128ーテスト当日
テストまでの2日間、チラホラと領地から薬師希望の者達が集まり始めた。女性も何人かいる。
「殿下、どうされました?」
俺は部屋の窓から外を見ていた。
「ニル。明日、薬師のテストでしょう。どんな人が来るのかと思って。」
「ああ、そうでしたね。」
――コンコン
「殿下、宜しいでしょうか?」
レピオスがやって来た。
「うん。レピオスどうしたの?」
「テスト問題なのですが」
「う」
「2問だけ用意しました。見て頂けますか?」
「ボクが見ていいの?」
「もちろんです。殿下のご意見をお聞かせ頂きたいのです」
「分かった」
レピオスが持ってきた、テスト問題。
一つは……
症状が、のどの痛みや鼻水や鼻づまり、くしゃみやせき。突然の発熱、頭痛、関節痛や筋肉痛、倦怠感。下痢や食欲不振。
もう一つは……
全身に剣等での切創。打撲。出血有り。意識消失状態。
それぞれの治療方法、診断理由を答える。
うん、良いんじゃないか? 内科的治療と外科的治療。
レピオスが以前に教えてくれた、治癒魔法やポーションに頼り過ぎない、患者の治療後の生活も考える。そこを見たいんだろう。
「うん。レピオス、良いと思う。あと、ポーションも作ってもらうんだよね?」
「ええ。自分が作れる中で1番上位のポーションを、作ってもらいます」
「うん。ボクはいいと思う。アラ殿にも確認してもらってね」
「はい、殿下」
「いい人材が集まると良いけど」
「はい、本当に。今の薬師達では、いざと言う時に対応しきれるかどうか、不安ですから」
「え? レピオス。そんなに?」
「はい。ハイポーションをなんとか作れるかどうかと言う状態です」
「今まで何もなくて良かったよ」
「はい、本当に」
結局、応募してきたのは23名。領地の彼方此方から集まってきた。
女性が3名か……少ないなぁ。
さあ、テスト当日だ。まずは、レピオスが作成したテストを受けてもらった。
まとめ役を決める件も兼ねているので、今いる薬師達も同じテストを受けている。
まずは、治療方法を記入する、筆記テストだ。
そして、俺とレピオスはその解答用紙を見ている。その間にポーションを作ってもらうというわけだ。
「うん、なかなか良いよね?」
「はい、殿下。想像以上ですね」
今、薬師として従事している者達の解答も、なかなか良い感じだ。
皆、ちゃんと完治した後の事も、視野に入れている。
良いんじゃないか?うん。テストを受けに来た者の中には、まあ、駄目なやつもいるが。そんなやつは撥ねていく。
「殿下、レピオス殿。名前を見ると、以前辞めた者が受けてますね」
そう言っているのは、一緒に解答用紙を見ているアスラールだ。
「アスラ殿、それはケイアが辞めさせた者ですか?」
「殿下、おそらくそうだと思います」
「アスラ殿、誰ですか?」
「女性が3名おりますが、その内の1名です。アイシャ・ピオネールですね」
俺とレピオスは解答用紙を見た。
「え、完璧じゃん」
「ええ、殿下。完璧ですね」
投薬方法も、薬湯の内容も、回復魔法を使用する場合も、万が一悪化した場合まで想定して解答している。
ハナマルをあげたくなる様な解答だ。
「なんで辞めたんだろう?」
「殿下、薬師達が言っていたアレではないですか?」
「レピオス、自分より出来る者を辞めさせる、てやつ?」
「はい。イジメたり、嫌味を言ったりでしたか?」
「そうなの?」
「はい」
「ボク、具体的に何をしたかは知らなかった」
「殿下、このアイシャはまだ30歳位だったかと」
「アスラ殿、知ってるの?」
「はい。薬師として邸におりましたから」
「あぁ、そうだった」
「確か……アスラール様に、色目を使っているでしたか?」
「レピオス殿、そんな事を言っていたのですか!?」
「はい。薬師達が話していた者なら、そうだと思います」
「信じられない!」
「アスラ殿?」
「いえ、殿下。実はこのアイシャは3姉妹なのです。1番下の妹が、私と同い年です。子供の頃に、よく一緒に遊びました。
ケイアもそれを知らない訳ありません。」
「あー、アスラ殿。だから、余計に気に食わなかったのかも知れないね」
「私達家族は、いったいどれだけの領民に、迷惑をかけていたのでしょう。今更ですが、情けなくなってきました」
アスラールが肩を落とす。
「アスラール様、だからこそ今回はしっかり改善しませんと」
「レピオス殿、そうですね。そうだ。これから改善するんだ」
さて、ポーションが出来てきたらしい。
俺たちのいる部屋に運び込まれてきた。
「殿下、お願いできますか?」
「うん。レピオス、分かった」
俺は目の前に、並べられた、ポーション系回復薬を見つめて鑑定する。
「ハイポーションが1/3だね」
ハイポーションを選んで、横に寄せて並べる。先ずはポーションから見てみよう。
「ポーションの中で1番効果が高いのは……これだ」
俺は一つの、ポーションの入った容器を手に取る。容器に番号札がぶら下げてある。
「ああ、これは今いる薬師の物ですね」
レピオスが、ポーションの容器の番号と、名前を照らし合わせる。
「あとは悪くもないし、普通だ」
レピオスが番号を確認している。
俺は、ハイポーションを見る。
「ハイポーションは、これだ。ハイポーション以上はいないのかな?」
俺はもう一度、並べられた容器を見る。
「あ、これ」
俺は、一つの容器を手に取った。
「殿下?」
「これ、おしいな。もう少し魔力をしっかり通したら万能薬だ」
「殿下、そうですか」
「うん、魔力量をアドバイスしてあげたら、もう作れるんじゃないかな?」
「なるほど。この番号は……殿下、アイシャです」
「レピオス、そうなの?」
「優秀な人材を……なんと言う事だ……」
アスラールが、またガックリ肩を落とした。