122ー背負い投げ
ユキがスタートして数秒で、もう倒されている隊員がいる。瞬殺だ。
「あー! ユキに倒された人は失格でーす! 戻って下さーい!!」
すごすごと戻ってくる隊員達。
「キャハハハ!! 逃げて! 逃げてー!!」
ユキに倒されて、『おわッブフッ!!』と、変な声を上げる者。
『ぎゃー!!』と、叫び声を上げる者。
普段は、カッコいい領主隊や騎士団が次々とユキに倒されていく。
「キャハハハ! キャハハハ! あー! 逃げて!!」
しかし、オクとリュカはやっぱ獣人だな。超身軽じゃん! ユキが倒そうとしても、ヒョイって避けてる。
これは、ウル達隊長格より若手の方が有利かな? 若い方が俊敏じゃね?
あ! 隊長のウルが倒された! ユキが近くまで来ていたのに、気付いてなかったんじゃないか!? 軽く倒されたぞ。
「ウル、残念!」
「はい、殿下。全く気付きませんでした。足音がしないなんて反則ですよー!」
アハハハ! 悔しそうだ!
「うわ! シェフとユキが見合ってる!」
「あー、あれはもうシェフ駄目ですねー」
ウルが言う様に、俺も駄目だと思った。
がッ!! ユキがシェフに飛び掛かった時、シェフはなんと!!
「「ええーーッ!!」」
ウルと二人で、思わず叫んだよ!
なんとシェフは、飛び掛かってきたユキの前足を掴んで投げたんだ!! それはもう見事な背負い投げ!! しかも、追いつかれない様に遠くに投げた!
「シェフー!! カッコいいー!!」
――おおーー!!
――スゲーー!!
――なんだあれ!?
とっくにユキに倒されて、戻って見ていた隊員達も歓声を上げる!
しかし! ユキも負けていない! 投げられたのに、空中でクルッと体の向きを変え、そのままシェフに飛び付いた!
――あ゛ぁーー!!
「シェフ! 残念!!」
あぁー、シェフが倒されちゃたよ! 超カッコ良かった!
ビックリだよ! まさか、ユキを投げるなんて誰が想像するよ!?
「殿下! 倒されてしまいましたー!」
「シェフ! 凄かった! ビックリした! 超カッコ良かった!」
俺は台の上で、旗をパタパタと振りながらピョンピョン飛んで感動を伝える! だって、本当に凄いよ! ユキを投げたんだぜ! 神獣を投げるシェフ……意味分かんねー!
「ハハハ、そうですか!? 有難うございます!」
後は誰が残ってるんだ?
「後は、オクソール殿とリュカの二人だけですね」
「ウル、そうなの!? もうみんな倒されちゃったの!?」
「はい、殿下。面目ないです」
「あらら……」
「あ! 殿下! ユキはリュカを倒す気ですね!」
「シェフ、本当だ! リュカにロックオンしてる!」
「ハハハ! ロックオンですか!?」
ユキめ。オクソールよりリュカの方が、倒しやすいと思ってんだろ! まあ、正解だよな。
「リュカー! 逃げて! 逃げてー!!」
リュカが、ヒョイヒョイとかわしながら、必死で逃げまわる! だが無駄だ。獣化していたらどうだか分からないが、人型のままだとリュカが不利だ。
「ブヘェッ!!」
リュカ……なんて声出してんだよ。超カッコわりー。
「あぁ〜! 倒されちゃった〜! はい、リュカおしまーい!」
あっと言う間に倒された。
「優勝! オクー!! おめでとー!」
まあ、そうだろな。堂々の優勝だ。
「2位でーす! リュカー! おめでとー!」
はい、やっぱ獣人だね。最後はカッコ悪かったけどね。
「3位でーす! シェフー! おめでとー!」
もう、意味が分からん! マジで最強のシェフだぜ!
「みんな! おつかれさまー!!」
――おおーー!!
しかし、誰が考えたんだろうね。ユキは一応神獣だよ? 神獣!
神獣相手に、ガチ鬼ごっこなんてさ。面白すぎるぜ! アハハハ!
「殿下、2冠達成です」
「うん! オク凄いや! オクもリュカも、やっぱ早いねー」
「そうですか? それよりも、シェフには驚きました」
「ねー! 投げるんだもん!」
「あれは、我も驚いた」
「アハハ、ユキも!?」
「ああ。まさか投げるとはな」
「ほんと、ほんと。あれ? そのシェフは?」
「はい、昼食の用意があると走って行きましたよ」
「リュカ、そうなの? もう!?」
「はい。殿下のお食事の用意を! て、言ってました」
「ほんと、分かんない」
「ハハハハ、シェフですから」
「そうだね〜、リュカ。シェフだから。アハハハ!」
俺はユキに乗せてもらって、邸に戻る。ご機嫌だぜぃ!
「リリ、何を騒いでいたんだい?」
邸に入ると、クーファルとソールがいた。
「兄さま! 鬼ごっこしてました!」
「鬼ごっこ?」
リュカがクーファルに説明している。
「お前達は神獣相手に何を……勝てる訳ないじゃないか」
「兄さま、シェフ凄かったですよ!」
「え!? シェフが1番ですか!?」
「ううん、ソール。優勝はオクだよ」
「だろうなぁ」
「兄さま、シェフはユキを投げたんです!」
「シェフが? えっ? シェフだよね!?」
「アハハ、兄さまシェフです!」
「クーファル様、マジですよ! 見事に投げてました! こう背負って投げてました!」
リュカが背負い投げの振りをしながら、クーファルに説明している。
「リュカ、そうなのか!? ユキ、神獣なのに」
「いや、クーファル。まさか投げるなんて思わないだろう!?」
「まあ、そうだね。そうか。ユキはシェフに投げられたのか」
「クーファル、やめてくれ」
「兄さま、凄い盛り上がりましたよ! めちゃ楽しかったです!」
「そうか。リリ、それは良かった。さあ、昼食だ。食堂へ行こう」
「はい、兄さま」
今日の昼飯はなんだろなー。
また和食だったら嬉しいなー。