129ー寝ちゃった。
すべて見終わった。思っていたより、良い感じなのでそれは良かったのだが。
「今いる薬師達は、皆悪くない。むしろ、ケイアの下にいたのに、よく歪まないでいてくれたよね。勉強もしている様だし、いいんじゃないかな?アスラ殿、どうかな?」
俺はアスラールに振ってみる。
何か考え込んでいるか?
「は、はい。殿下。今いる薬師達には、面接はしないのですよね?」
「アスラ殿、どうしたいですか?」
「殿下……私は話がしたいです。
もし……殿下とレピオス殿が許して下さるのなら……皆一緒で良いので、立ち会って頂けませんか?」
それは良いんだが……
「アスラ殿、レピオス。面接が終わったら、一度合格者の皆を集めて少し話をしませんか? あ、もちろん、アスラ殿が言っていた薬師達に話をするのも賛成です」
「殿下、宜しいのですか?」
「うん。ボクは構わない。アスラ殿が言っていた、今残ってくれている薬師達に話をする事は、むしろ必要な事だと思うよ」
「殿下、有難うございます!」
「アスラ殿、本当によく残ってくれていたと思うよ。ケイアがしていた事を知れば知る程、そう思う。だから、話をしよう」
「では、殿下。面接する者ですが」
「レピオス、ボクは全員と面接したい」
「殿下、それは……」
「だって全員と言っても、たった23名だよ。10分でも良いんだ。面接したい」
「殿下、そこまでして頂く訳には……」
「アスラ殿、勘違いしないで。万が一、30年前みたいにスタンピードが起こったとするでしょう? そうしたら、領主邸にいる薬師達だけでは、手が足らなくなるかも知れない。そんな事がなくても、領民達が頼るのは街の薬師達だよね? ボクは薬師達の意識を確認したいんだ。
この地が落ちたら、帝国全土が危ないんだ。自分達薬師の役割が、どんなに大切か分かっておいてほしいの。だからね、帝国第5皇子として面接したい」
「リリ、よく言った」
「兄さま!」
いつの間にか、クーファルが部屋のドアのところに居た。
「兄さま、声をかけて下さい」
「ハハ、悪いね。リリが喋っていたから、聞いていたんだ」
「もう、黙って聞くなんて。ズルいです」
「リリ、ごめんよ。でも、リリの言う通りだ。リリがそう言うという事は、危なっかしい者もいると言う事かな?」
「はい。兄さま。残念ながら、そうです」
そうだ。明らかに、領主邸の薬師になれば給金も良いだろう、楽できるだろう、カッコいいだろう、て、感じに思っているだろう者がいる。それは、駄目だ。
あと、俺様は凄いだろう。て、考えている者も駄目だ。
早いうちに、意識を変えさせたい。
「クーファル殿下。しかし、リリアス殿下にばかり頼るのも。もう私達は、大変ご迷惑をお掛けしているのです」
「アスラール殿、そこだ」
「クーファル殿下?」
「だからリリが敢えて、帝国第5皇子として、と言ったんだ。サウエル家の為だけではなく、辺境伯領の為にするんだ。それは、帝国の為だ。分かるかい?」
「クーファル殿下、有難うございます」
うん。クーファル、流石だよ。
やっぱ、なんか威厳があるよな。俺とは大違いだ。
「リリ、リリはまだ子供なんだからね」
「兄さま、ボクは何も言ってません」
「リリの顔を見れば分かるよ」
「ええー……」
「ハハハ。じゃあとりあえず、領地から受けに来た者の面接を始めよう。私も立ち会うよ」
「兄さま、いいのですか?」
「ああ。リリに全部任せてしまったら、兄さまの立場がないじゃないか」
クーファル、そんな誤魔化さなくても……あれだろ? 俺はまだ子供だから、舐められない様に居てくれるんだろ?
クーファル、良い奴だよ! つい、ニマニマしてしまう。
「リリ、だからね……」
「兄さま! 有難うございます!」
「もう、リリには敵わないね」
レピオスとアスラールと一緒に、合格ラインの者とそうでない者を確認する。
知識や技術が合格ラインでも、実際に面接してみて駄目な場合もある。
「では、クーファル殿下、リリアス殿下、アスラール殿。宜しいですか?」
合否の者を確認して、さあ、面接だ。
「あ、兄さま」
「ん? リリどうした?」
「お腹がすきました」
「ああ、殿下。お昼ですね。面接は午後からにしますか?」
「うん、頑張る」
「そうだね、リリはお昼寝があるからね」
そうだ。5歳児にはお昼寝は大事!
「……ふわぁ……あっ!」
「殿下、お目覚めですか?」
「ニル、寝ちゃった……!」
「はい。寝てしまわれましたね」
「あー、午後から面接だったのに」
「殿下、りんごジュースどうぞ」
「うん、ありがとう」
ユキが大きなまま、横にきた。
「ニル、我も」
「はい。ユキ、どうぞ」
おいおい、りんごジュースを入れる器じゃないぞ。まるでスープじゃねーか。
「ユキ、凄いね」
「リリ、何がだ?」
「りんごジュースに見えないや。量が多くて……」
――コンコン
「殿下、起きられましたか?」
レピオスがやって来た。
「うん。レピオスごめんなさい。寝ちゃった」
「はい。想定してましたから、大丈夫です。面接待ってますよ」
げっ! めちゃ悪いじゃんか!
「ごめん、直ぐ行くよ。」
俺は慌ててりんごジュースを飲む。
「殿下、慌てなくても大丈夫です。受けに来た者達も、昼食を食べてゆっくりしてますから。大丈夫ですよ」
「本当? ありがとう。じゃあ、ニル。行ってくる」
「はい、殿下。頑張って下さい」
俺はレピオスと部屋を移動する。
「レピオス、兄さまは?」
「はい。アスラール殿が呼びに行っておられます」
「そう。兄さま、優しいね」
「そうですね。殿下、分かっておられましたか?」
「うん。そりゃ分かるよ」
「良い兄上です」
「うん。父さまが頼りない分、兄さま達は頼りになるね」
「おや、殿下。それは言ってはいけません」
ゲフンゲフン……