138ー対戦当日
「……ふぁ……ん」
「殿下、おはようございます」
「ニル、おはよう」
俺の横で、小さいユキが伸びをしている。
最近寝る時は小さくなって、ベッドに入ってくる。寒いのかな? ネコ科だし。
俺はユキの体温とモフモフで、天然の湯たんぽ状態だ。
「殿下、ご用意して下さい。早く朝食を食べませんと」
「ニル、そうだった!」
俺はぴょんとベッドから下りる。
顔を洗って着替えて、食堂へ向かう。
今日はさ、アレだよ。アレ。
騎士団vs領主隊の3種競技大会だ。
昨日からもう既に、邸の前庭には区分けがされている。
ここから領民は入ったらダメだぞ。て、区分けだ。
「リリ、今日は何だ?」
「ユキ、昨日綱引きやったでしょ? あれの本番だよ。
あと玉入れと紙風船割とするんだ。領主隊と騎士団の対決だ」
食堂のある階に下りると、ワゴンを押しながらシェフがやって来た。
「殿下! おはようございます!」
「シェフ、おはよう! 準備しなくていいの?」
「殿下のお食事が終わったら行きますよ。騎士団も食事中ですから」
「そうなの? 応援してるから、頑張ってね!」
「はい! 殿下、有難う御座います! 殿下、ちょっとご相談が」
「どうしたの?」
食堂まで歩きながら話す。
「終わってから、昼食を前庭で見に来ている領民達にも振る舞うそうなのですが。
皆で、ワイワイと食べられるメニューは、何かありませんか?」
「んー、外でかぁ……」
じゃあ、アレに決まりだろ!?
「シェフ、バーベキューは?」
「バーベキューですか?」
「うん。シチューとかもあればいいなぁ」
「殿下、そのバーベキューとは?」
「あのね……」
はい、説明は省きます!
「さあ、殿下。どうぞ。沢山食べて下さい」
今朝は、おにぎりだった。
「シェフ、ありがとう! いただきまーす」
と、俺はしっかりと大きな口をあけておにぎりを頬張る。ウマウマだぜ。俺の可愛いほっぺも膨らむぜ。
てか、何で今朝はおにぎり?
「シェフ、今朝は何でおにぎり?」
「はい。隊員達からのリクエストです。米の方が腹持ちが良いからと」
「なるほろね〜……」
うん、そりゃパンよりはな。
「シェフ、これも美味しい!」
「はい! ソイがあると料理の幅が広がります!」
「そっか! 良かった!」
牛肉ときのこの時雨煮だ。おにぎりに合わない訳がない。おにぎりと一緒にあーんと頬張る。ワカメの味噌汁も美味いよー。
しかしなぁ、和食をナイフとフォークで食べる、この違和感よ。残念だねぇ。
「あれ? 今日はユキもう調理場に行ったの?」
「はい。今日は慌ただしいので、早く食べてもらってます」
「いつもごめんね」
「殿下、何を仰います! 神獣の食事を担当する事などありませんから。皆、喜んでますよ」
「本当? なら、良いけど。ユキ、めちゃ食べるからさ」
「はい、凄い食べますね!」
「リリ、おはよう。今朝は早いね」
「兄さま、おはようございます!」
「あら、本当に」
「姉さま、おはようございます!」
クーファルとフィオンが、食堂に入ってきた。
「リリ、おはよう。どうしたの? 早いのね? あらあら、可愛いほっぺにご飯粒がついてるわ」
あらら。フィオンは俺のほっぺのご飯粒を摘んでついでに拭いてくれる。
ちょっと恥ずかしい。もう5歳なのに。
「姉さま、ありがとうございます。今日は本番ですから! ボク、食べるのが遅いので早く来ました」
「ああ、対戦だね」
「はい! 兄さま!」
「リリ、出ないのに張り切ってるね」
「兄さま、ボクも本当は出たいです。でも、オクに駄目と言われました」
「そりゃあそうだよ。まだ小さいリリが、あの中に入ったら潰れてしまうよ?」
「えぇッ!! 兄さま、ボク潰れますか!?」
「ああ、潰れるね」
「ええ、潰れちゃうわね。ふふふ」
「姉さままで!」
ショックだぜ!
俺ってそんなに小さいか!?
あー……まあ、小さいよな。
5歳児だもんな。一瞬、忘れてたわ。
「シェフ、ごちそうさまー! シェフ、ユキに食べたらお庭に来るように言っといて!」
「殿下、もう行かれるのですか?」
「うん! 見に行く!」
「リリ! 待ちなさい!」
「え、兄さま。駄目ですか?」
「リュカが来るまで待ちなさい。危ないからね」
「はーい」
「おや、リリアス殿下。今日は早いですね。もう食べられたのですか?」
アラウィンが入ってきて、俺の皿が空になっているのを見て言った。
「おはようございます! だってアラ殿、早く見に行かなきゃ!」
「ああ、対戦ですな。今度こそ、騎士団に勝たせてもらいますよ」
「アラ殿、どうでしょうね? オクもリュカもいますから!」
「せめて1種目位は、勝ちませんと」
「え、騎士団てそんなに強いのですか?」
「リリ、騎士団は負け知らずだと言っただろう? 騎士団は3種目すべて勝っているよ」
「兄さま、まさか3種目全部勝ってるとは、思いませんでした」
マジか!? 騎士団スゲーな! もしかして、オクソールの鍛練の賜物か?
「失礼致します。リリアス殿下、お待たせしました」
「リュカ! もう、食べたの?」
「はい! 行きますか?」
「うん! じゃあ、ボク行きます!」
椅子から下りてリュカと部屋を出る。
「リリ、気をつけなさい! リュカ、頼んだよ」
「はい、クーファル殿下。失礼致します」
「リュカ、待ってたんだ!」
「ハハハ、殿下ならそうだろうと思って、早く食べて来ました」
「えー、リュカちゃんと食べた?」
「はい、食べましたよ」
「じゃあ、いいけど。急がせちゃって、ごめん」
「いえ、殿下。大丈夫です。今日も全種目勝ちますよ!」
「うん! 頑張って!」
邸の前庭に出ると、もう隊員達がかなり集まっていた。皆んな、ヤル気だぜ!
「殿下、おはよう御座います」
オクソールが俺を見つけて、やって来た。
「オク、おはよう! ちゃんと食べた?」
「はい、食べましたよ」
「ちゃんと食べないと、力が出ないからね」
「殿下、大丈夫です。勝ちますよ!」
「うん! 頑張って!」
楽しみだぜ!!