134ーvsユキ
「それにしても、オク。まるでお祭り騒ぎじゃない?」
明日の騎士団vs領主隊の競技は領民達にも公開される。
辺境伯邸の、だだっ広い前庭が競技場になっている。
まだ競技本番は明日なのに、領主隊が裏で選抜戦をしているせいか、既に領民達が集まっていてちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
「殿下、まあ毎回こうなりますね」
「で、今までの成績はどうなの?」
「騎士団は負け知らずです」
「凄いッ!!」
「獣人の私が参加しますから。ちょっと、反則かも知れないですね。今回はリュカもいます。
騎士団に勝つのは、難しいのではないでしょうか?」
なるほど、獣人が二人いるもんな。
でも、リュカは頼んないぜ?
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
領主隊が綱引きをやっている。
コレッて綱引きなのか? いや、綱引きだよな?
俺は小学校の運動会の綱引きしか知らないが、記憶にあるロープとは全然違う。
太いんだよ! 長いんだよ!
「ねえ、オク。これ何人で引くの?」
「16人対16人ですよ。ですので、綱引きだけ2回戦あります」
「凄いね。掛け声で地響きがしそうだ」
「ハハハ、皆声が大きいですからね」
いやいや、それだけじゃないだろ。声が低いんだよ。まあ、みんな男だから当然なんだが。
「ひょえ〜〜!!」
ふと、思いついて邸の窓を見る。
あー、やっぱフィオンやニルが見ているな。
手を振っておこう。
「ねーさまー! ニールー!」
あ、気がついた。手を振ってくれている。
ヒョコッとユキが横から顔を出した。
「ユキー! 下りといでー!」
試しに呼んでみた。
すると、窓からヒュンッとユキが飛び出した!
「えぇーー!!」
ユキは空中で1回転して、俺の前にシュタンッと着地した。
「「「「おぉーー!!!!」」」」
隊員達から、歓声があがる。
「リリ、呼んだか」
「ユキ、ビックリしたよ! 窓から飛び出すんだもん!」
「この程度の高さなど、我にはどうと言う事はない」
「ユキ、カッコいい!」
俺はユキに抱きついて、乗せてもらう。
「リリ、あれは何をしているのだ?」
「あれはね、綱引きて言うんだ。両方からロープを引っ張るんだよ」
「それだけか?」
「うん。それだけ。そう言うもんなの」
「人間とは、ロープを引くだけで何が楽しいのか。我は理解できん」
「アハハハ! そうだねー!」
「ユキ、やってみるか?」
「オクソール、我が人間に負ける訳がなかろう」
「ユキ、言ったな」
オクが隊員達の元へ、走って行った。
きっとさぁ、ユキをみんなで負かしてやろうぜ! とか、言ってんだぜ。
「殿下! ユキ!」
「ユキ、オクが呼んでるよ! 行こう!」
ユキに乗って、オクソールのところまで走る。
「ユキは向こうに引っ張るんだ。
俺たちは反対に引っ張るから、引きずられた方が負けだ」
「分かった」
「えっ!? オクvsユキじゃないの?」
「殿下、それでは俺が負けます」
「オク、狡いね……」
「殿下、ユキは神獣ですよ。いくらなんでも無理です」
「じゃあ、そっちは何人?」
「さあ、何人でしょう?」
「ええッ!? 駄目だよ! 本番と同じ16人だよ!」
「「「ええーー!!」」」
隊員達からブーイングの声があがる。
なんて大人気ないんだ!
「駄目!! 16人!!」
隊員達は、暫くあーだこーだと言い合っていたが、決まった様だ。
周りで見ていた領民達も、寄ってきた。
「オク! ボクもする!」
「殿下、またそんな事を」
「だって、やりたい!!」
「殿下、無理です。危ないですよ」
リュカが横から口を挟む。
「リュカまで! リュカは参加するの?」
「もちろんです! オクソール様と二人でアンカーをします!」
「アンカーて何?」
「1番後ろで、ロープを引く人の事ですよ」
「ふぅ〜ん。じゃあ、ボクまた合図する!」
「まあ、それなら良いでしょう」
ユキに乗ったまま移動する。
「オク、どーすんの?」
「鬼ごっこの時と一緒ですよ。旗を上げて、Readyです。この合図で皆がロープを持ちます。
旗を振り下げて、goです。そしたら直ぐに離れて下さい。皆がロープを引き始めますから」
「うん! 分かった!」
ユキはロープの横に、俺は中央に立つ。
「いくよー! みんなー! 頑張ってー!!」
「「「「「おおーーッ!!!!」」」」」
隊員達は超やる気だ! さすが脳筋集団!
「Ready……」
俺は旗を上げた。
隊員達がロープを掴む。
ユキは……ああ、そうだよな。
ロープを咥えた。
「go!!」
同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
隊員達もユキも同時にロープを引きだした。
「頑張れー!!」
どんどん人集りが出来ていく。
領民達も、声援を送る。
――いけー!
――踏ん張れー!
――ユキちゃーん!
ん? ユキだと?
なんで? いつの間に!
「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
屈強な隊員達16人vsユキ。
隊員達はガンガン引いているが、ユキはビクともしない。
スゲーな! 神獣て凄いんだ!
「ユキ! 頑張れー!!」
「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
「ユキ! いけー!!」
俺が叫んだ直後、ユキが咥えていたロープを一気にグイッと引いた!
「「「おおッ!!!!」」」
途端に16人の隊員達が、前に引きずられた!
「ユキの勝ちー!!」
俺は真ん中で、旗をパタパタ振りながら、ぴょんぴょん跳ねる。
声援を送っていた領民達から、歓声が上がる。
「「「「「おおーー!!」」」」」
「ユキ、凄い! 凄いね!!」
「リリ、我は負ける訳がないと言ったであろう」
「ユキ、楽勝だったね! ビクともしなかった!」
「殿下、ユキは凄いですね!」
「リュカ、引いてた?」
「ひどっ! 引いてましたよ! 全然動きませんでした!」
「ああ、やはり神獣は凄いな」
「オク、残念だったねー。エヘヘ」
あれ? そう言えば……
「オク、シェフいなかったね」
「ああ、殿下の食事を作るからと言ってましたよ」
「ああ、そう」
そうだ。本業はシェフだった。