165ー反乱軍
俺は、捕らえた4人に向かって集中する。
『鑑定……』
……ああ、そうか……
なんなんだよ、あの国は。
一体何がしたいんだ。
「兄さま、当たりです。ただ、今回は反社会的勢力……いえ、反乱軍と言う方がいいかな」
「あの馬鹿王に、不満を持つ者達と言う事か。何故、帝国の鉱山を爆破する必要がある? 反乱するなら、勝手に自国でやればいい」
クーファルの言う通りなんだが……
「ねえ、まともに食べてないの? みんな、栄養失調になりかけてるじゃない。
今朝は? ちゃんと食べた?」
俺が話しかけると、虚な目をしたまま顔を上げてこっちを見た。
「殿下、彼等は襲撃者です。そんな者に、まともに食べさせる必要はありません」
オクソールが当然の様に言った。
そうか、それが普通なんだな。
「オク。それは違う。彼等は自国でも、食べられてなかったんだ。それに、どんな理由があっても、食事はさせなきゃダメだ。
最低限の人権は保障しなきゃ駄目。今すぐ食事を持ってきて」
「殿下……」
「オクソール、構わない。食事をさせなさい」
「はッ、クーファル殿下」
オクソールが、見張りに伝えに行く。
この世界、捕らえた者達の人権なんて無いに等しいからな。
だかな、捕虜にだって人権はあるんだぞ。命はあるんだ。
「ねえ、生活ができないの? 王国は一体どうなってるの?」
そうだ。この襲撃者達は、4年前に俺を狙った王国の民だった。
帝国の西側を流れる、リーゼ河。
隣国のガルースト王国との境界だ。
リーゼ河には橋が架かっていて、沿岸国境警備隊が配置されている。
もちろん、検問で入国管理隊も不法入国を監視している。
ガルースト王国、4年前に王が工作員を送ってきた。俺を殺す為だ。
それを返り討ちにして、捕らえた。
そして、捕らえた工作員を王につき出し、帝国に二度と手を出すなと、啖呵を切ってきたのが、クーファルだ。
「兄さま、酷いですね」
「ああ。あの馬鹿王はやはり駄目だな。お前達、事情を聞こうか。なんの事情もなしに、不法入国までして鉱山を爆破する筈がないだろう。
私は4年前に、お前達の国の王に会っている。工作員を送って、帝国の皇子を暗殺しようとしたんだ。そのペナルティで関税が撤廃されている。
そして、二度と帝国に手を出すなと、警告したんだがな。あの王は、もう忘れたか?」
クーファルが煽ると、捕らえた者の一人が反応した。
「違う! 俺たちはあんな王は信じちゃいない!」
「おいっ! 黙れ!」
これは……王国はもう末期なのか?
「ねえ、事情を話してくれない? ボク達は、悪いようにはしないよ?」
騎士達が、食事を持って入ってきた。
「殿下、お持ちしました」
「ありがとう。彼等にあげて」
「え? 殿下……」
「構わない。リリアス殿下の仰る通りに」
「はッ、オクソール様」
騎士達が、4人の前に食事を置いた。
「食べて。足らなかったら、おかわりあるからね。ああ、おにぎりって食べた事ないかな? 手で持って食べるんだよ。スープも飲んで。美味しいよ」
俺は4人にクリーン魔法を掛けた。
4人は顔を見合わせて戸惑いながら、おにぎりを手にして食べた。
一口食べたら、もう止まらない。
ガッツリ食べ出した。
「本当に、食事が出来てないんだ」
「リリ、どうする?」
「兄さま、ゆっくり食事をさせましょう。後は話を聞くしかないですね」
「ああ。しかし、民をこれ程飢えさせるとは……」
「はい、兄さま」
しっかり食事を取り、少し落ち着いた様に見える。
4人の中の、一番年長らしい男が話し出した。
「俺達は……城の警備兵だった」
警備兵……兵士だったのか。
それが何故、反乱軍に……しかも城を守っていた警備兵だぞ。
「4年前、帝国の関税が突然撤廃された。そして、帝国の皇女と婚約していた第2王子が、幽閉された。皇女との婚約が無くなったのは、第2王子がリリアス殿下に手を出したからだと発表された。そのせいで、帝国は関税の撤廃を要求してきたのだと」
「なんだと? 第2王子に全て擦りつけたのか」
「そうだ。だが、王が保身の為に嘘の発表をしたのだとすぐに噂が広まった。
帝国の皇子が乗り込んできた事位は、城にいれば分かる。その時、立ち会った者もいるからな。
関税が撤廃されてからは、物価も税金も上がって……どんどん物資が不足するようになって、日々の暮らしにも影響が出だした。民は皆、第1王子への譲位を望み出した」
「第1王子は、どんな人なの?」
「気さくに街にも出て来て、俺たちの話にも耳を傾けてくれる。王に進言してくれる唯一の人だった。しかし……」
「何? どうしたの?」
「第1王子まで幽閉されたんだ。リリアス殿下の希望だと噂に聞いた。第1王子が、リリアス殿下のお命を狙ったと」
「馬鹿げているな。お前達は、それを信じたのか?」
「まさか! 信じる訳がない! それで、探ろうとしているのが王にバレて、俺達は兵を辞めさせられたんだ」
「それで何故、帝国に不法入国までして、鉱山を爆破したんだ?」
「不公平だと思ったんだ」
「何? 不公平だと? 帝国の皇子の命を狙っておいてか!」
「兄さま……取り敢えず最後まで話を聞きましょう」
「リリ、自分勝手も過ぎるだろう」
「兄さま、お願いです」
「ああ……分かった。それで?」
「確かめたかったんだ」
「確かめるだと?」
「ああ。本当に帝国は悪くないのか? 本当にリリアス殿下のせいじゃないのか? 確かめたかったんだ」
「で? ボクを見て、どう思ったの? こんなに怪我人を出してまで、する事だったの?」
4人は頭を下げた。