146ーありがとう!
無事に買い物を済ませて、クーファルと手を繋いで街を歩く。
なんか、やたらと見られてる? 視線を感じるぞ?
「兄さま、見られてますか?」
「ああ、そうだね」
「殿下、皆クーファル殿下とリリアス殿下だと、分かっているのですよ」
「アルコース殿、そうなの? なんで!?」
「アハハ。リリは来る時に、辺境伯の馬に一緒に乗っていただろう? その後も何度も馬で通っているからね」
「兄さま、何度も通りましたか?」
「ああ、通っているよ」
「殿下、リリアス殿下は殆ど寝ていらしたので」
「ああ、オクソール、そうか。リリは覚えてないか」
なんだと!? 俺は寝ている姿を、街の人達に見られていたのか!?
「兄さま! 恥ずかしいです!」
「アハハ、リリ。もう遅いよ」
マジかよー! 俺、寝ながら涎垂らしてなかったか!?
「リリアス殿下、大丈夫です」
「オク、大丈夫じゃないよー」
「大丈夫です。可愛らしいと評判でしたから」
マジかよ……最悪じゃん。
「ねえ」
急に服の袖を引っ張られた。
なんだ?
少し驚きながら、振り返る。
そこには俺より小さい女の子が居た。
「なぁに? どうしたの?」
「リリ殿下?」
「うん。そうだよ」
「これ、うちのばぁばがリリ殿下にって」
小さい女の子が差し出してきたのは、小さなピンクの花だ。
「え? ボク?」
「うん。守ってくれて、美味しいものを見つけてくれてありがとう。て、言ってた」
「お利口さんだね。ありがとう。よく覚えたね」
「うん。ばぁばに何回も言わされたから」
アハハハ、何回も言わされたんだ。
「ばぁばはどこにいるの?」
「あそこ」
女の子が指差す方を見ると、お花を売っているお婆さんがいた。
「一緒にばぁばのとこに行こうか」
「うん」
俺が女の子と、手をつないで一緒に近付いて行くと、お婆さんがお辞儀をした。
「ばぁば、リリ殿下が来たよ!」
「こんにちは。お花をありがとう!」
「リリ殿下、こちらこそ有難うございます」
「こんにちは、リリに花をくれたの?」
「まあまあ! クーファル殿下まで!」
「有難う。売り物じゃないのかい? リリが貰ってもいいの?」
「はい! こんな花で申し訳ないですが、宜しければどうぞ」
「有難う。リリ、良かったね」
「はい、兄さま。お婆さん、ありがとう!」
俺はニッコリしながら礼を言う。
「まあまあまあ! なんてお可愛らしい!」
「あ、ありがとう……?」
「クフッ」
リュカだ。こいつはいつも吹き出してる!
――クーファル殿下! リリ殿下! ありがとうー!
――有難うございます!
――また、いらしてください!
お婆さんと話した事がきっかけになってしまったのか、彼方此方から声がかかる。
もしかして、皆、遠慮してくれてたのか?
「兄さま、どうしましょう?」
「アハハ、困ったね」
「困りました」
どーすっかなー……
「兄さま、抱っこしてください」
「どうした?」
クーファルに抱き上げてもらう。
俺は、もらった花を持った手を上げた。
「ボクの方こそ、ありがとうー! 楽しかったよー! また、来るからよろしくねー!!」
大声で言ってやったぜ。言い切ってやったぜ。めちゃくちゃ恥ずかしいけどな!
ワァーー! と、声が上がった。
――殿下ー!
――まってるぜー!
――ありがとうー!
クーファルに抱っこしてもらいながら、馬車に戻る。
「ククククッ。リリ、兄さまは驚いたよ!」
「兄さま、だって……」
「まあ、仕方ないね」
「はい」
「兄さま。今度来る時は、変装してこなきゃッ!」
「アハハハ! それは良い考えだ!」
「いや、殿下。バレバレですって」
「リュカ、うるさい」
もう、リュカは一言多いんだよ。
邸に帰ると、ニルズとテティが待っていた。
「よう! リリ殿下! もう、帰るんだってな!」
「うん! おっちゃん! 明日、帰るよ!」
俺は走って行って、ニルズに飛びついた。
「アハハハ! どーした!? やっぱ帰るのは嬉しいか!?」
ニルズはそのまま抱き上げてくれる。
「おっちゃん、ボクはまだ5歳だよ? そりゃ、母さまが恋しいよ」
「あー、そうだよな」
「でもね、おっちゃん。今度は、母さまと一緒に来るからね! 母さまも、おっちゃんに会いたいって言ってた!」
「そうかそうか! そうだな! 今度は一緒に来るといい! 色々案内してやるよ!」
「うん! おっちゃん! ありがとう!」
「もう、あんたは言葉使いを気をつけて、て言ってるのに!」
「テティ、いいんだ! おっちゃんと、テティはそのままがいい!」
「リリアス殿下……!」
「おっちゃん、テティ! ありがとう!!
2人に出会えて、本当によかった!」
「殿下!! 本当にまた来てくださいね! 待ってますからね!」
あらら、テティ泣いちゃったよ。
「テティ、泣かないでー! おっちゃん、どーすんの!?」
て、おい! ニルズもかよ!?
いい歳したオッサンが泣くんじゃねーよ!
「リリ殿下! 寂しくなるよー! 俺達の子供は、もうでっかくなっちまったからな。殿下は孫みたいなもんなんだよ。
楽しかったぜ! また、一緒に海に出ような!」
「うん! おっちゃん!」
「殿下、シェフに干した魚や昆布とか、色々渡しておきました。お城でも、食べてくださいね」
「テティ、ありがとう。お手紙書くね」
「まあ! 殿下、待ってますね」
「うん! テティ、ありがとう!」
俺はニルズに抱っこされながら、2人の首に手を回して抱き寄せた。