156ー兄二人
「ふぁ〜……んん〜」
「殿下、おはよう御座います」
「ニル、おはよう」
「殿下、今日はアイスクラー侯爵とご令嬢が来られますよ」
「あー……そうだった…… 」
俺はモソモソとベッドから出て、顔を洗う。
着替えていると、ユキがノソノソと起きてきた。
今日は、例の誘拐事件のアイスクラー侯爵と、令嬢のディアーナ嬢が挨拶に来る。
要するに、お礼だ。別にいいのにさ。面倒だよ。
「殿下、これも皇子殿下のお仕事ですよ」
「はーーい」
揃って食堂に向かっていると、いつも通りワゴンを押しているシェフがいた。
「シェフー! おはよう!」
「殿下、おはよう御座います!」
「今朝はなぁに?」
「はい、今朝は寒いですからね。ホットサンドと、ポトフです」
「美味しそうだ」
「はい! 沢山食べて下さいね!」
そう、帝都は今真冬だ。
辺境伯領は帝国の南端だから暖かかったけど、帝都は寒い。
そろそろ雪も降りそうだ。
食堂に入ると、テュールとフォルセがいた。
二人は第1側妃の子だ。
テュールが、16歳になった。
ブルー掛かった金髪に紺青色の瞳。緩いウェーブの柔らかそうな髪をスッキリ短髪にしている。スポーツマンタイプだ。
もう一人、フォルセは13歳になった。
ブルーブロンドの髪に紺青色の瞳。兄と同じ緩いウェーブの髪を肩まで伸ばして後ろで一つに束ねている。相変わらず、超絶可愛い。俺の中では不動で妖精さん確定だ。
「兄さま、おはようございます」
「おはよう」
「リリ、おはよう」
「兄さま、今日は学園は行かないのですか?」
いつも、学園の制服で朝食を食べているのに、今日は違う。
二人共、皇子様ルックだ。まあ、俺もだが。
「リリ、今日から冬休みなんだ」
「テュール兄さま、そうなんですか」
「ああ、年明けまで休みだよ」
「ねえ、リリ。令嬢を助けたんだって?」
「フォルセ兄さま、気分が悪そうだったので、声を掛けただけなんです」
「リリその事件の犯人の侯爵知ってる?」
「えっと、名前だけ」
「そっか」
「フォルセ兄さま、何かあるのですか?」
「その侯爵の後妻の子息がね、学園で僕と同じ学年なんだ」
「そうなのですか」
「うん。でも学園を辞める事になったんだ」
「あー、侯爵が爵位剥奪になったからですか?」
「そう」
令嬢誘拐未遂事件で、犯人のエリニース侯爵は爵位剥奪になっていた。
しかし、財産は没収されなかったので、医療院の経営は続けるそうだ。
貴族専門と言う事で、貴族には需要があるらしい。
「一部の生徒が、陰口を言っていてね。嫌な感じだったんだ」
「陰口ですか」
「うん。子供は関係ないのにね」
「本当ですね。学園を辞めてどうするんでしょう?」
「お母上と一緒に領地に帰るんだって」
確か、後妻は侯爵の犯行を、止めようとしていたと聞いたが。
帝都では、皆事件の事を知っているから、居られないのかも知れない。
出産時は現代日本でも、危険な時があるから仕方ないんだよな、きっと。
この世界では、帝王切開なんて概念はないからな。保育器もないし。
俺は、産科じゃなかったから専門外だし。
しかし、なんとかならないかな?
帝王切開と保育器でかなり違うはずだ。
うん、今度レピオスに相談してみよう。
「ねえ、リリ。どう思う?」
「フォルセ兄さま、何ですか?」
「お母上と赤ちゃんが、亡くなった事だよ。本当に仕方ない事なのかな?」
詳細を知らないから、なんとも言えないんだよな。
「兄さま、ボクはその経緯や状態を知らないです。だから、なんとも言えません」
「そっか。でもさ、そんな事はあるの?」
「ありますよ。普通に。出産は、大変な事ですから。普通に命懸けです」
「そっか」
「でも…… 」
「リリ、なぁに?」
「フォルセ兄さま、ボクの個人的な意見ですが。また婚姻して、兄さまと同じ歳の嫡男もいるのです。その今を大切にして、幸せになる選択肢もあったのに。と、思います」
「そうだな。リリの言う通りだ」
「テュール兄さま」
「確かに悲しい事だとは思う。しかし、それに執着して、今の家族を不幸にしていたら何をしているんだと思う」
「ボクも、テュール兄さまと同じ事を思います」
「そうだね。うん、僕もそう思うよ」
「失礼致します。リリアス殿下、今日は少しお急ぎ頂かないと」
ニルが迎えに来ちゃったよ。
せっかく、兄二人と一緒だったのに。
「ニル、分かった。ユキは?」
「まだ、食べています」
「リリ、ユキてあの神獣だよね?」
「はい、フォルセ兄さま。ユキヒョウです」
「ねえ、今度見に行ってもいい?」
「もちろんです。まだフォルセ兄さまは見てなかったですか?」
「うん。学園があったからね」
「リリ、俺も一緒にいいか?」
「はい!テュール兄さま。兄さま、学園がお休みだとまた一緒に鍛練できますか?」
「ああ、明日の朝から俺も参加するよ」
「やった!」
「リリ、嬉しいの?」
「はい、フォルセ兄さま! だっていつも一人ですから。テュール兄さまが一緒だと嬉しいです!」
俺はいつもなら、午前中はオクソールの鍛練を受けている。
学園が休みの間は、テュールが参加するんだ。
オクソールと1対1より、テュールがいる方がずっと良い。
「じゃあ、兄さま。ボク先に行きます」
「ああ、リリ」
「リリ、またね」
「ニル、お待たせ」
食堂を出るとニルが待っていてくれた。
オクソールとリュカも来ている。