162ー違和感
鉱山と言っても、複数ある。
今回行く鉱山は1番帝都に近い。
3歳の時に宿泊していた、湖近くの別邸まで1日。そこで宿泊して、翌朝また早くに出発して丸1日。現場の鉱山に到着だ。
爆発が起きたのは4日前だ。まだ燻っているのか? 長いな……所々から煙が出ている。
「兄さま」
馬車を降りて俺はクーファルの所まで走る。
「ああ、リリ来たか」
「兄さま、もう鉱山の中には誰もいないですよね?」
「ああ。全員避難している。念の為、消火するか?」
「兄さま、水は駄目ですよ。余計に爆発しますよ」
場所は鉱山だ。水と鉱物の何かが反応して、また爆発を誘発しないとも限らない。
「じゃあ、どうする?」
「このまま、自然鎮火を待ちましょう。それとも見回って、火が出そうな所に乾燥した砂か塩をまきますか?
いや、でも……兄さま、ここでは何が採掘できるのですか?」
「ここは、層になっていてね。鉱石、金鉱石、銀鉱石、石炭が採れるんだ。
皆、離れた安全な所に避難しているから、負傷者の治療を優先しようか」
「そうですね。しっかり鎮火が確認できないと、中に入るのも危険ですからね。
兄さま、ボクはレピオス達と治療をしていきます」
「ああ、頼むよ。私は状況確認だね」
「はい。お願いします」
そうして、俺はレピオスを探す。
「殿下、また爆発する可能性があるのですか?」
「オク、ないと思うんだけど…… 」
俺はまだ燻っている鉱山を見る。
「殿下?」
「なんかね、不自然と言うか……違和感と言うか……何かが引っかかってスッキリしないんだけど、それが分からないんだ」
「殿下、また順を追って考えられては?」
「うん。そうだね。とにかく落ち着かなくちゃ。優先するのは、人の命だ」
「はい、殿下」
オクソールと一緒にレピオスを探していると、救護所の様になっている建物を見つけた。
入って行くと、やはりレピオスがいた。
「殿下、酷いですが重症者はいない様です」
「え? そうなの?」
「はい。最初の爆発で驚いて外に出て、見張りをしていた者と、見回りの者を助け出そうとしたそうです。
その時に二度目の小さい爆発が起こったそうで、その爆発や火事に巻き込まれた様です。殿下、順にヒールをお願いします」
「レピオス、ヒールで充分な程度の怪我て事?」
「そうですが。殿下、どうされました?」
「おかしい。粉塵爆発で、こんなに被害が少ないのは聞いた事がない」
「殿下、どう言う……?」
「とにかく、ヒールするよ」
俺は、両手を広げた。
『エリアヒール』
部屋中に白い光が満ちた。
「レピオス、怪我人はここだけ?」
「殿下、隣の部屋もです」
「分かった」
俺は隣の部屋でも、エリアヒールをかけた。
「殿下、本当に凄いです。身体はなんともないですか?」
「うん、レピオス。なんともないよ。大して魔力は使ってないから、大丈夫」
「有難うございます」
ふと、まわりを見ると、医師達が驚いた顔をして俺を見ている。
「ねえ、レピオス。もしかして、みんなびっくりしてる?」
「ああ、皆は殿下が、魔法を使われるのを見るのは初めてですから。私は慣れてますが」
レピオスはそう言ってニッコリした。えー……なんか腑に落ちない。
「レピオス、後は?」
「後は、薬湯を作ります」
「体力だね」
「そうです」
「じゃあ、シェフにも協力してもらわなきゃ」
次はシェフを探すぞ。
まあ、隊の中央位にいるんじゃないか?
ほら、いたいた。
「シェフ、ちょっといいかな?」
「はい、殿下。どうされました?」
「食料は沢山持って来てるよね?」
「はい、マジックバッグに入れて沢山持ってきましたよ」
「あのね、怪我した人達に体力つけたいんだ」
「では、ミルク粥にチーズ入れますか?」
「いいね、美味しそう」
「ああ、殿下もミルク粥お好きでしたね」
「うん、好き」
「では、消化が良くて滋養のあるもので、メニューを考えます」
「うん。お願い」
さてと……
また俺は鉱山を見た。
「殿下、まだ引っ掛かりますか?」
「うん。オク。より強くなったね」
「それはどうしてですか?」
「本当に怪我が軽症すぎる。これって、本当に粉塵爆発かなぁ? それにセティが言ってた見回りの人が犯人とかじゃないよね」
俺はじっと鉱山を見ながら考える。
「リリ」
「ユキ、どうしたの?」
俺の直ぐそばにいたユキが何かに反応したらしい。
「火薬の匂いが微かに残っている」
「え!? ユキ、本当?」
「ああ。人間には分からないだろうが」
「あー。それじゃあ、人為的か。それなら納得できる」
クーファルを探そう。
「殿下?」
「兄さまはどこかな? ユキ、念の為に周りを警戒しておいて」
「ああ、分かった」
「えっと……サーチだっけ……」
俺は周りに魔力を薄く広げながら、クーファルを探す。
「そっか……そうなんだ」
「殿下?」
「ユキ、まだだよ」
「ああ」
「殿下、あちらにクーファル殿下が」
「ああ、本当だ」
とりあえず俺はクーファルの所に急ぐ。しかし、何を考えているんだか。
「兄さま」
「リリ、どうだった?」
「はい、軽症者ばかりでした」
「そうなのかい? それはやはりおかしいね」
「はい、兄さまは?」
「ああ、見回りの者に話を聞いたんだ。怪我しているから、リリ頼めるかな?」
「はい、もちろんです」
俺はクーファルに案内されて、ついて行く。
「リリ」
「うん、ユキ。分かってる。オク、いつでも剣を抜ける様にね」
「はッ、殿下」
「殿下!」
「リュカ、どうしたの?」
ニルの側にいたリュカが慌ててやってきた。ニルが気づいたのか、それともリュカか?
「殿下、あの鉱山の周りに…… 」
「ああ、分かってる。リュカも剣を抜ける様に警戒しておいて」
「はいッ」
「リュカ、馬車の周りに騎士団はいる?」
「もちろんです」
「そう。良かった。ニルが残っているからね」
「ちょっと外れよう」
「はッ」
「兄さま、ボク少し向こうに行きます」
「え? リリ?」
「大丈夫です。兄さまは、そのまま騎士団のいる所にいて下さい」
「リリ……分かったよ。気をつけるんだよ」
「はい、兄さま。大丈夫です」
クーファルはそれだけて察してくれる。
俺は態と、騎士団がいない方へ歩いて行った。
「ユキ、そろそろだよ」
「ああ」
そうして岩陰に差し掛かった時だ。
右から一人。
正面から二人。
左から一人。
一斉に襲いかかってきた。
ーーザンッ!
ーーガキン!
ーードサッ! ドサッ!
一瞬だった。
きっと襲って来た方は、何が起こったのか分かってないだろう。
「おー、リュカ強くなったねー!」
「殿下……そう言われて、あまり嬉しくないのは何故でしょう?」
「アハハ」
オクと、リュカが左右の一人ずつ。
ユキが正面の二人をあっという間に押さえ込んだ。