150ーお披露目パーティー
光が収まると、目の前に父と母がいた。
「母さま!」
「リリ! お帰りなさい!」
抱きついた! 抱き締めてくれた!
そんな母との感動の再会からまだ10日もたっていない。
感動……冷めまくったよね。本当。
何故かと言うとな……
「まあ! リリ、とてもお似合いよ! なんて、可愛いのかしら!」
これは、その母の言葉だ。
俺は、今パーティーに出る為にキラキラの服を着せられたところだ。
そう、今日は5歳のお披露目パーティーだ。
俺が、辺境伯領に行っていたので、ずっと延期になっていたらしい。
延期なんかしないでいいのにさ。
俺に構わずやってくれたら良かったのに。
お披露目パーティーなんて、すっかり忘れていたさ。
俺は、以前に母が用意してくれていた、白の上下の正装だ。
上着は白地にグリーン掛かった金糸で刺繍があったり、飾りが付いていたりする。中に着るシャツも、襟も袖もフリフリだ。しかも前で結ぶフンワリした大きなおリボン付き。
はぁ〜……慣れねー……
なんせ、中身は現代日本人。しかも、55歳のオッサンだからな。
強張った笑顔を貼り付けるのが精一杯だ。
「さあ、リリ。参りましょう」
「はい、母さま」
あー、母のスイッチが入ってるよ。
なんせ母は生粋の侯爵令嬢だ。
母に言わせると、パーティーは戦場だそうだ。
部屋を出ると、これまた騎士団の儀礼用の団服を着たオクソールが待っていた。
上級騎士の位を持つオクソールの服装もなかなかに豪華だ。
流石に勲章はつけていないが、騎士団の儀礼用の白の団服にその上からネイビーブルーのベルベットのマントだ。右肩に襷掛けに緋色のサッシュを着けた姿は、騎士と言うよりモデルか? て感じだ。いや、コスプレか?
「オク、凄いね…… 」
「殿下こそ……なかなかのもんです」
「……ありがとう」
「まあ、なあに? 二人とも。しっかり胸張って背筋を伸ばしなさい?」
「はい、母さま」
オクソールが軽く一礼する。
「リリアス殿下、本日はおめでとうございます。エイル様、リリアス殿下、本日は私が護衛につきます」
「有難う、オクソール。宜しくお願いしますね」
「はっ、では参りましょう」
オクソールは俺と母の後ろについた。
「オク、今日はリュカはいないの?」
「殿下、リュカはまだこの様な場には出られません」
「え? そうなの?」
「はい、そうです。従者と言っても、護衛としてはまだ騎士の誓いもしてませんし」
「そうね。リュカはまだ正式な場には出られないのよ」
「母さま、そうなのですか?」
「リュカは騎士団員でもないわ。従者の正式な教育課程もまだ終わっていないのよ」
「でも、ずっとボクの側にいるのに」
「リリ、騎士団に入るには皆何年も学園で勉強して、鍛練をして騎士団入団試験に合格した者だけが騎士団に入る事ができるの。
従者もそうよ。皆子供の頃から、何年も掛けて勉強しているの。
リュカは特殊な入り方をしているから、まだ暫くは仕方ないわ」
「そっか……そっか……」
「殿下、お気になさる事はありません。皆、そうやって来たのです。リュカも同じです」
「そうなんだ。オクも?」
「もちろんです。私も騎士団の入団試験を受けて入っております」
そっか。そう言うもんなんだろうな。
リュカは俺が助けた獣人だ。
教育とかそんなの全部すっ飛ばして、俺の従者兼護衛として仕えてくれている。
リュカはまだ、勉強中なんだな。
今日のパーティーは5歳のお披露目パーティー。結局、ルーはうまく逃げた。俺の肩にとまっておくように言われたとか言ってたけどな。まあ、どっちでもいいけどさ。
このお披露目パーティー、前世で言うと七五三みたいなもんだ。
帝都にいる高位貴族の子息子女が、城に招待されている。
お子様メインだから、真昼間だ。アルコールもなく、ジュースだ。
この世界の今の時代は、生まれてすぐに亡くなる子も少なくはない。
また、貴族の子だと、命を狙われていたりする事もある。俺の様にな。
5歳まで無事だったぞ。ちゃんと育っているぞ。と、お披露目だ。
今年は、俺の側近や婚約者の立場を、狙っている者も多い。
ほんと、超ウザイ。
側近は、ニル達の様に決められた家系から、教育された者がなると決まっている。
それを知らない訳でもないだろうに。
大人達や下手したら子供まで、目をギラつかせて寄ってこられても、怖いだけだ。
「リリ、エイル。二人共、よく似合っている」
会場に入る扉の前で、父が待っていた。相変わらず、キラッキラな父だ。
そのキラッキラな父の側には、相変わらず全身黒のセティがいる。
正に、光と影だな。
「陛下、お待たせしましたか?」
「エイル、大丈夫だよ。リリ、さあ父様によく見せておくれ」
「父さま、今日は頼りにしてます」
「リリがそんな事を言うなんて、珍しいね。
「ボクは苦手です。」
「リリ、慣れなさい。あなたは皇子なのだから、逃げられないわ」
「はい、母さま」
母はいつになく、厳しい。思わず母の手を握ってしまったよ。
「リリ、大丈夫よ」
「ああ、リリ大丈夫だ。笑ってかわしていれば良い」
「陛下、お願いします」
セティが声を掛けてきた。出るらしい。
「では、私は下でお待ちしております」
オクソールが一礼して、先に会場に入る為に別の扉へ向かう。
扉が開かれる。
会場の騒めいた声が聞こえてくる。
昼間なのに、照明が沢山つけられている。この扉を入ると、俺達は会場のフロアに下りる階段に出る。
もう既にそこに、ライトが当てられている。
俺は父の後をついて、足を踏み出した。