131ーアイシャ
「リリアス殿下! どうか、私を弟子にして下さい!」
面接で開口1番に、アイシャが言った。
「ええー!」
これは俺がビックリした声ね。
「アイシャ、とにかく座りなさい」
アスラールが収めようとしてくれる。
「アスラール様は黙っていて下さい! この機会を逃したら、もうリリアス殿下にお会い出来る機会なんてないんですから! リリアス殿下! どうか私を!」
「あー、アイシャだっけ? 座ろうか」
「殿下!」
「まあ、面接を始めよう」
「アイシャ、座りなさい。落ち着いて」
アスラール、頼むよー。
アイシャがやっとおとなしく座ったよ。
俺、ちょっと掴みすぎたか?
「レピオス、おねがい」
「はい、殿下。アイシャ・ピオネール。志望動機を教えて下さい」
「はい。ご存知だと思いますが、私は以前こちらに仕えておりました。一度は辞職致しましたが、募集されていると知って、もう一度領主隊の方々のお役に立ちたいと思い志望致しました」
「アイシャ、辞めた原因を教えて欲しい」
アスラール、はっきりさせたいよな?
「アスラール様や、辺境伯様御一家はご存知ないでしょう? ケイア様のされていた事を。私は許せなくて、最初は抵抗しました。でも、あの人は普通じゃないんです。狂ってます。
そんな人を相手にするのも、それを気付こうともしない御一家にも、と言うか、もう何もかも面倒になってしまいました。それで、辞職しました」
あー、よっぽどだわ。
しかし、面倒になったなんて……なかなか強い人なんじゃないか?
だって、イジメられて傷付いて、て感じの言い方じゃないよな?
「アイシャ、どんな事をされたんだ?」
「アスラール様、もう彼女はいないのでしょう? 今更、言っても仕方ないです」
おっ? なかなか良いじゃないか。もう割り切ってるじゃん。
「アイシャ、知りたいんだ」
「アスラール様、これは面接でしょう? まぁ、いいですけど。
彼女はアスラール様と私の妹が仲が良いのを、知ってました。それで、私とも特別な関係だと。アスラール様に言い寄って、次期辺境伯夫人の座を狙っていると。自分が辺境伯夫人になるから、絶対にそんな事はさせないと、言われました。
そう、グダグダとネチネチと、それはもう毎日しつこく。あれは、頭がおかしいです。もう相手するのも馬鹿らしくなって。ここでは、まともに薬師の仕事も勉強も出来ないと思い。それで辞めました」
あー、やっぱりそうなんだ。
「アイシャ、すまない。私達が気付けなかったから、君達に迷惑をかけた」
「私だけではありませんよ。皆、何かしら言われてました。奥様に対しての彼女の仕打ちは見ていられませんでした。
私達は逃げる事もできます。でも、奥様はそうもいきません。本当にお気の毒でした」
「そうか……」
ま、言葉もないよな。実際にあんな事になってしまったしな。
「アイシャ、君の治療方法もポーションも良く出来ていたよ。よく、勉強しているね」
「リリアス殿下! 有難うございます! どうか私を……」
「待ちなさい」
「兄さま」
「君はリリアスを何だと思っているんだ? この国の第5皇子だ。君が気軽に、弟子入りできるとでも思っているのか?」
「クーファル殿下、申し訳ございません! そんなつもりではありません! ただ、リリアス殿下が素晴らしくて!」
「だとしてもだ。私は最初に言ったんだがね。分を弁えなさいと」
「申し訳ございません!」
アイシャがガバッと頭を下げた。
「あー、アイシャ。ボクもまだレピオスに、教えてもらっている立場なんだ。だから、もしボクが皇子でなくても弟子入りはないよ」
「レピオス様にですか?」
「うん。レピオスはボクの師匠だからね」
「殿下、また。どうかそれは……」
「レピオス、本当なんだから。だからアイシャ、君はもう一度この領地の為に働いてくれるの? この領地で辺境伯に仕えると言う事は、どう言う事か分かっている?」
「はい。もちろんです。この領地が倒れると、帝国全土に影響を及ぼします。それを支えているのが、領主隊の皆さんです。
討伐に出られる時は少しでも安心できる様、出来る限り万全の準備で送り出したい。もし怪我をされたなら、少しでも早く、少しでも後遺症がない様、治して差し上げたい。そう思っております。
それが、皆の日々の生活を守る事に繋がると信じております」
うん。完璧じゃないか。
「でも、君は一度辞めている」
クーファル、意地悪だな。
いや、覚悟を知りたいのか?
「はい。クーファル殿下の仰る通りです。私は一度諦めました。逃げたのです。逃げて、落ち着いて考えれば……
あの時、勇気を出してアスラール様や領主様にお話していればと思いました。
逃げる事しか出来なかった自分が、情けなくて……落ち込みました。後悔もしました。
ですから! もう私は逃げません! 私も一緒に戦います! なんでしたら、討伐にもついて行きますよ!」
あれ? 何か違ってきたぞ?
「ハハハ! アイシャ、討伐には行かなくていいさ。足手まといだ」
「クーファル殿下、それ位の気持ちだと言う事です! 恥ずかしいですから、笑わないで下さい!」
決まりだな。 物怖じしないところも良い。
「アイシャ、よく分かった。では、部屋で待っていなさい」
「アスラール様、分かりました。どうか、宜しくお願いします!」
最後に一礼して、アイシャは部屋を出て行った。
「リリ、驚いたね」
「はい、兄さま。もう、ビックリしました」
「だが、彼女。良いんじゃないか?」
「クーファル殿下。そうですね」
「はい、私もそう思います」
クーファルもアスラールもレピオスもアイシャはいい感じに受け取っている。
「では。次を呼びますよ?」
「ああ、ソール頼む」