14ーせいっ!
俺は今魔法の練習をしている。先生はもちろんルーだ。先ずは、何と言っても適性のある光属性魔法だろ。
「んんんんんー……せいッッ!!」
「リリ、だから何でそうなるんだ?」
ルーがパタパタと飛び回りながら、文句を言う。
「リリ、普通にさ魔力を身体の真ん中に集められるんだろ? そこから引っ張ってくるだけだろう?」
俺は両膝に手をつき、項垂れる。
「む、む、むじゅかしい!」
「なんでだよー!!」
ニルとオクソールが、腹を抱えて笑ってないか? 笑ってるよな。
「ニリュ、オク、わりゃったりゃメッ!!」
「ブハハハハッ!」
「クフフッ!」
「あー! メッ!!」
「殿下、その変な掛け声は何ですか?クフフッ」
「オク変? なにが?」
「その、『せいッ!』です」
「オク、勢いだよ勢い! せいッ! て、勢いつけてんの!」
「勢いですか? クハハッ!」
「あー、また笑ったー!」
「では、殿下。その手は、ポーズは何ですか?」
「こりぇは……なんとなく?」
ついやっちまうんだよ。いや、やりたいんだよ。
かーめーはー○ーはーッ!! みたいなさ。
憧れじゃん? 全日本男子の憧れだよ。世代を超えて愛される永遠のヒーローだよ。わかんねーだろうなー。
「ヒー、アハハハ!」
オクソールって笑上戸だったのか? 涙流して笑ってないか? いつもクールだから、こんなオクソールが見られるのはちょっと嬉しい。
「殿下、その変な掛け声とポーズをやめてみたら如何ですか?」
「オクは、りょまんが分かってないな?」
両手を腰にやって、偉そうに言ってやった。ちびっ子なのに。
「ん? なんです?」
「りょまんだよ、りょ、ま、ん!」
「ああ、ロマンですか。クハハハハッ!」
何だよ、ヒデーな。俺まで釣られて笑いそうだぜ。楽しくなってきたぜ。
「フゥ……殿下、少し手をこちらに」
オクソールが、膝をついて俺に目線をあわせ両手の平を上にして出してきたので、そのまま手を重ねる。
「宜しいですか? 感覚を覚えて下さい。私から殿下に魔力を流します」
「わかった」
目を瞑って、手に意識を集中してみる。重ねた手から、温かいものが流れてくる。スゲーじゃないか。
「んー……おおッ! オク分かりゅ!」
「分かりますか?」
オクソール、スゲーよ。ルーより全然分かりやすいよ。
「わかりゅ、わかりゅ!」
「では、今度は殿下が私に流してみて下さい。掛け声はなしで」
流す……流せば良いのか?
「んんん…… 」
こんな感じか? 手からオクソールに流れていくように……
「……おお! そうです、殿下。お上手です。では、手を離しますよ」
「うん……んー……せいッ!」
やってしまった……!
両手を前に出して、超有名なスーパーな、あのポーズ。
「ブハハハハハ……ッ!」
なんでそんなに笑うんだよ。そんなに変か? あれか、俺の短い手足が原因か? 幼児体型だからか? いや、とってもキュートだろうよ? 超可愛いだろうよ!?
「殿下、何故そこで掛け声が!? そしてまたそのポーズです! クハハハッ!」
「リリアス殿下、可笑しいです! クフフフ……ッ!」
また二人で笑う。でも、最近はずっと空気が重かったからな。二人が笑っているのを見ているとなんだか少し嬉しい。ほっこりするぜ。
「リリさぁ、何だか知らんけど、それ止めな?」
「るー、そう?」
「うん、ダメだね。リリ、ふざけてるなら教えないよ?」
「るー! ふざけてない! めちゃ真剣!」
「じゃあ、それやめて!」
「あい…… 」
あぁー、俺のロマンがぁぁ……!!
「リリアス殿下、そろそろお昼にしましょう」
「ニリュ、わかった」
ニルと手を繋いで邸に入る。
「今日のお昼は何かなー?」
3歳児はまだ体力がないんだよ。
昼飯食べたら当然お昼寝さ。広いベッドに入って、小さく丸くなって寝る。こうすると、安心するんだ。
前世の愛妻に息子、元気でやってるかな。俺の保険金は出たかなぁ? 俺は元気だよ。こっちで頑張ってるよ。3歳児だけどね。
「寝られましたね」
「ああ、本当に手のかからない皇子殿下だ」
「オクソール様、ちょっと二人で笑いすぎましたね」
「ククッ。ニル殿、あれは仕方がないだろう。あの可愛らしいお声で、あの体型だ。殿下は時々とんでもなく面白い事をなさる」
「ええ、無邪気で可愛らしいです」
「ああ、3歳児らしくてお可愛らしい。さて私は、邸の周りを見回ってきます」
「はい。私は此処におります」
「ああ、頼む」
「……ん……ニリュ」
「殿下お目覚めですか?」
ジョボジョボした目を擦りながら起きる。
「何かお飲みになりますか?」
「うん、りんごジュースがいい」
「はい、畏まりました」
そう言ってニルが、りんごジュースを取りに部屋の隅に行った。
俺はヨイショと足からベッドを降りて、ソファに座って待つ。足をぷらんぷらんさせながら。
「ねえ、ニリュ。オクは?」
「見回りに行かれてますよ」
りんごジュースが置かれた。
「そう……ありがとう。おいしかった」
ソファにボーッと座る。
「リリアス殿下、お疲れですか?」
「ううん、違う。るーは?」
「さあ? どこに行かれたんでしょうね」
「やっぱ、いつもいない」
「ルー様ですか?」
「うん。るーはいつもボクの側にいりゅって言うんだ。でも、いないよね?」
「そうですね。でも精霊様ですから。もしかしたら見えないだけで、いつもリリアス殿下を見守って下さっているのかも知れません」
「そうかなぁー。ニリュ、ご本のお部屋に行く」
俺は、ソファからヨイショとおりる。
まだ小さいから足が床につかないんだよ。ちびっ子だから。
「はい、リリアス殿下。」
ニルに手をひかれて、本ばかり置いてある部屋に向かう。書庫って言うんだっけ? 小さな図書室みたいなもんだな。
字が読める様になったら、自分で本を選びたくなった。それで最近は、通称『ご本のお部屋』に足を運んでいる。
「ニリュ、今日はお天気がいいかりゃ、お庭でご本を読もうかなー」
「夕方になるとまだ風が冷たくなりますから、お庭で読まれるのは午前中にされる方が宜しいですよ」
「そっか、わかった」
そんな事を話しながら、ご本のお部屋までポテポテ歩く。