169ーブラックver.リリ
「だから、大きな爆弾を仕掛けて、一気に殺そうとした……」
「リリ、そうなのか?」
「兄さま、残念ながら……」
俺がそう言うと、男達は焦り出した。
「違う! 殺すつもりは……」
「騙されないよ。最初、反社会的勢力て、どうして間違えたんだろうと、思ってたんだ。反乱軍かと思ったけど。
君たちは、闇ギルドだよね? だから、反社会的勢力だと思ったんだ」
「闇ギルドだって?」
闇ギルド。この世界での、暗殺を請け負う集団だ。
その割には、お粗末だったな。
「クソ……バレたら仕方ない。そうだよ。だけど、食べてないのは本当だ。物価が上がってしまって、食べていけないんだ!」
「そこが問題なんじゃない。誰に依頼されたかが、問題なんだ」
「……!!」
「君達の王は、よっぽど馬鹿なんだね。帝国にかなうわけないんだ。暗殺を請け負っている、言わばプロの君たちでさえ騎士団には敵わない。
分かる? 帝国はそんなに甘くないんだよ」
「リリ、王の依頼なのか?」
「はい、兄さま。王の依頼で、またボクを殺しに来た人達です」
テントの中の空気が変わった。
見張りについている騎士団も、クーファルもソールもオクソールもリュカも。
皆、剣に手をかけている。
皆、怒っているんだ。
「帝国が関税を撤廃したから、物の値段が釣り上がったんだ! 食料だって不足している! 帝国はこんなに豊かじゃねーか! 帝国のせいで、俺たちは苦しんでるんだ!」
「お前達は何を言っている? 元はと言えば、お前達の王が暗殺を仕掛けたからだろう。自業自得だ」
「違う! 第2王子が婚約破棄されたからだ!」
「何を……」
「兄さま、待って下さい」
「リリ?」
「みんな本当にそう思ってる? ボクにはそうは見えないんだけど」
嘘言っても無駄だって分からないのか?
「何を言ってんだ! 騙されないぞ!」
「帝国を混乱させれば、第1王子の幽閉を解くとでも言われた?」
「……!!」
「先に捕らえた4人は、本当に元兵士だね。小さい爆弾を仕掛けたんだね? 少し騒ぎを起こすつもりだった。なのに、予想以上の爆発が起こって焦った?
後で捕らえた4人が、闇ギルドだ。中央の大きな爆弾を、仕掛けて殺そうとしたよね?」
「リリ、そうか。じゃあ、お前達は失敗したらどうなるか、覚悟はできているな」
クーファルが静かに剣を抜いた。
それが合図になり、この場にいる皆が一斉に剣を構えた。
「俺達がやらなきゃ、王国の民は飢えたままだ! 第5皇子がいなくなれば、光の神の加護だって王国のものなんだ! そしたら、王国だって豊かになる! 王国は土地も痩せて作物だって、なかなか育たない! なのに、帝国はなんだ!
加護があるだけで、土地も豊かじゃねーか! なんで帝国ばかり豊かなんだよ! 不公平じゃねーか!」
自分達で努力もしないで、隣を羨む。それどころか奪おうとする。救えねー奴らだな!
「違う!!」
その時、先に捕らえた男達の一人が叫んだ。
「お前、裏切るのか?」
「違う! 違うんだ! 王にどう言われたかは知らないが、悪いのは王なんだ!
リリアス殿下を暗殺したって、王国に加護が与えられる訳がない! そんなんじゃないんだよ!」
「お前、何言ってんだ!?」
「俺達は城を守っていた元兵士だ。城で何があったのか位は知っている。お前達は、王に騙されているんだ」
なんだよ、ぐちゃぐちゃじゃねーか。
「兄さま、王は腐ってますね」
「ああ。その様だ。いいか? 帝国は最初から豊かだった訳ではない。
王国は豊かだったじゃないか。魔物も出ない。安全な平和な国だったはずだ。
帝国は、そうじゃない。今でも魔物の被害は出ている。建国当時は、魔物で農作物を作ってる場合ではなかった程だ。
しかしな、我々の先祖は努力したんだ。
土地を豊かにする為に、研究もしたんだ。
王国では、腐葉土さえ使われていない。帝国では、当たり前の事が、王国では知られていないんだ。
どうしてだ? 元々そんな努力をしなくても、王国が豊かだったからだろう?
それに胡座をかいて、何もしなかったのはお前達だろう? お前達の王だろう?
それを棚に上げて、光の神の加護だと? ふざけるんじゃない! 自分勝手もいい加減にしろ」
3歳の時、俺は王国の王に命を狙われた。
その時にも思った。
今の王は、自国で努力をしない。王という立場に胡座をかいているだけだ。
俺は一歩前に出た。
「殿下、私より前にお出にならないで下さい」
「オク、大丈夫」
オクソールとリュカが俺の前に出る。
その時、シュンッとユキが現れた。
「リリ、我から離れるでない」
そう言って、俺を守る様に前に出る。
「ユキ、大丈夫だよ。ここにいて」
捕らえられた男達が、ユキに驚いている。
「知ってるよね? 君たちを倒したユキヒョウだ。神獣なんだ。人間が、どうやったって敵わない存在だ。
ユキがいなくても、君たちはボク達には敵わない。
いい? 忘れているみたいだから、言うけど。ボク達はみな魔法を使えるんだよ?」
そう話しながら、俺は掌を上に向け火の玉を出す。火の玉は、ボウッと燃えながら俺の顔より大きくなる。
捕虜達から、声にならない悲鳴があがる。
「君たちが剣を構えている間に、魔法で君たちを殺す事ができるんだ。今すぐ、丸焼きにする事だって、斬り刻む事だってできる。
それでも帝国は王国に手を出さない。欲をかいて手を出してきたのは、君たちの王なんだ。
これから君たちは、帝都の城に護送される。よく考えてね。
何が正しくて、何が嘘なのか。君たちだけでなく、王国の存続が掛かっているからね」
俺は、掌の火の玉をシュンッと消した。
息巻いていた男達が、後退りしながら腰を抜かしていた。