15ー魔法
廊下を歩いていると、何処からか、るーがパタパタ飛んできた。
「るー! いつもいない!」
文句言ってやったぜ! しかも指さしてやったぜ!
全然そばにいないじゃないか。
「リリ、姿を見せていないだけさ」
「うそだぁー」
「嘘なんかじゃないよー」
「じゃあ、ボクの目を見て!」
「い、いや、僕もね。色々忙しいんだよ。でも、リリの様子は分かっているからさ」
ほれみろ。いなかったんじゃないか。いいけどさ。
「さて、魔法の練習の続きをしよう」
ご本の部屋に行くのをやめて、ルーとニルも一緒に裏庭に行く。
魔法の練習ったってさ、本当に俺に出来るのかよ。
「さて、リリ。これからリリの魔法適性を見ようと思う」
「魔法適性?」
「リリは、光属性を持っている事は知っているね。他の属性に適性があるか見るんだ。」
ほう。光以外の魔法が使えるかどうかか?
「そうだよ。まず……魔法は想像力だ!」
ルーが胸を張って鳥さんの手を挙げている。嘘つけよ。適性がないとダメなんだろ?
「まあ、そうなんだけどさ」
ルー、もしかして俺の心を読んでるか?
「そうだけど。今更なに?」
いや、喋るより楽でいいわ。なんせ3歳児は真面に喋れないからな。
「リリが言葉遅いんじゃない?」
やっぱ、そう思うか。俺もそう思うわ。でも、ルーが一人で、喋ってるからニルが変な顔して見てるぜ。気付かない振りをしておこう。
「まず、そうだな。1番適性が多くて発動しやすい、火と水だな。」
火と水か。益々アニメだな。
「はい、身体の中の魔力を意識してー、イメージしてー、片手を前に出してー、ファイヤーボール。言ってみよう。」
自分の身体の中の魔力を意識して…… 片手を前に出して……
「ふぁいやーぼーりゅ」
シーーーン………………
「るー、ダメじゃん!」
「んー、ちゃんとイメージしたかい? あれかもな。『りゅ』だな」
はぁっ? 意味わからん!
「リリ、心の中だけで言ってみ?」
心の中だけかよ……んー……ファイヤーボール。
――ボゥッ!
「わっ! 火の玉が出た!」
「ふむふむ。簡単にできたな。やっぱり、リリ言葉だね」
「もしかして、るー。りゃりりゅりぇりょがダメ?」
「みたいだな」
マジかよー! 頑張れよー! 3歳児の俺! マジ、項垂れちまうよー! まるで、ら行の呪いだよ! 超ショックだよー!
ニル、こっそり笑ってんじゃねーよ。気持ちは分かるけど。
「まあ、無詠唱て、事でいいんじゃない?はい、次。ウォーターボール」
……ウォーターボール
――バシャ!
「おおー! お水が出た!」
「うんうん、いい感じだ。じゃ、次。アースショット」
……アースショット
――ドドドッ!
「できた…… 石の弾?」
「そうだね。次、ウインドカッター」
……ウインドカッター
――ヒュンッ!
「おお、風の刃?」
なんだよ、俺出来るじゃん!
「じゃ、次。アイスボール」
……アイスボール
――パキッ!
「お! 氷が出た」
「どんどんいくよ。サンダーボール」
……サンダーボール
――バリッ!
「雷!」
「はい、次。ライト」
……ライト
――ピカッ
「あー、そのまんまだね」
「じゃ、最後だ。自分の方に手を向けて、ヒール」
……ヒール
――フワン
「ん? 何? フワンフワン温かくなった」
「ヒールは回復魔法なんだよ。光属性のね」
「じゃあ…… 」
「ああ、リリは全属性持ちだね」
「全属性……!」
ニル、驚いてる? あれ? 変なのか?
「そりぇってどうなの?」
「どうって?」
「普通はどうなのかな?」
「そうだね、普通はライトは万人が出来るんじゃない? ライトやファイヤー等は、生活魔法と呼ばれている位だしね。それでも、全属性持ちはあまりいないよね。だから、内緒にする方が良いかな」
「内緒に……そこまで?」
「はい、全属性はあまり聞いた事がありません」
ニル、そうなのか?
「ああ、リリの親には知らせておく方が良いかな。次、行くよ」
「まだあんの?」
「今やったのは、まだ全部初級だからね。はい次……」
結局、中級魔法と空間魔法、身体強化、防御、シールド等補助魔法も使える事が分かった。
「リリがあんな変な事しなきゃ楽勝なんだよ」
「変な事てなに?」
「せいっ! とかさ」
「ククク…… 」
あーー、すんません。憧れなんだよ。またニルが笑ってるよ。
「ふーん。思いっきり笑われてたけどね」
はい、申し訳ないです。
「あとね、使えば使う程上級魔法が使える様になるからね。練習あるのみだ。それから、リリは無詠唱だね。心の中だけにしてね」
「ちゃんと喋りぇりゅ様になったりゃ、だいじょぶ?」
「その頃には、慣れて無詠唱が当たり前になってるよ」
それもそうだ。ルーさん、ごもっともです。
「それにしてもさ。流石、大樹に花を咲かせただけあるよね。これだけ連続で魔法を使っても魔力切れしないんだからさ。まだまだいけるだろ?」
「んー、わかんにゃい」
「殿下、普通は魔力切れを起こしてますよ」
「リリの魔力量は膨大だからね。本当に初代みたいだ」
「ふぅーん。よくわかんないや」
と、その時だ。人が倒れる音がした。
――ドサッ!
「……ウゥッ……」
「え? るー何? ニリュ?」
「獣人だ。あれは狼か!? 珍しいな」
ルーが見ている方を俺も見る。
そこには、青み掛かったシルバー色の髪に動物の耳と、豊かでフサフサな尻尾のある青年が倒れていた。
「るー! 助けなきゃ! 大変!」
「おい、リリ。良いのか? 悪人かも知れないぞ」
「殿下! 危険です!」
「だって倒れてりゅ! 怪我してりゅよ!」
トテトテ走って行くが、なんせ3歳だ。遅い! 超遅い!
邸の裏には、俺達が魔法の練習をしていた開けた裏庭の向こうに、厩や畑や養鶏場がある。
その邸の裏と湖がある方角の樹々が繁っている境に、境界を表す様な柵が一応設けられている。
そこにその獣人は倒れていた。