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134/442

134ーvsユキ

「それにしても、オク。まるでお祭り騒ぎじゃない?」


 明日の騎士団vs領主隊の競技は領民達にも公開される。

 辺境伯邸の、だだっ広い前庭が競技場になっている。

 まだ競技本番は明日なのに、領主隊が裏で選抜戦をしているせいか、既に領民達が集まっていてちょっとしたお祭り騒ぎになっている。


「殿下、まあ毎回こうなりますね」

「で、今までの成績はどうなの?」

「騎士団は負け知らずです」

「凄いッ!!」

「獣人の私が参加しますから。ちょっと、反則かも知れないですね。今回はリュカもいます。

 騎士団に勝つのは、難しいのではないでしょうか?」


 なるほど、獣人が二人いるもんな。

 でも、リュカは頼んないぜ?


「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」


 領主隊が綱引きをやっている。

 コレッて綱引きなのか? いや、綱引きだよな?

 俺は小学校の運動会の綱引きしか知らないが、記憶にあるロープとは全然違う。

 太いんだよ! 長いんだよ!


「ねえ、オク。これ何人で引くの?」

「16人対16人ですよ。ですので、綱引きだけ2回戦あります」

「凄いね。掛け声で地響きがしそうだ」

「ハハハ、皆声が大きいですからね」


 いやいや、それだけじゃないだろ。声が低いんだよ。まあ、みんな男だから当然なんだが。


「ひょえ〜〜!!」


 ふと、思いついて邸の窓を見る。

 あー、やっぱフィオンやニルが見ているな。

 手を振っておこう。


「ねーさまー! ニールー!」


 あ、気がついた。手を振ってくれている。

 ヒョコッとユキが横から顔を出した。


「ユキー! 下りといでー!」


 試しに呼んでみた。

 すると、窓からヒュンッとユキが飛び出した!


「えぇーー!!」


 ユキは空中で1回転して、俺の前にシュタンッと着地した。


「「「「おぉーー!!!!」」」」


 隊員達から、歓声があがる。


「リリ、呼んだか」

「ユキ、ビックリしたよ! 窓から飛び出すんだもん!」

「この程度の高さなど、我にはどうと言う事はない」

「ユキ、カッコいい!」


 俺はユキに抱きついて、乗せてもらう。


「リリ、あれは何をしているのだ?」

「あれはね、綱引きて言うんだ。両方からロープを引っ張るんだよ」

「それだけか?」

「うん。それだけ。そう言うもんなの」

「人間とは、ロープを引くだけで何が楽しいのか。我は理解できん」

「アハハハ! そうだねー!」

「ユキ、やってみるか?」

「オクソール、我が人間に負ける訳がなかろう」

「ユキ、言ったな」


 オクが隊員達の元へ、走って行った。

 きっとさぁ、ユキをみんなで負かしてやろうぜ! とか、言ってんだぜ。


「殿下! ユキ!」

「ユキ、オクが呼んでるよ! 行こう!」


 ユキに乗って、オクソールのところまで走る。


「ユキは向こうに引っ張るんだ。

 俺たちは反対に引っ張るから、引きずられた方が負けだ」

「分かった」

「えっ!? オクvsユキじゃないの?」

「殿下、それでは俺が負けます」

「オク、狡いね……」

「殿下、ユキは神獣ですよ。いくらなんでも無理です」

「じゃあ、そっちは何人?」

「さあ、何人でしょう?」

「ええッ!? 駄目だよ! 本番と同じ16人だよ!」 

「「「ええーー!!」」」


 隊員達からブーイングの声があがる。

 なんて大人気ないんだ!


「駄目!! 16人!!」


 隊員達は、暫くあーだこーだと言い合っていたが、決まった様だ。

 周りで見ていた領民達も、寄ってきた。


「オク! ボクもする!」

「殿下、またそんな事を」

「だって、やりたい!!」

「殿下、無理です。危ないですよ」


 リュカが横から口を挟む。


「リュカまで! リュカは参加するの?」 

「もちろんです! オクソール様と二人でアンカーをします!」

「アンカーて何?」

「1番後ろで、ロープを引く人の事ですよ」

「ふぅ〜ん。じゃあ、ボクまた合図する!」

「まあ、それなら良いでしょう」


 ユキに乗ったまま移動する。


「オク、どーすんの?」

「鬼ごっこの時と一緒ですよ。旗を上げて、Readyです。この合図で皆がロープを持ちます。

 旗を振り下げて、goです。そしたら直ぐに離れて下さい。皆がロープを引き始めますから」

「うん! 分かった!」


 ユキはロープの横に、俺は中央に立つ。


「いくよー! みんなー! 頑張ってー!!」

「「「「「おおーーッ!!!!」」」」」


 隊員達は超やる気だ! さすが脳筋集団!


「Ready……」


 俺は旗を上げた。

 隊員達がロープを掴む。

 ユキは……ああ、そうだよな。

 ロープを咥えた。


「go!!」


 同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。


「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」


 隊員達もユキも同時にロープを引きだした。


「頑張れー!!」


 どんどん人集りが出来ていく。

 領民達も、声援を送る。


 ――いけー!

 ――踏ん張れー!

 ――ユキちゃーん!


 ん? ユキだと?

 なんで? いつの間に!


「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」


 屈強な隊員達16人vsユキ。

 隊員達はガンガン引いているが、ユキはビクともしない。

 スゲーな! 神獣て凄いんだ!


「ユキ! 頑張れー!!」

「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」

「ユキ! いけー!!」


 俺が叫んだ直後、ユキが咥えていたロープを一気にグイッと引いた!


「「「おおッ!!!!」」」


 途端に16人の隊員達が、前に引きずられた!


「ユキの勝ちー!!」


 俺は真ん中で、旗をパタパタ振りながら、ぴょんぴょん跳ねる。

 声援を送っていた領民達から、歓声が上がる。


「「「「「おおーー!!」」」」」

「ユキ、凄い! 凄いね!!」

「リリ、我は負ける訳がないと言ったであろう」

「ユキ、楽勝だったね! ビクともしなかった!」

「殿下、ユキは凄いですね!」

「リュカ、引いてた?」

「ひどっ! 引いてましたよ! 全然動きませんでした!」

「ああ、やはり神獣は凄いな」

「オク、残念だったねー。エヘヘ」


 あれ? そう言えば……


「オク、シェフいなかったね」

「ああ、殿下の食事を作るからと言ってましたよ」

「ああ、そう」


 そうだ。本業はシェフだった。


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