132ーレイリ
ソールに呼ばれて、大人しそうな男性が入ってきた。
茶髪を後ろで一つに編んで結んでいる。茶色の瞳の、線の細い男性。アイシャと同じ歳位か?
「名前と、志望動機をお願いします」
レピオスが訪ねた。
「はい。レイリ・マカオンと申します。領都で薬師をしております。お触れで今回の募集を知り、応募致しました」
あれ、そんだけ? アッサリしてるね。
「レイリですか。既に領都で薬師をしているのなら、わざわざ何故こちらに?」
レピオスの質問はもっともだ。
「その……」
……ん?
「えっと……」
……んん?
「はぁ……」
……んんん?
俺はレイリの解答と、ポーションの資料を見る。
あれ? どっちもちゃんとしてるじゃん。
「レイリ、君は薬師としての心構えも良い。ハイポーションも作れる。領都でも充分やって行けるよね?」
俺はそう言った。
志望動機が分からん。
「はい。まあ……」
「じゃあ、何故?」
「あの……本当の事を言っても宜しいでしょうか?」
ん? 本当の事を言わないで、どーすんだ?
「うん、構わないよ?」
「実は、私はアイシャとは幼なじみで……」
「あ! レイリ! 思い出した!」
「アスラ殿?」
「アイシャにいつも泣かされていた、泣き虫レイリだ!」
泣かされていた!? 泣き虫!?
「アスラール様、その思い出し方はちょっと……」
「あ? ああ、すまない。子供の頃に、何度か遊んだ事があるな?」
「はい」
「確か、アイシャの両親と親同士の仲が良いのだったか?」
「はい。家も近くて」
「ああ、そうだった。そうか。薬師になっていたのか」
「はい」
「で?」
「はい?」
話が全然進まないじゃねーか!
「どんな志望動機でも構わないから、話してほしいな」
焦ったぜ!
「はい、リリアス殿下。今回の募集を知って、アイシャが騒いでまして。アイシャは実力も志しもあります。意欲もあります。ですので、アイシャは合格するだろうと思いました。しかし、あの性格ですので。一人突っ走って、皆様にご迷惑をお掛けしてしまうのが、目に見えてます。アイシャを抑えるのは、私しかいないと。尚且つ、薬師の仕事も出来るのであればと……その……申し訳ございません」
アハハ! 何だそりゃ!
要するに、アイシャと離れたくないんじゃないか?
「アハハハ!」
「リリ……」
「だって兄さま! そんな志望動機もあるんだと思って!」
「まぁ、そうだね……」
本当、色んな人がいるわ。
「レイリ、薬師は続けたいんだ?」
「はい、それはもちろんです。私は剣も使えません。特別、魔法が得意な訳でもありません。人と話すのも、上手な方ではありません。そんな私が少しでもお役に立てるのは、薬師しかないと」
ほうほう。なるほど。
「で、アイシャの側にもいれると」
「で、で、殿下!」
「ん? ボク、何か間違ってた?」
「あ、いえ……その……間違っては……
えっと……」
もう顔が真っ赤じゃねーか! 耳まで赤くなってるぜ?
「アハハハ」
「リリ」
「兄さま、すみません。でも、彼はなかなか優秀なんですよ。ね、レピオス」
「そうですね。治療方法も良いですし、ハイポーションも作れますしね。ああ、もう少し頑張れば、より効果の高いポーションになりますね」
「そうなんだよ。でも、アイシャなんだ?」
「その……殿下。アイシャは本当に思い込んだら、周りが見えなくなるのです。猪の様に、突き進んでしまいますから。皆様のキャパやペース等、お構いなしになってしまうのです。それが欠点で……しかし、有能です。同じ薬師の私から見ても、良い薬師です。ですので、街に埋もれさせておくのは、勿体ないのです。でも、一人突っ走ったら、問題を起こしかねません」
「うん。分かった。アイシャの事は分かったよ。レイリはどうなの? 領都での薬師の仕事を辞めても、ここで仕えたいと思うの?」
「それは、当然です!」
「どうして?」
「薬師なら、街の人達の病や怪我を癒したいと思います。また、我々の為に、恐ろしい魔物を討伐に出る領主隊の皆様の、お役に立ちたいと憧れます。病なら少しでも楽に。怪我なら少しでも早く痛みを無くせる様に、古傷などになって跡を引かない様に。適切な治療をと……あ、すみません。喋りすぎました。」
いやいや、喋ってもらわないと面接にならないからね。
「ううん、喋り過ぎなんかじゃないよ。アイシャはもっと喋ってたよ?」
「ああ……やはり。リリアス殿下の万能薬を見て、興奮してましたから。申し訳ありません」
そう言って、レイリは頭を下げる。
アイシャの事なのに、レイリが謝ってんの。
「レイリが謝る事じゃないよ。レイリはここで仕えたくて来たの? それとも、アイシャについて来たの?」
「もちろん、お仕えしたくて来ました」
「そう。分かった。兄さま、アスラ殿、レピオス聞いておきたい事はありますか?」
「殿下、一つ」
「アスラ殿、どうぞ。幾つでも」
「レイリ。じゃあもしも、君だけが合格して、アイシャが不合格だったら仕えてはくれないのか?」
「いえ、その場合は仕方ありません。私はお仕え致します」
おや、意外と迷いがないんだな?
「レイリ、仕方ないとは?」
「はい。アイシャには悪いですが、私はこちらに仕えさせて頂きます。仕方ないので、アイシャは一人街で頑張ってもらうしか。悔しそうな、アイシャの顔が目に浮かびます。フフフ」
あ? そこは良いんだ? 面白い!
「リリ、目がキラキラしてるよ?」
「兄さま、そんな事ありません! ブフフ」
クーファルにバレたぜ!
「もう、宜しいですか?」
レピオスが聞いたから、俺は頷いた。
クーファルもアスラールも良い様だ。
「では、部屋に戻って下さい」
「はい、有難うございました」
うつむき加減で、レイリは部屋を出て行った。
「兄さま、色んな人がいるんですね」
「ああ、本当だね」
「彼は結局何がしたいのでしょう?」
「レピオス、そんなの決まってるよ」
「リリアス殿下、決まってますか?」
「うん。アイシャと二人一緒に、ここに仕えたいんだよ」
「なるほど……」
いや、レピオス。感心するとこじゃないからね。