140ー確信犯
――ピピーー!
アルコースの笛が鳴り響く。
なんと、あっという間だった。
最後尾から、オクソールとリュカが2〜3回ロープを引いただけで、勝敗が決まってしまった。
「兄さま、これオクとリュカは反則になりませんか?」
「ハハハ、若干そうかも知れないね」
いや、マジで。若干じゃねーよ。
こんなの、力の差がありすぎるじゃないか。
さて、決勝戦だ。
騎士団は、オクソールとリュカがいる。
領主隊は、隊長のウルや副団長がいる。
「Ready……」
アルコースが旗を上げた。
隊員達がロープを掴む。
最終決戦だ!
どっちも頑張れ!
「go!!」
アルコースが、同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。
――せーーのッ! せーのッ! せーのッ!
騎士団も領主隊も同時に、皆ロープを脇にしっかり挟んで引きだした。
おー! 今度は領主隊も踏ん張っている。
――せーーのッ! せーのッ! せーのッ!
しかし、最初は耐えているだけだった、最後尾のオクソールとリュカが引き始めると、しっかりと踏ん張っていた筈の領主隊が、ズルズルと引きずられ始めて……
――ピピーー!
「騎士団の勝利!!」
――おぉーー!!
そりゃそうだよ。
獣人が2人もいるんだぜ。
やっぱ反則だよ。
「兄さま、次からはオクとリュカは、出場させたら駄目ですね」
「リリ、何を言ってるんだい? 勝つためには手段を選んではいけないよ?」
「ええー!」
クーファル、確信犯だったか!?
騎士団と領主隊から2名ずつ、籠を背負った隊員達が出てきた。
あ、シェフだ! 籠を背負って出てきた。
「シェフー!! 頑張ってーー!!」
俺は大声で、応援する!
シェフが手を上げて応えてくれた。
両手に一つずつ、ふわふわの球を持った隊員達が31名ずつ出てきた。
領主隊が赤、騎士団が第2騎士団の色の碧色だ。
籠を背負った隊員だけ立っていて、後の隊員はしゃがんでいる。
「兄さま、しゃがんでスタートなんですか?」
「ああ。球を入れる者は必ず片膝をついて、しゃがんでスタートだ」
へぇ〜。そんなルールなんだ。
「兄さま、何分入れられるのですか?」
「3分だ。昔は5分だったらしいんだがね。5分だと、騎士団は皆入れてしまうんだよ。それで最近は3分に短縮したんだ」
「みんな入れちゃうんですか!?」
「そうだよ」
騎士団スゲー! 想像できねーぞ。
今度は審判のアスラールが前に出てきた。
片手に旗を持っている。
「片膝をつけているかー!?」
――おぉー!!
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
隊員達が、じっと目当ての籠を見る。
「go!!」
アスラールが同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに走ってコートから離れる。
籠を背負った隊員達が、逃げまくる。
その籠を目掛けて、球を投げる隊員達。
「うわ、痛そう!」
「ハハハ、リリ当たっても痛くないよ」
「兄さま、そうですか?」
「ああ、砂を綿で包んで入れてあるからね」
「そうなんだ」
シェフが逃げまくっている。
逃げながら、飛んでくる球をヒョイヒョイと身をひるがえして避けている。
「シェフ、凄い!!」
「アハハハ! 本当に! リリのシェフは凄いね!」
シェフ、楽しんでる? 遊んでる?
ヒョイと、片足上げたり、ヒョイと両手を広げたり。
ヨッ! ホッ! ハッ! と、かけ声までかけている。
全然、余裕じゃねーか! あれは対戦相手はムカつくぜ!?
――ピピーー!
「殿下、数えますか?」
アルコースが誘いに来てくれた。
「うんッ! 数える!!」
俺は、アルコースに抱き上げられて、中央へ行く。
――リリアス殿下だ!
――あー! 殿下!
――殿下、かーわいーい!
見学の領民達から声があがる。恥ずかしいからやめてほしい。
「殿下、真ん中で数えて下さい。俺は騎士団の球を、兄は領主隊の球を1個ずつ上に投げます。どちらかが、無くなったら終わりです」
「うん! アルコース殿、分かった!」
「殿下、殿下! これに乗って下さい! 殿下、小さいから!」
リュカが台を持って走ってきて、また余計な事を言った。
「もう! リュカ! また!」
「ほら、始めて下さい!」
アスラールとアルコースが籠を持ってスタンバッている。
俺はピョンと台に乗った。
「いきまーす!
いーち!
にー!
さーん!
…………!」
俺が数えるのに合わせて、球が上に投げられる。
「……
ごじゅう!
ごじゅういち!」
ここで、領主隊の球が無くなった。
「殿下、騎士団が無くなるまで数えましょう」
アスラールが教えてくれる。
「ごじゅうにー!
ごじゅうさーん!
ごじゅうよーん!
ごじゅうごー!
ごじゅうろーく!
ごじゅうなーな!
ごじゅうはーち!
ここで騎士団の球も無くなった。
「58対51で、騎士団の勝ちー!!」
俺が大きな声で告げる!
――おおーーー!!!!
えっ!? 凄くない!?
それぞれ62個あったんだぜ。
62個中58個入れるなんて、俺は聞いた事ないぜ!?
まあ、小学校の玉入れしか知らんがね。
領主隊だって、充分スゲーよ。
「殿下、有難うございました。次は危ないので、戻りましょう」
アスラールがそう言って、抱き上げてくれる
「リリ、かわいかったよ」
「兄さま、やめてください。ボクも参加したいです」
「もっと大きくなったらね」
「兄さまは参加しないのですか?」
「ああ、私はしないよ。フレイ兄上はいつも参加するみたいだよ」
「そうなんですか!? あー、でもフレイ兄さまは、ムキになってやってそうです」
「アハハハ。リリ、その通りだね」
騎士団とオクソール、リュカ、シェフ。
領主隊から33名の選抜隊。
両手に赤と碧の紙風船をつけて、剣の代わりのフヨンフヨンの棒を持って出てきた。
――領主隊頑張れー!
――最後だぞー!
――勝てよー!
領民達が声援を送る。
さあ、最終決戦だ!