149ーお世話になりました
「んん〜…… 」
「殿下、おはようございます」
「ニル、おはよう」
「ご用意して、食堂に参りましょう」
「うん、ニル」
ユキも、のそっと起きてきた。
この邸で食べる、最後の朝食だ。
今日、俺達は転移門を使って城に帰る。
騎士団もいるので、今日は俺が魔力を流す。
だから、転移門から帰るのは俺が1番最後だ。
「殿下! おはようございます!」
「シェフ、おはよう!」
「ニルズさんとテティさんから、沢山食料を頂きましたよ」
「それは良かった。こっちの食べ物はお城にはないもんね」
「はい。卵や、チーズ等は定期的に頂こうかと」
「そうなの?」
「ですので殿下、またいつでも来れますよ」
「うん、シェフありがとう」
「リリ、おはよう」
「兄さま、おはようございます!」
「さあ、食事を頂こう。シェフ、頼んだよ」
「はい! お任せ下さい」
クーファルと一緒に食堂に入ると、既に皆揃っていた。
「クーファル殿下、リリアス殿下、おはようございます」
「お兄様、おはようございます。リリ。おはよう」
「アラ殿、姉さま、おはようございます」
「今朝はリリアス殿下がお好きな、クロックムッシュです」
「シェフ、ありがとう」
「クロックムッシュを、初めて食べたのは最近なのに、もう懐かしい気がしますね」
「ああ、アスラール。本当に」
「こちらの料理人は、皆作れますので」
「シェフ、そうか…… また作ってもらおう」
「ん〜! シェフ、おいしい〜!」
「殿下、有難うございます!」
「本当に食事が豊かになりましたわね」
「ええ、母上。ニルズとテティも頑張ってくれてます」
「アスラール、私の知らない料理が、沢山あるみたいだから作ってもらわないと」
「母上、少しずつですよ?」
「アスラール、分かっているわ」
「クーファル殿下、フィオン様、リリアス殿下。邸の者や、領主隊がご挨拶をしたいと申しておりまして」
「辺境伯、大袈裟にしたくはないのだが」
「殿下、皆感謝をお伝えしたいのです」
「私達は、出来る事をしただけだ。それに、リリのお陰でいつでも行き来できるようになった事だし」
「殿下、お願い致します。お別れを言わせてもらえませんか?」
「フィオン、リリ?」
「お兄様、構いませんわよ」
「…………」
「リリ? 無心で食べてるね。聞いていたかな?」
「……ゴクン。兄さま、ボクもみんなにありがとうを言いたいです」
「じゃあ、辺境伯。少しだけ。またフィオンの事でも来るからね。本当に大袈裟にしたくないんだよ」
「はい、殿下。有難うございます」
ま、いいじゃん。
また直ぐに来たりしてな〜。
食堂を出ると、オクソールとリュカが待っていた。
「クーファル殿下、フィオン様、リリアス殿下、おはようございます」
「オクソール、もう準備は出来ているかな?」
「はい、クーファル殿下。いつでも、出発できます」
「殿下、それより大変な事になってます」
「リュカ、なんだ?」
「お邸の前庭に、領主隊だけでなく領民まで集まってます!」
邸を出て、前庭に降りる階段に出ると、前庭に領主隊が整列しているのが見えた。
その後ろには、領民たちがいる。ニルズやテティの顔も見える。
領主隊隊長のウルが1番前の中央にいた。ウルがこっちに一礼して領主隊や領民達の方を振り返り、一同を見回しておもむろに笛をふいた。
ーーピピーーー!!
同時に領主隊が一斉に、右手を胸に持ってくる。帝国の敬礼だ。
ーーピピッ!!
――有難うございましたッ!!!
打ち合わせでもしたのか?
領主隊と領民達が、一斉に大きな声で言った。
ヤベ、泣きそうだ。
「兄さま」
「お兄様」
「ああ…… 」
クーファルがゆっくりと、階段ギリギリまで前に出る。
「皆、有難う。大変、世話になった。私達は、この地を、この地の民達を誇りに思う。
良い街だ。この地はまだまだ良くなる。
初代皇帝と初代辺境伯が守り抜いた地だ。その縁は今も繋がっている。
この地から帝国全土へ、新しい風を吹かせてくれ。更なる繁栄を!」
――おおーーッ!!!!
空気が震えた。
クーファル、カッケー!! 俺には真似できねーわ。
俺がクーファルを尊敬の眼差しで見ていると、領主隊の後ろからニルズの声が聞こえてきた。
「リリ殿下! 待ってるからなー! また来てくれよー!!」
おいおい、ニルズ。恥ずかしいから、止めてくれ。
「フィオンさまー! 奥様を助けてくれて有難うー!!」
この声はテティだ。似たもの夫婦だ。
領民達が口々に叫びだした。
――有難うー!
――また来てさくださーい!
――クーファル殿下、カッコいいー!
ん? カッコいいて今言う? 確かにクーファルはカッコいいけどさ。
「リリ、手を振ってあげなさい」
クーファルに言われて、俺は手を振る。
また、絶対に来よう。
アスラールと領地を探検しよう。
ニルズと、海に出よう。
次は、夫人と沢山遊ぼう。
「さあ、城に帰ろう。父上とリリの母上が待ってる」
「はい、兄さま」
「これで最後だね。」
俺は辺境伯邸の地下にある、転移門に魔力を通している。
騎士団30人、フィオンやレピオス、シェフやお付きの者達、騎士団と一緒にケイアも既に転移させた。それも何と、馬や馬車もだ。
邸の裏に搬入口があるんだ。そこから直接、馬や馬車を入れた。階段にも通れるように取り敢えずだがスロープのようにしてもらった。また、後日ちゃんとした物を作るそうだ。城の方でも同じ事をしてくれている。
俺が転移門を修理した時に容量を大幅にアップしておいたんだ。それこそ、もしもまたスタンピードが起きても大丈夫なようにな。
ま、向こうに付いて転移門から捌ける事を考えて、少し時間を空けないといけないけどな。次々と転移させてしまうとつっかえてしまう、て事だ。
残っているのは、クーファルとソール、オクソールとリュカ、ニルとユキだけだ。
「辺境伯、世話になった。フィオンの事はまた連絡があるだろうから、それを待ってくれるかな」
「はい、クーファル殿下」
「辺境伯、夫人、これからだ。まだまだ、これから本当に幸せにならなければ。
この領地もまだまだ発展させないとな。期待しているよ」
「はっ! クーファル殿下」
「さあ、リリ帰ろう」
「はい、兄さま」
クーファル達と転移門の中央に立つ。
「アラ殿、アリンナ様、アスラ殿、アルコース殿。お世話になりました!」
俺は転移門に魔力を通した。
転移門が光り、俺達も光に包まれる。




