125ー城
光が収まっていくのと同時に、全ての柱に埋め込まれていた魔石が、光りだした。
よし、成功だ。どんどん、光が小さくなっていき、鳥の姿のルーに戻っていった。
「リリ、成功だ」
「うん、ルー成功だね」
ルーが俺の肩に止まった。
「リリアス! なんともないか?」
クーファルが、血相を変えて駆け寄り抱き締めてきた。
「リリよ!」
ユキも身体を擦り付けてきた。
「兄さま、ユキ、大丈夫だよ」
俺はニッコリ笑った。どうした? そんなに心配だったか?
「リリ、良かった!」
「兄さま、大丈夫ですよ」
「リリが、光に溶けてしまったかと思った」
「そうなのですか?」
「ああ。光でリリの姿が見えなくなったんだ。焦ったよ」
「そうなのですか?」
「ああ。ユキが大丈夫だ。リリはちゃんとそこにいると、言ってくれなかったら、踏み込んでいた」
「兄さま、それは危ないです。ユキ、ありがとう」
「ああ。リリ、分かってはいたが心配した」
「だから、リリなら大丈夫だって言っただろう? 楽勝だったな」
「ルー、そうなの」
「そうだろ? リリ、何も変わってないだろ? 魔力が減ったと感じるかい?」
「ううん、全然なんともないよ」
うん、何ともないな。実際、魔力が減った感じが全くない。
まあ、今までに魔力が減ったと思った事がないから、分からないんだけどな。
「リリ、とにかく良かったよ」
「じゃあ、クーファル。リリと皇帝のとこに行ってくるね」
「えっ? ルー様。今からですか?」
「ああ、向こうで待ってるんだよ」
「そんな、休まずにですか?」
「だから、クーファル。リリはなんともないさ」
「しかし……父上は何を考えておられるのか」
「ハハハ、我慢できないんだろう? 長くなったからね」
「我も行くぞ」
「ユキ、待てないか?」
「いや、行く。我はリリから離れないと言ったであろう?」
そう言ってユキが俺に寄り添う様にくっついてきた。
「まあ、いっか。じゃあ、クーファル、後は頼んだよ。部屋で待っててくれるかな? 外の者達にも伝えておいてほしい。ま、直ぐには戻ってこれないだろうからね」
「ルー様、どうしてですか? やはり、体に支障が……」
クーファル、だから俺は全然大丈夫だって。
「いや、違うよ。皇帝と、リリの母上が離さないだろう、て話だ。そんなに心配なら、リリを辺境までやらなきゃいいのにさ」
「あー……分かりました。では、部屋でお待ちしております。辺境伯はもう入っても宜しいですか?」
「ああ、構わないよ。だが、絶対に柱には触らない様にな。まだ城の転移門が壊れたままだからな。もし作動したら、どこに飛ばされるか分からないよ」
「はい、分かりました。じゃあ、リリ。行っておいで」
そう言ってクーファルは俺の頭を撫でる。
「はい、兄さま。行ってきます」
「ユキ、リリを頼む。守っておくれ」
「ああ、もちろんだ」
そして、ルーとユキと俺は光に包まれて消えた。
「母さま!!」
「リリ! リリ! 会いたかったわ!」
光が消えたら、目の前に父と母達がいた。俺は思わず母に抱きついた。
「母さま! 母さまー!! ヒック……ゔぇーん! ヒグッ、母さまぁ!!」
「やだ、リリ。泣かないで。お母様まで泣いちゃうわ」
5歳児、全開だ。涙腺が崩壊してしまったぜ。
お決まりだ。やっちまった。泣き疲れて寝てしまったよ。
ニルは、向こうで心配してるだろうな。
ごめんよ。俺、寝てしまったから、ちょっと帰るの遅くなるよ。
「……ん……母さま」
「リリ、起きた?」
「はい、母さま」
俺はポフンと母に抱きついた。目が覚めたら父と母が側にいてくれた。
「まあ、リリったら。リリ、ごめんなさいね。また、リリに辛い役目をさせてしまって」
「母さまは悪くないです」
「リリ、すまない。父様が悪いんだ」
「はい。だからボクは行くのは嫌だと言ったのに」
母に抱きついたままで、父を横目でジトッと見る。
「リリ、許してくれないか? でも、リリが行ってくれたお陰で、色々発見したじゃないか」
「父さま、ルーを使って届けさせてましたね」
本当に、毎日毎日よくやるよ。ルーに悪いよ?
「リリ、だって気になるじゃないか。どれも、とても美味しかったよ」
美味しかったよじゃねーよ。この父はやっぱり呑気だ。いや、ある意味天然なのか?
「リリ、お父様を責めないで。私もルー様にお願いしたのよ。リリの事を知りたかったのよ」
「母さま! 母さまはいいんです!」
「ええー! リリ、父様は駄目なのかい?」
「んー……仕方ないです。父さまもいいです」
俺は父に抱きついた。仕方ない。父はいつもちょっと頼りない。
「リリ、有難う。リリのお陰だ。よくやってくれた」
「父さま、ボクは何もしてません」
「いや、変化をもたらしたんだ。リリのお陰だ」
父は俺の頭を撫でた。
「あ、ユキは!?」
「リリ、我はここにいるぞ」
「ユキ、良かった。ボクの母さまだよ」
「ああ、父君に聞いた」
「リリ、凄いわね。母さま、神獣なんて初めて見たわ」
「ああ、私もだ。しかも光の神の使いと言うじゃないか。リリ、凄いよ」
「え? 光の神の使い? ユキ、そうなの?」
「ああ、助けて貰った時に精霊が言っていたではないか」
「そうだっけ?」
そうだっけ? 覚えてないぜ。
「さて、リリ。こっちの転移門も直してしまおう」
「ルー、ちょっと待って」
「リリ、どうした?」
「りんごジュース飲みたいの」
起きたら、りんごジュースは欠かせないぜ。
さて俺は、父に抱っこされて城の地下に向かった。側近のセティと近衛師団の護衛が後に続く。城にこんな装置があるなんて、知らなかった。
辺境伯の、邸の地下の部屋と同じ様に、重厚な白っぽい石の扉があった。セティと護衛はここまでだ。
中に入ると、同じ様な魔石が嵌め込まれた石の柱と床には11芒星。やはり、1本の柱の魔石だけ大きさが違う。
同じ様に一段上がった丸い土台に設置されている。柱にある魔石は光っていない。
「父さま、向こうと同じなんですね」
「ああ、そうだよ。初代皇帝が設置した物だ。父様の父上が無理な人数を転移させたから、壊れてしまった。それを、私の息子が修復するなんて、思いもしなかったよ」
「父さま、母さま、直ったら一緒に辺境伯領に行きましょう。おっちゃんにも紹介したいです」
「ああ、漁師のおじさんだったか?」
「はい! ボク大好きです」
「まあ、是非お会いしたいわ」
「はい! 母さま!」
「じゃ、リリ。いいかな?」
「うん、ルー」