124ー転移門
夕食に出てきたパエリアは好評だった。
シェフ達がアクアパッツァも作っていて、まるで前世のどこかのお店に食べに来たみたいだ。
食が豊かなのは良いよな。本当に豊かな海だ。
「リリ、もう食べないのかい?」
「兄さま、実はボク味見を沢山したんです」
「まあ、じゃあ今日の料理はリリが考えたの?」
「いえボクは、こんな感じ〜て、言ってただけです。こんなに美味しいのは、シェフや料理長や料理人達の腕です!」
「殿下! 滅相もないです!」
「ううん、シェフ達は凄いよー!」
本当にマジで凄い。まあ、前世で俺は、結構料理はできる方だったが。
なんせ、俺よりうちの奥さんの方が仕事が忙しかったから、作っているうちに出来るようになった、て程度だ。
しかし、前世ではレシピがあった。クック○ッド先生が!
だからさ、うろ覚えなんだよ。本当に、確かこんな感じだったよな? て、程度しか覚えていない。
そんな、俺のふんわりした記憶で話すレシピで、しっかりと美味しく仕上げてくれる! 素晴らしい! さすが、プロだぜ!
「……ん……ふわぁ……」
「おはようございます、殿下」
「ニル、おはよう」
横で、ユキが伸びをしている。翌朝だ。
「今日はルー様がいらっしゃるそうです」
「うん。転移門の修復だね」
「お着替えして、食堂に参りましょう」
「うん」
俺は顔を洗って着替える。
「殿下、本当にご無理なさいませんように」
「うん、ニル。ありがとう」
「ルー様がついておられるので、大丈夫だとは思いますが……」
「どうしたの?」
「先代の皇帝陛下の事を……」
先代の皇帝は、スタンピードの時に転移門に魔力が枯渇するまで流し続けて兵を送った。その影響で早逝だったそうだ。
「ああ、聞いたんだ」
「はい」
「大丈夫だよ。ボクは先代より魔力量が多いから」
そっか。先代て知らないけど、今の俺のじーちゃんに当たるのか。
そう考えると、代々守ってきたんだと少しは実感できる。
「ニル、大丈夫だよ。ありがとう」
朝食を終えたら、ルーが現れた。
「リリ、元気か?」
「うん。ルー、今日はお願いね」
「ああ。ま、サクッとやっちまおう」
軽く言うなぁ。そんな簡単な物なのか?
「リリ、何言ってんだ? リリなら簡単だよ」
「ルー、そうなの?」
「ああ。本当にサクッと出来ちゃうよ」
「そうなら良いけど」
「リリ、この邸の修復が終わったら、城の方の転移門も修復しような」
「うん。帰ったらね」
「いやいや、リリ。だから、ここの修復が終わったらだよ」
「え? 意味分かんない」
「だからな、こっちの修復が終わったら、僕がリリを連れて城に転移するんだよ。
向こうでも、待ってるからな。それから、城の転移門を修復するんだ」
マジかよ!? そんな事できるのかよ!?
「うん。リリなら余裕だ」
「なんか信じらんない」
「お前なぁ、僕を何だと思ってんだ?」
「ん〜、食事を運ぶ鳥さん」
へい、お待ちー! てな。プププ。
「リリ、酷いな! リリの両親が、どうしてもと言うから、やってやってるんだぞ」
「そう?」
「ああ」
「ありがとう。配達鳥さん」
「リリー!」
ハッハッハ!
「精霊よ」
「ん? ユキ、なんだ?」
「我もリリの側にいる」
「ああ、好きにしたら良いよ」
「ルー様、もう始めるのですか?」
「ああ、クーファル。サクッとやっちゃうよ」
「私も、ご一緒しても?」
「ああ、構わない」
クーファルとソール、ルーとユキと一緒に邸の地下に向かう。
もちろん、俺はオクソールに抱っこされていて、リュカも一緒だ。
「ルー様、リリに負担のかからないように、呉々もお願いします」
「クーファル、大丈夫さ」
「しかし、今まで直せる者がいなかった転移門を、修復するとなると……心配です」
「大丈夫だ。リリなら同じ転移門を、幾つも設置できるだけの魔力量がある」
「そんなにですか?」
「ああ。そんなにだ。僕にも、総魔力量がハッキリ測れない位だ。多分、初代より多いだろう。クーファル、これは内緒だぞ」
「はい、ルー様。抜きん出た力は、狙われやすいですから」
「ああ、その通りだ」
ルーとクーファルが何か言ってる。気付かない振りしておこう。
地下に着くと、石の扉の前で、アラウィンとアスラール、側近のハイクが待っていた。
「ルー様、クーファル殿下、リリアス殿下。お待ちしておりました」
アラウィン達が頭を下げる。
「ああ、待たせたか?」
「いえ、ルー様。とんでもございません」
「悪いけどな、お前達はここで待っていてほしい」
「ルー様、それは……」
「これからこの中でする事は、皇家の機密事項だ。辺境伯が目にする事も、口外する事も許されない」
「はっ、ルー様。畏まりました」
アラウィンとアスラールが跪いた。
そんな、大層な事じゃないだろ。さっきは、サクッととか言ってたじゃないか。
「リリ。本当なんだよ」
「ルー、分かった」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「ルー様、私共は?」
「ああ、オクソールとリュカもここまでだ。ソールもだ」
「はい、分かりました」
俺は、オクソールからクーファルに抱っこされ、ルーとユキと部屋に入る。
リュカが泣きそうな顔をして、俺を見ている。大丈夫だよ、心配すんな。
「クーファル、リリを円の中央へ」
「はい、ルー様」
「精霊よ、我も」
「いや、ユキは入るな」
「しかし!」
「大丈夫だ。入るな」
「……分かった」
パタパタとルーが飛んで来て、円の中央にいる俺の肩に止まった。
「ルー」
「ああ、リリ。少し集中してみな? 分かるか?」
ルーに言われて、集中してみる。
これは……初代皇帝なのか? 設置している場面が脳裏に浮かぶ。
「うん。分かる」
「じゃあ、始めるか」
「うん」
ルーがふんわりと飛び、俺の目の前で止まる。
ルーが鳥の姿から、大きな白い光に変わった。俺は、その光に向かって両手をかざす。
光が俺を包み込んでいく。全身が光に包み込まれると、俺はかざしていた両手を天に向ける。俺を包んでいた白い光が強く大きくなる。
光に包み込まれているのか、俺自身も光っているのか、分からなくなる程の光が11本の柱が建つ円いっぱいに広がり始めた。
俺はルーを感じていた。教えてもらっていないのに、どうして分かったのか? どうして、脳裏に浮かんだのか?
初代皇帝の、残滓が分かる。俺を手伝ってくれているのか?
俺は……知っているのか? この感情は何だ?
そのまま、意識をルーに向ける。すると、俺の両手から光が天井を抜けていき、丸い土台の床に描かれた11芒星が光った。