155ー勉強会
「レピオス、そうだよ。普通は1分間に、60〜100回なんだ。
個人差が大きく、年齢や体温、動いた後とかでも簡単に数値が上下するんだ。
脈拍はね、身体のすみずみまで血液が行き渡っているかどうかを知る指標なんだ。
脈拍の数やリズムに異常があると、心臓や血液循環に関連した病気が疑われる」
俺はレピオスと勉強中だ。
ディアーナ嬢の事件の時に、俺が脈をみたり眼瞼結膜を見たりした事に、レピオスが興味を持ったんだ。
「なるほど。ですから、脈拍がないと心臓が動いてない。死亡していると言う事ですか」
「そう。脈だけでなく、呼吸も確認しなきゃね」
「で、ない場合は、胸骨圧迫ですか」
「そう。その通りだよ。それが、救急処置だね。心臓にショックを与える方法もあるんだけど、まだ考え中なんだ」
「ショックをですか。そんな事をして大丈夫なのですか?」
「止まった心臓にショックを与えて、拍動を正常に戻すんだ。雷魔法で出来るかも知れないけど、加減が難しいから考え中。実験できないしさ」
「なるほど。回復薬では、一度止まった心臓を動かしたりはできませんから」
そうだ。回復薬でも魔法でも一度止まった心臓を、動かす事はできない。
しかし、心臓マッサージなら可能な場合もある。
「だよね。そう言えばレピオス。ハイポーションの上位て何?」
「え? 殿下、今頃それを聞きますか?」
「え? 何? 変?」
「変ではなく、当然知っておられると思ってました」
「あらら。知らなかったよ」
「ハイポーションの上位は、エクスポーションです。瞬時に回復する秘薬と言われています」
「秘薬なの!?」
「はい。私も見た事がありません。作り方も分かりません」
「何それ、まるで伝説じゃん!」
「そうなのですよ。現実では誰も見た事がありません」
超作りたいなー!
伝説とか秘薬とか、めちゃそそられるじゃん!
「殿下、作り方が分からないのですから、無理です」
「はぁーい。そうだ! レピオスが使ってるスキャンは良いよね」
「そうですか? 殿下は鑑定があるから必要ないでしょう?」
「え、そうなの?」
「……殿下、一度ちゃんと勉強なさる方が良いですね」
「あらら、マジ?」
「はい。宝の持ち腐れです」
「え、酷……」
「クーファル殿下に、魔術師団に連れて行ってもらうと仰ってませんでしたか?」
「そうなんだけどね、兄さま忙しいみたいでさ」
「そうですか。それは残念ですね。では、ルー様にお願いしますか?」
なんか、久しぶりだな。そう言えばルーは何してんだろう?
最近、全然いないな?
「リリ、いるよ!」
ポンッと、ルーが現れた。
「ルー、久しぶりだね」
「まあ、俺は常にリリを見てるけどね」
ほぉ〜、そうかよ。
「リリ、本当だからね。加護を与えるとは、そう言うもんだ」
「ふうぅ〜ん」
「で、レピオスのスキャンか?」
「うん。あれ良いね」
「リリ、レピオスが言ってた様に、リリには鑑定があるだろう?」
「鑑定てさ、イマイチ何に使えるのか良く分かってないんだ」
「リリ、本当に宝の持ち腐れだな」
「クフフフ、ルー様。ハッキリ言い過ぎです」
「いや、レピオスが言ったんだろ?」
「ルー様、そうでした」
「リリな、令嬢を助けた時にまだ賊がいないか警戒してただろう? あんな時には、サーチだ」
あ、なるほど。忘れてたわ。
「鑑定だがな、レピオスのスキャンの上位だと考えていい。鑑定すると、対象の全てが見える。スキャンではそうはいかない。
だから、どんな薬を盛られたのかも分かるんだ」
ほぉ〜、知らなかったよ。
「リリ、本当マジでもっと勉強しな」
「あい」
「鑑定もサーチも、ガンガン使う事だ」
「どうして?」
「使えば使う程、精度が上がったり、上位にランクアップしたりするんですよ」
「レピオス、そうなの?」
「はい。魔法でもスキルでもそうですよ。殿下はあまり、魔法やスキルを使おうとされないので、勿体ないですね」
「あー、そうなんだ」
だってな、魔法のない世界で55年間生きてたから、習慣がないんだよ。
「あー、リリそうか」
「うん、ルー」
「意識的に使うしかないな。それにリリはあれだ。最初からかなりの魔法を使えたから、余計に意識がないんだ」
「そうですね。殿下は最初から、上位魔法を使っておられましたね」
「え? みんなは違うの?」
「当たり前だろー!? 最初から、上位魔法をホイホイ使える奴なんていないさ」
「そっか……」
そうなのか……? 全然知らなかった。
「普通は、使って使って、慣れて自分の物にして。何年も掛かってやっと、上位の魔法が使える様になるんですよ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。人は理解してないが、そうして少しずつ自分の魔力量を増やしてるんだ」
「ルー様! そうなのですか!?」
「ああ。リリは最初から魔力量が膨大だった。だから、最初から使えたんだ」
「魔力量だったのですか。それは凄い事実ですよ」
「レピオス、そうなの?」
「はい、誰も知らないですよ」
「あれ? でもボク、最初から知ってたよ?」
確か、知ってたぞ。なんでだっけ? 忘れたが。
だから、皆普通に知ってると思ってたな。
「えっ!? 殿下、最初からとは?」
「えっとね……そうだ。3歳の時だ。初めて魔法を使う時に、知ってた」
「殿下、どうして知っておられたのですか?」
「え……? なんでだろ? 分かんない」
「アハハハ! リリは、最初からずば抜けてたからな!」
「そうだ。3歳の時にね、試した事があるんだ」
「リリ、何をだ?」
「魔力量が、どれくらいあるのか知りたかったから、自分の中の魔力を感じてみようと思ったんだ。でも、全然底が分からなかった。ニルに危ないって止められたし。
あ、そうそう。こっそり、使い果たしてみようともしたんだけど。魔力が減る感覚が、全然なくて諦めた」
「ブハハハハ! リリ、それは本当に規格外だな!」
「殿下、驚きました」
「そうなの?」
そうか、そうだったのか……?