145ー初めての街
俺はクーファルとソールと一緒に、馬車に乗っている。
馬車の前後に、オクソールとリュカがいる。
「兄さま、馬車はどうするんですか?」
「街に馬車預かりがあるんだよ。そこに預けるんだ」
「へぇ〜」
パーキングみたいだな。
俺は馬車の中から外を見る。
あれ? あれはアルコースじゃないか?
「兄さま、アルコース殿が馬で追いかけてきます」
「アルコース殿が?」
馬車が止まった。
「殿下、街に行かれるそうで」
「ああ。リリと少し買い物をね」
「ご一緒します。お声を掛けて下されば、ご案内しますよ」
「リリの練習に良いと思い付いたからね。じゃあ、アルコース頼むよ」
「はい、殿下」
おや、危ない店でもあるのか?
馬車が走りだし、少しするとまた止まった。
「殿下、馬車はここまでだそうです」
どうやら、もう街に着いたらしい。
近いよな? わざわざ馬車に乗る必要あんのか?
天気も良いし、ユキに乗ってのんびり行きたい感じたな。
「リリ、降りよう」
「はい、兄さま」
先にソールが降りて、降ろしてくれた。
街かぁ……初めてだ。
色んな匂いがする。
生活があるんだなぁ。
この世界で生きているんだ。
信号もない、コンビニもない……
俺もこの世界で生きて行くんだ。
「リリ、どうした?」
「兄さま、なんでもないです」
「殿下、どちらにご案内しましょうか?」
「リリがね、魔石を買いたいそうなんだ」
「魔石ですか。では、あちらの区画ですね」
アルコースとソールが前を歩き、その後ろをクーファルと手を繋いで歩く。
俺達の後ろには、オクソールとリュカだ。
「エヘヘ」
「ん? リリどうした?」
「兄さまと手を繋いで歩くのは、久しぶりです」
俺はちょっとスキップしてしまったぜ。
中身おっさんなのに、かなり恥ずい。
「ああ、そうだね。リリはもう5歳だからね。手を繋ぐのも、少なくなったね」
「はい。兄さまは大きいです」
「手かな?」
「手もですが、背も大きいです」
「リリも大きくなるさ」
「そうですか?」
「ああ。兄様はずっと、小さいリリでいてほしい気もするね」
「兄さま、それは嫌です」
「そうかい?」
「はい。いつまでも、守ってもらうだけなのは嫌です」
「リリ……リリはまだ小さいから良いんだよ」
「だから、早く大きくなりたいです」
「急がなくていい。ゆっくりでいいよ」
「兄さま」
「殿下、この一画が魔石や魔道具を、売っている店が並んでます」
「アルコース、魔石はどこがお勧めかな?」
「はい、こちらです。邸にも納品して貰っている店があります」
アルコースが一つの店に入って行く。
ソールが扉を開けてくれている。
「ソール、ありがとう」
「いいえ、殿下」
ソール、かっこいい。
気遣いの出来る大人て感じだ。
「わぁ、凄い……!」
店に入ると、魔石や魔道具、アクセサリーでいっぱいだった。
全部魔石を使っているのだろう。
店番のお婆さんがニコニコして見ている。
「リリ、ルー様が言ってたのは魔石だけだったかな?」
「いえ、兄さま。お手紙を入れる箱もいるそうです」
「そうか。この店で揃いそうだね」
「兄さま、またお願いがあります」
「ん? どうした?」
ゴニョゴニョと、クーファルに耳打ちした。
「ああ、好きなのを選ぶといいよ」
「兄さま! ありがとうございます!」
やったぜ、クーファル有難う!
取り敢えず、先に魔石だ。
「どれ位の大きさがいるのかな?」
「兄さま、1センチ位で良いそうです。あ、あと、例えば魔力を流す人が火属性なら、火属性を通しやすいのがいいと」
よく分からん。
「そうか。アルコース、ちょっといいかな?」
「はい、殿下。どうされました?」
「君の家族で共通した魔力属性はあるのかな?」
「共通ですか……風ですね。父も兄も私も風属性は使えます」
なるほど、そうか。
風属性と相性の良い魔石を使うと、3人に使えると言う事か。
「兄さま、どの属性にも、相性の良い魔石はあるのですか?」
「ああ、あるよ。そうだな……例えばこれだ」
「クリスタルですか?」
「ああ。でもこのクリスタルは、装飾に使うのとは違って、魔素を多く含んでいるんだ。魔物からとれる魔石は、魔物の属性と同じだ。鉱石もそうなんだが、その中でもクリスタルは違う。
後は、ここにはないけど、白金だね」
でも、きっとそれだけお値段もいいんだろうな。
「兄さま、じゃあ今日は風ですか?」
「そうだね。ここら辺かな?」
クーファルが選んだのは、緑の魔石。
「兄さま、お城には魔石はありますか?」
「ああ、あるよ。だから、風属性だけで大丈夫だ」
「はい。じゃあこれにします。兄さま、これを買ってください」
俺は緑の魔石を手に乗せて、クーファルに差し出す。
「リリ、1個でいいのかな?」
「はい。もし改良したら、またその時に考えます」
「そう。じゃあリリ、あっちを見ておいで」
クーファルが目で示す。
「はい、兄さま。ちょっと待っててください!」
俺はクーファルが示した方へ行く。
んー、どれも一緒に見えるぜ。
「殿下、贈り物ですか?」
「オク、まだ内緒だよ。姉さまにね。
でも、どれも一緒に見える」
「そうですね」
「殿下もオクソール様も、疎いですもんね」
「リュカ、なんかやだ」
「え? 何でですか?」
「ねえ、オク。やだよね?」
「はい、そうですよね。」
ん〜、これは自分で選びたい。
普段使えて、他にアクセサリーをつけても邪魔しないのがいい。
それに、俺の金じゃないしな。
魔石は別として。
「これにしよ」
「殿下、そんなに華奢なので良いんですか?」
「うん。守る魔石をつけるからいつも身につけてほしいの。だから邪魔しない様に。
それに、ボクのお金じゃないから」
「そうでした。殿下は今日が初めてでしたね」
「うん、オク。街に出るのも初めてだ。お城に帰っても、時々街に出たい」
「陛下にご相談されては、どうですか?」
「うん。そうするよ」
俺は選んだ物を、クーファルに持って行った。
「兄さま、これをお願いします」
「リリ、これで良いのか? 遠慮しなくて良いんだよ?」
「兄さま、他のをつけても邪魔しない様に。いつも、つけてもらえる様に、これを選びました」
「そうか。じゃあ、これにしよう」
「はい。お願いします!」
クーファルに買ってもらったぜ。太っ腹だね。て、お金の価値なんて全然知らないんだけどな。