127ー名物
「リリは、転移門を修復するなんて、大変な事をしたのになんともないのかい?」
「父さま、何がですか? シェフ、ごちそうさま! おいしかった!」
「はい、殿下。ユキ、足りましたか?」
「ああ、シェフ。美味かった」
「はい。では、陛下、殿下。失礼致します!」
さっさと片付けて、シェフは部屋を出て行った。マイペースだ。
「殿下、りんごジュースです。ユキも、どうぞ」
「ニル、ありがとう!」
「ニル、かたじけない」
ニルは、本当によく気のつく子だよ。
ニルもまた、マイペースだ。
「オクソール、リリとユキはいつもこんな感じなのか?」
「陛下。まあ、だいたいこんな感じですね」
「そうか。リリ、今日は凄い事をしたんだよ。分かっているかな?」
だからさ、さっきから何だ?
「父さま、何がですか?」
「リリ、転移門をここと、城のと修復したろう?」
「はい、父さま。便利になって良かったですね」
「ハハハ。皇帝よ、無駄だ。リリは何とも思ってないさ」
「ルー様、そうみたいですね。心配したのですが」
「だから、リリの魔力量だと余裕だと言ったろう?」
「それでも心配でしたわ! 何が起こっても、不思議ではないのですから」
「姉さま、ありがとうございます。大丈夫です」
「ええ、リリ。無事でよかったわ」
「ああ、本当に。無事で良かった」
「父さま、兄さま。凄いのはボクではなく、最初に設置した初代の皇帝陛下が凄いのです。ボクは、ルーの力を借りて、少し直しただけです」
「リリ、何も感じなかったか?」
「ルー、何?」
「いや、前に言ったろう? リリは反応しやすいからと」
「ああ、なんかね。懐かしい感じがした。初代皇帝陛下の、残滓は分かったよ」
「そうか! リリやっぱ凄いな!残滓が分かったのか!」
残滓だけじゃないんだけどな。何か見えたんだが……忘れちまったぜ。
「ルー様?」
「ああ、皇帝。あの転移門にはな、設置した時の初代皇帝の魔力の残滓が少しだけあったんだ。630年前の魔力の残滓だよ。
まさか、それを感じるなんて。本当にリリは想定の上をいくよ」
「ルー様、以前の様に引っ張られたりはしないのですか?」
「ああ、それが心配だったから、前にリリが転移門に近付いた時に止めたんだ。だが、もう大丈夫だ。残滓は消える事なくまだあるが、リリの魔力の方が多いからな。
ああ、そうだ。定期的に魔力を込めないと駄目だよ。リリの役目だ」
「うん。ルー、分かったよ」
そうこうしているうちに、母が戻ってきた。
「陛下、お待たせしました」
「母さま!」
俺はまた母に抱きついてしまったぜ。
「リリ、お待たせしたかしら?」
「母さま、大丈夫です」
「ああ、リリはパスタを食べていたからね」
「陛下、パスタですか?」
「はい、母さま。ボク、お昼を食べ損ねていたので、シェフが作ってくれました」
「それは良かったわ。シェフの料理は美味しいものね」
「はい! 母さま」
「それで夫人はどうだった?」
「ええ、陛下。大丈夫です。お元気でしたわ。気持ちも吹っ切れた様です」
「そうか、なら良かった。じゃあ、クーファル。転移門も直ったことだし、明日にでも戻ってくるかい?」
「父上、準備ができ次第戻ります」
「そうか。これからは、いつでも来れるからね。ね、フィオン」
「え? 父上、何ですか?」
フッフッフッ。ニヤニヤしてしまうぜ。
急だったから、父と母は早々に城に帰って行った。あー、なんだかなぁ。
中途半端に会ったからかな? なんだか寂しいぞ。中身は55歳のおっさんなのに、ちょっとキモイ。
「リリ、城に戻る準備をしよう」
「はい、兄さま」
「フィオンもね。いつでも来れる様にはなったが、心残りのない様にね」
「兄上……」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと話しておきなさい」
なんだ? なんだ? なんだか、意味深だな。
「クーファル殿下、では早速ですが明日準備をして、明後日開催致しますか?」
「オクソール、そうだね。ああ、まだ駄目だった。明後日は薬師のテストがあるんだ。だから、準備はその後だね。皆に伝えてくれるかな」
「はい、畏まりました」
ん? こっちも何だ? 俺、全然分からんぞ。
「ああ、リリは知らないか?」
「兄さま、何ですか?」
「初代皇帝が開催してから、騎士団が地方に遠征した時の名物になっているんだ」
クーファルの話を聞いて、驚いた!
要するに……騎士団vs領主隊の3種競技大会だ。
まず一つ目が、綱引き。
今回、騎士団はクーファルの第2騎士団から、30名しか来ていない。
領主隊からは騎士団と同じ人数が選ばれて、綱引きだ。
二つ目。玉入れ。
と、言っても普通の玉入れじゃない。
騎士団と領主隊から、各2名が玉を入れる籠を背負って逃げる。
それを玉を2個ずつ持った、残りの隊員達が追いかけながら玉を相手の籠に入れる。
要するに、追いかけっこしながら、玉を入れる。
三つ目。紙風船割り。
これまた普通に紙風船を割るのではない。
フワフワした剣の様な物で、相手の両手首につけた紙風船を割る。
騎士団30名全員参加だ。領主隊からも30名選ばれる。
ああ、違った。騎士団は30名だが、オクソールとリュカとシェフも参加するらしいので33名だ。