163ー人為的
オクソールが笛を吹くと、近くにいた騎士団の隊員達が走ってきた。
「殿下! ご無事ですか!?」
「うん、大丈夫だよ。この人達を拘束してくれる?」
「はッ!」
騎士団の隊員達が、手際よく縛っていく。
「さて、中央に戻ろう。治療しなきゃ」
「リリ。何人か逃げたな」
「ユキ、そうだね。でも深追いしたら駄目だ。どうせ、また来るよ。ボクにターゲットを、絞っていたでしょ?」
「殿下、まさか」
「オク、多分ボクを狙っているよ」
「騎士団! 賊の身元が分かるものはないか確認だ! 無ければ、吐かせろ!」
「「「はッ!!」」」
オクソールが騎士団に指示を出す。捕らえた者達を騎士団が連行していく。
騎士団といた筈のクーファルがやってきた。心配してくれてんだな。
「リリ! 無事かい!?」
「はい、兄さま。怪我人はどこですか?」
「え? ああ。こっちだ」
俺はクーファルについて移動する。とにかく早く治療したい。痛いのは辛いからな。
「リリ、何があった?」
「兄さま、これは粉塵爆発ではないですね。賊が態と起こした爆発です」
「そうか。見回りの者の話もおかしかったんだ」
「どうおかしかったのですか?」
「爆発のあった場所には、まだ見回りに入っていなかったんだ」
「だから、怪我で済んだのですね」
「ああ。何がしたかったのだろう?」
「少なくとも捕らえた賊は、ボクを狙ってました」
「リリを!?」
「はい。騎士団が尋問してくれます」
「そうか、それからだな。リリ、怪我人はここだ」
「はい、兄さま」
鉱夫達の待機場所か何かなのか、日本の昔の学校の校舎の様なそんな建物に入って行く。
1階は事務所や食堂などがあって、2階に着替える場所や、休憩室。3皆が宿泊できる様になっている。
そこの1皆の端に、簡単な医務室の様な部屋があって、入ると3人の鉱夫がベッドに寝かされていた。
「兄さま、3人ですか?」
「ああ。一人は見回り。あとの2人は鉱山の入口の所にいたらしい」
「分かりました」
俺は怪我の状態を見る。
これなら、ヒールで充分だろう。
『エリアヒール』
3人を光が包んだ。
「リュカ、レピオス呼んできて」
「はい、了解です!」
リュカが走って行く。
「兄さま、後は薬湯で大丈夫です」
「そうか。良かった」
「……ん、あれ? 俺は……?」
気を失っていた、鉱夫の一人が目を覚ました。
「あ、目が覚めた? 爆発に巻き込まれたんだよ。覚えてる?」
「え? 誰?」
「ああ、ボクはリリ。こっちは、クーファル兄さま」
「え? え……? あ、クーファル……殿下?」
「ああ、そうだ。気がついたか? さっき、話を聞いていただろう? 途中で気を失ったんだ。どう? 痛みはないかな?」
「はい、なんともありません」
「じゃあ、話の続きを聞いてもいいかい?」
ここは、クーファルに任せよう。
「殿下、どう言う事でしょう?」
「オク、分からない。ここにボクが来るとは限らないでしょ? でも、ボクを狙っていた」
「はい。もしかして怪我人を出せば、殿下が来ると予測していたとか?」
「ん〜、どうなんだろ?」
俺はまだくすぶっている鉱山を見る。
これを確実に鎮火したいなぁ。困った時はあいつだ。
「ルー、いる?」
「なんだ?」
いつもの様に、ポンッとルーが現れた。
「ねえ、ルー。この鉱山を鎮火したいんだ」
「じゃあ、空気を抜くか?」
「ああ、そっか。なるほど。でも、鉱山だけ空気を抜くって出来るの?」
「なら、シールドで鉱山全体を囲むか? それから、風魔法で空気を抜く」
「ルー、天才?」
「リリ、お前さぁ。僕を何だと思ってんの?」
「だから、鳥さんだって」
「ああ、そうなるか。ま、やってみるか?」
「うん。そうだね」
ルーが俺の肩にとまった。
俺は、近くにいた騎士団の隊員に聞く。
「ねえ、今は鉱山の中に人はいない?」
「はい。もしもまた爆発したら危ないので、鉱夫は全員避難しております」
「そう。じゃあ、皆鉱山から離れてほしいな」
「はい! 畏まりました!」
そして、隊員は騎士団団長に話してくれた。
「全員、退避! 鉱山から離れろ!」
指示と同時に、騎士団員達は鉱山から一定の距離をとって離れる。
「うん。良いね。念の為にサーチして……よし、誰もいない」
俺は両手を鉱山に向けた。
「ルー、いい?」
「ああ、いつでもいいよ」
『バリアシールド』
念の為、ちゃんと出来ているかルーに確認してもらいながら、鉱山全体を囲んでシールドをはった。
鉱山に薄い膜の様な物が、光って見える。
「リリ、いいぞ」
よし、それから風魔法……
『エアードレイン』
ブワッと、鉱山から煙や粉塵が吹き出てきて、シールドの中が白く煙る。
「リリ、もういいよ」
「ルー、ありがとう」
空気が無くなったか、ルーが確認してくれる。
もう大丈夫そうだ。
俺は手を下ろしてシールドを解除する。
シールドが消えると、粉塵や煙が辺りに舞う。
鉱山から出ていた煙が、細くなり消えていく。
「ルー、これで大丈夫かな?」
「ああ。もう火種はないよ。リリ、自分でも鑑定してみな?」
ああ、忘れてた。そっか、こういう時にも鑑定だ。
「うん」
『鑑定』
「……え? ルー、どう言う事?」
「どうって、そう言う事だ」
「そうなの? じゃあ、発見してなかっただけ?」
「まあ、そうなるな」
「そっか。これは兄さまに報告だね」
「また皇帝が喜ぶぞ」
「本当だね」
「リリ、それとな。捕まえた奴らも鑑定してみな? 色々分かるさ」
「うん。分かった。ルーありがとう」
「おうよ!」
そしてまたポンッと、ルーが消えた。
「殿下、何がどうなっているのですか?」
「ああ、オク。もう鉱山は安全だよ。火種は全部消したから」
「殿下、何を?」
「ちょっとルーに手伝ってもらって、鉱山の空気を抜いたんだ。空気がなければ、火は燃えないからね」
「はあ、なるほど。殿下、お体は?」
「ん? 何で?」
「立て続けに、大きな魔法を使われたので」
「ああ、オク。ありがとう。大丈夫、なんともないよ」
「良かったです。普段は忘れていますが、殿下はやはりズバ抜けてますね」
「そうかも知れないけど……ボクは知識がないから。もっと勉強しなきゃ」
うん。本当に、宝の持ち腐れと言われても仕方ないな。
なんか、実感してしまったぜ。
「クーファル兄さまはどこかな?」
「クーファル殿下は、中央に居られるかと」
「じゃあ、行こう」
俺はオクソールとユキと一緒にクーファルの元に向かう。