13ー大樹
俺を抱き上げたまま、クーファルは言った。
「リリ、この大樹をよく覚えておきなさい」
「クーにーさま?」
「この国にはリリの力が必要なんだ。この大樹が弱ったり、万が一にも枯れたりすると国は衰退すると言われている。今この国で大樹に力を与えられるのは、皇族で光属性に適性を持つ父上とリリだけだ。そこが、他の光属性を持つ者との大きな違いだ。初代皇帝の子孫である皇族の直系で、尚且つこの大樹に力を与えられるだけの光属性の魔力量を持つ者。光の神の加護を受けている帝国には、必要なんだ。フレイ兄上は次期皇帝だが、リリもこの国に必要なんだよ。もっと大きくなったら勉強する事だ。小さなリリにはまだ早い。難しいかな、分かるかい?」
「はい、クーにーさま」
「私達はこの国の皇家に生まれた。この国を、この国に住む民達を守って行かなければいけない」
「はい」
「リリも皆が笑顔の方が嬉しくないかい?」
「うりぇしいです」
「皆の笑顔を守り続けて行くのが、私達皇家に生まれた者の責任なんだ。まだ全て分からなくてもいいよ。でも兄様の言った事は覚えておいて欲しい……軽々しく皇子を辞めて国を出るなんて、言ってはいけないよ、リリ」
「……はい。クーにーさま……ごめんなさい」
「リリの気持ちも分かる。フォランもまだ子供だからね。でも、フォランのした事は子供だからと許される事ではないんだ。嫉妬や妬みの様な歪んだ気持ちで人を殺めるのは、皇女だからと言う訳ではなく人として間違っているんだ。リリの言う様に周りの大人に恵まれなかった事もある。それじゃあ、フォランの姉のイズーナはどうなるのかな? 同じ環境で育った姉妹だ。でもイズーナは私から見ても、謙虚で努力家で素直な可愛い妹だよ」
確かに、クーファルの言う通りだ。
「しかし、リリの訴えた様にまだ子供だから、矯正出来る可能性は確かにある。全て終わったらフォランは修道院へ送られる。今迄、我が儘勝手に育ってきた子だから苦労するだろうね。それでも矯正できればリリが泣いた甲斐もあるが、正直兄様は半々だと思っている。リリ、今回の事はもう終わった事だと区切りをつけなさい。これ以上リリが心を痛める必要はないんだ。もうおしまいだ。いいね?」
「にーさま…… ごめんなさい」
ポロポロと涙が溢れた。俺、情けねー。
「リリ、兄様はリリを泣かそうと思って言った訳じゃないんだ。もう泣かないでくれないかな?」
「クーにーさま、ごめんなさい。ボクは迷惑をかけましたか?」
ヒグッ……ヒグッ……と、泣きじゃくりながら俺はクーファルに聞いた。
「迷惑なんか誰にも掛けていないよ。リリは可愛い。兄弟で1番小さい事もあるが、皆リリが可愛いんだよ。だから、リリには笑っていてほしい。泣かないでくれないか?」
「にーさま、ごめんなさい。ありがとうございます」
ずっと抱き上げてくれているクーファルの首に抱きついた。
「ハハ、リリに抱きついてもらったなんて言うと、兄上が拗ねてしまいそうだ」
「フリェイにーさまが?」
「ああ、皆リリを構いたくて仕方ないんだ。今日も私が行くと言ったら、兄上もフィオンも自分が行くと言い出してね。宥めるのが大変だったよ。早く元気になって帰って来なさい。さぁ、リリ。この大樹をよく見ておくんだ。忘れない様にね」
「はい、にーさま」
「ニル、お昼にしよう。準備してくれるかな?」
「畏まりました。クーファル殿下」
そう言ってニルはバスケットを出し、オクが敷いた敷物の上に中身を並べ出した。
「にーさま、ここで食べりゅのですか?」
「ああ、気持ち良いだろう? 晴れて良かったよ」
俺は久しぶりに美味しい昼飯を食べた。
大きな口をあけて頬張って食べた。
「にーさま、おいしいです!」
「そうかい、良かった。沢山食べなさい」
「はい! ニルもオクもるーも食べて!」
「殿下、私共は……」
「オク……」
「はい、殿下」
「座って……食べて」
「……はい、殿下。失礼して頂きます」
「みんなで食べりゅ方がおいしいよ!」
「ハハハ、オクソールもリリには敵わないか」
前世の息子より若い皇子にフォローされちまった。ちょっと俺、カッコ悪い。情けない。
そして、直ぐにクーファルは城に帰って行った。態々俺を慰めに来てくれたらしい。マジ、申し訳ない。