそれ?

 もしかして、口に合わないと辞めさせられるとかか? それで心配してか?


「……ニリュ。ボクって、きりゃわりぇてる?」

「え!? 殿下が嫌われている訳ないですよ? 皆、殿下の事は大好きです。お可愛いらしくて朗らかで、いつも私達に有難うと言って下さいます。皆、殿下にお仕え出来る事を喜んでいますよ。どうなさいました?」

「もしかして、ボクがおいしくないと言ったりゃ、シェフは辞めさせりゃりぇりゅ?」

「いいえ。何故そんな……ああ殿下、違いますよ」


 何がだ? 何が違うんだ?


「……?」

「シェフが気にしているのは、そうではありません」

「そうなの?」

「はい。殿下のお世話をさせて頂いている者は、皆殿下の事が好きですよ。殿下に健やかにお過ごし頂きたくて、毎日頑張っております。先日のフォラン様の事では、皆とても心配しておりました。殿下はお優しいから、お心を痛めておられるのではないかと。殿下は暫く普通のお食事が出来ませんでしたから、シェフは余計心配したのでしょう。やっと普通にお食事が出来る様になられたので、気になって我慢出来ない様ですよ」


 皆そんなに心配してくれてたのか? なんて事だ! 思わず手に持っていたスプーンを握りしめる。


「ニリュ、ボクは本当に恵まりぇていりゅ」

「殿下?」

「シェーフー! 入ってきてー!」


 と、俺は部屋の中から大声で、ドアの外に居るだろうシェフを呼んだ。


 ――ガタッ……ドサッ!!


「シェーフー! 早くー!」


 白い服を着て白いエプロンをした、シェフらしき人物がオズオズと入ってきた。


「失礼致します。殿下、失礼を申し訳ございません!」


 ガバッと頭を下げた。だから俺は満面の笑みで元気よく言ってやった!


「シェフ、いつもおいしい食事をありがとう!」

「……ッ! 殿下!!」


 おい、目がウルウルしてるぞ。大丈夫か? キャラが濃いな。


「とんでも御座いません! 食べられる様になられて良かったです!」

「シェフ、ありがとう。次かりゃ気になりゅなりゃ部屋へ入ってきてね」

「……!! とんでも御座いません! 私などがお部屋になど……!」

「こっそり外に居りゃりぇりゅ方が、ボクはいや」

「申し訳御座いません。厨房で大人しくお待ちします…… 」

「そう? 本当に入ってきていいよー」

「はいッ! では時々で」


 なんだそりゃ? 時々てなんだ?

 入ってくればいいじゃないか? まあ、いいけど。


「そう? シェフの好きにしていいよ。」

「はい、有難うございます!」


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