154ー動機
「まだ全然分からないね。尋問が進まないとね」
なんだか、物騒だな。
城も安心できない、て事だ。
「子供を巻き込むのは、許せません」
「ああ、リリ。分かっている。リリもハッキリと解明するまでは、絶対に一人では行動したら駄目だ。必ず、オクソールかリュカと一緒に動きなさい」
「はい、父さま」
「殿下、ご無事で!」
オクソールとユキと一緒に、部屋に戻ったらニルが駆け寄ってきた。
「ニル、大丈夫。ボクが狙われたんじゃないから」
「そうなのですか? 突然、ユキが消えて驚きました」
ああ、そっか。ユキを呼んだからか。
ニルはユキと一緒に部屋にいたんだな。
「心配かけちゃったね。ニル、ごめんね」
「いいえ、殿下。ご無事で良かったです。りんごジュースご用意しますか?」
「うん、おねがい。さてオク、ユキがやっつけた奴等の、尋問はどうするの?」
「連行して行ったのが、第1騎士団ですので、既にそちらで始まっていると思います」
そうなのか。第1騎士団て事はフレイか。
まあ、詳細が分かるまでどうしようもないよな。待つか。
結局、お披露目パーティーはディアーナ嬢の件があったので、お開きになった。
お披露目パーティーに、力を入れていた貴族達は残念だろうが、俺はラッキーだ。
もう、あんなギラギラした目で見られるのは嫌だしな。
そうして、数日が過ぎた頃にフレイに呼び出された。
「兄さま、お呼びですか?」
「リリ、またお手柄だったな」
何のことだ? と思いながら、ソファーに座る。
「兄さま、何ですか?」
「アイスクラー侯爵令嬢の、誘拐未遂事件だよ」
「ああ、お手柄ではありません。体調の悪い人を労るのは普通の事です。それで、詳細は分かりましたか?」
「ま、今日はその報告だ。リリが気にしていると聞いたからな」
フレイ率いる第1騎士団が、実行犯と侍女を取り調べた。
ぶっちゃけ、実行犯は何も知らなかった。誰だか分からない男に金で雇われたらしい。
しかし、侍女はかなり核心まで知っていた。
よっぽど、騎士団が怖かったのか、もう抵抗しても無理だと思ったのか。
ペラペラ喋ったそうだ。
黒幕は、レークス・エリニース。
ディアーナ嬢の父親である、ヒューイ・アイスクラーに敵対する侯爵だ。
なんでも、貴族専門の豪華な医療院を経営しているそうだ。
ディアーナ嬢の侍女は、元はエリニース侯爵の前妻の侍女だったらしい。
15年前に、前妻が亡くなった。その後、後妻の侍女をしていたそうだ。
その侍女が、エリニース侯爵の指示で、昨年からディアーナ嬢の侍女として、入り込んでいた。
ディアーナ嬢が盛られた薬は、レピオスが言っていた様に少しの時間、身体の自由を奪うだけで、毒性はなかった。
実行犯を城に入れたのも、この侍女だった。
「兄さま、敵対しているからと言って、どうして令嬢を誘拐までしたのですか?」
「ああ、それだが。子供を失う恐怖を、思い知らせたかったらしい」
「どう言う事ですか?」
「エリニース侯爵は、前妻と子供を同時に亡くしている。正確には、出産が難産で死産だったそうだ。そして奥方も、そのまま亡くなったそうだ」
「それが、どうしてアイスクラー侯爵の令嬢を、誘拐する事に繋がるのでしょう?」
「亡くなった前妻の出産に関わったのが、アイスクラー侯爵が経営する医療院だそうだ」
この世界、回復薬や治癒魔法があるせいか、現代日本の様に医療が発達していない。
難産で亡くなる子もいる。
産まれてきても、新生児特有の高熱で亡くなる子もいる。
いくら薬湯がよく効いて、回復魔法があっても、人体の何たるかを全く理解していない。
あんなに優秀なレピオスでさえ、脈拍を測ったり、視診打診でさえ知らない。
魔法はファンタジーで、素晴らしい力だが、だからと言って万能ではない。
「では、兄さま。逆恨みですか?」
「そうなるかな。エリニース侯爵は、アイスクラー侯爵が経営している医療院の担当医が、何か間違いでもしたと思っているのだろう」
「アイスクラー侯爵は何て言っているのですか?」
「エリニース侯爵の前妻が、医療院にいた事すら知らなかったよ」
「経営はしていても、治療内容まで知らないと言う事ですか?」
「ああ、そうだ」
まあ、普通だよな。
実際、侯爵が何か出来るとは思えない。
「それで兄さま、エリニース侯爵は?」
「ああ、捕らえて状況確認中だ」
「ディアーナ嬢は、もう回復したのですか?」
「ああ。翌日には普通に動ける様になったらしい。その後は、アイスクラー侯爵が経営する医療院に任せたらしいがね。
レピオスが許可したから、大丈夫だろう」
「良かったです。まだ小さいし、女の子だからもし後遺症でもあったら可哀想ですから」
「まあ、リリも同じ歳なんだけどね。
で、リリ。アイスクラー侯爵がお礼をしたいと言っている」
「いや、ボクはいいです」
「そう言うと思ったんだが、父上が面談の場を作る様にと言っている」
「えぇ〜……」
「まあ、令嬢がもう少し元気になってからだ。それと、あと二人いたろう?」
「二人ですか?」
「ああ。アース・シグフォルスと、レイリオン・ジェフティだ」
「ああ……」
「彼等も一緒に、おやつでも食べる様にと」
「はぁ……」
正直、めんどくせー……