12ークーファル
次の日。俺はまたボーッとしながらソファに座り、上半身だけをコテンと横にしていた。
部屋には心配そうに俺を見つめるニルとオクがいる。
――コンコン
「やあ、リリは起きてるかな?」
なんだよ、誰だ? チラッと横目で見る。出たイケメン兄貴。
クーファル・ド・アーサヘイム
皇后の子、第2皇子だ。
綺麗なブロンドでストレートの長い髪を、片方に持ってきて一つに結んでいる。
いかにも利発そうな碧色の瞳が印象的だ。文武両道、今は長男の補佐を務めている。俺はクーファルとまだ言えなくて、クーにーさまと呼んでいる。
「……クーにーさま。どうしてここに?」
俺は慌てて身体を起こした。
「リリに会いたくなってね」
と、ソファの前にしゃがんで俺と目線を合わせ優しい眼で見つめながら、俺の頭を撫でた。
「にーさま…… 」
また、涙がじわじわ溢れてきたぜ。
マジ、止めてくれ。なんでこんなに感情が3歳児に引っ張られんだ?
「リリ、偉かったね……」
そう言いながら、クーファルは俺をふわりと優しく抱き締めて背中をトントンする。そんな事をされると涙が止まんなくなるじゃねーか。
「ウグ……ヒック……エッ、エッ……ヒック…… 」
ヒョイと俺は抱き上げられた。
「リリ、泣いてばかりいるとまた身体を壊してしまう。兄様とオクソールと一緒に外に出よう。今日のお昼は皆一緒に外で食べよう」
そう言って、クーファルとオクソールは歩き出した。
邸の外に出ると、馬に乗せられた。後ろからクーファルがしっかり支えてくれている。
「にーさま、どこに行くのですか?」
「内緒だよ」
クーファルはウインクして笑った。
なんだよ、ガチイケメンだな! イケメンは何をしてもカッコいいな。羨ましいぜ。
オクソールがバスケットを持ったニルを乗せて、ピッタリ後ろに付いて来る。その後ろからクーファルの護衛達が続く。
湖を右手に見て暫く馬を走らせると、小高い丘に着いた。
丘の真ん中に、日本で例えるなら御神木の様な趣のある大樹がどっしりとそびえている。そこで馬は止まった。クーファルに馬から下ろされ、俺は大樹を見上げた。
「にーさま、こんなに大きくて立派な木は見た事がないです」
「うん。この大樹があるから此処も皇家の直轄地なんだけどね。この大樹はね、帝国の建国時に植えられたと言われていて『光の大樹』と名前がついている。この大樹に、光の精霊様が集まるという伝説があってそこから名前が付いたんだね」
「……ひょお〜!」
俺はトテトテと大樹に近づいて行く。
「クーにーさま、触ってもいいですか?」
「ああ、構わない」
俺は片手の平をピタッと大樹の幹につける。
……? なんだ? この感じは何だ?
そして徐に大樹の幹に抱きついた。
「やあ、リリ。もう泣き止んだか?」
「るー!」
大樹の茂った枝の奥からルーが飛び出してきて、俺の肩に止まった。
「るーはいつもいない」
「なんだよそれ。僕はいつもリリの側にいるよ」
「ルー様、お初にお目に掛かります。兄の、クーファル・ド・アーサヘイムです。この度は大変お力添え頂き有難うございます」
クーファルが深く頭を下げた。
「やめてやめて! 僕はそう言うの嫌なんだ。気軽にルーと呼んでよ」
「ルー様、有難うございます」
「クーにーさま、るー様ではなくて、るーです」
小さい人差し指を立てて、ダメダメと横に振る。
「ハハハ、リリそうだな。でも兄様は畏れ多いよ」
「クーにーさま、るーはボクのお友達です。だかりゃだいじょぶです」
「お友達か! リリは凄いお友達がいるんだね」
「はいッ」
ドヤってやるぜ! へへん!
「リリは、魔力量を知りたいんだって?」
「うん、るーはどーしてそりぇを知ってりゅの?」
「ニルから聞いたよ」
「リリ、そうなのか?」
「はい、クーにーさま。僕も魔法を使える様になりたいのです」
「リリ、僕が此処で見てあげるよ」
「るー本当?」
「ああ、この樹に抱きついてみて」
そうルーが言うので、俺はピトッと大樹の太い幹に抱きついた。
勿論、手は回らない。こんなので分かるのか?
「リリ、自分の中にある魔力を樹に流す様に意識してみて。出来るかな?」
「うん、できりゅ」
俺は自分の中にある魔力に集中した。身体から樹に流す様に。すると……
今迄、青々と葉が茂っていた枝に、小さな白い蕾がムクムクと膨らみ出し、アッと言う間に咲き出した。
大樹全体に、沢山の小さな白い花がフワッと咲いた。
「……リリ! 何をしたんだい?」
「にーさま、るーの言う通りにしただけです」
「ハハハ……! リリ! 君は凄いよ! まさか花を咲かせてしまうなんて!」
「るー、もう離りぇてもいい?」
「ああ、いいよ」
俺も少し離れて大樹を見上げた。
見事に咲いたな! 不思議な事もあるもんだ。と、ボーッと感心しているとクーファルが抱き上げた。
「リリ! 凄いよ! 見てみなさい、満開だ!」
俺はクーファルの腕の中から、大樹を見上げた。
「クーにーさま、きりぇいです!」
「そうだな、綺麗だ!」
ルーがフワッとクーファルの肩に止まった。
「リリ、君の魔力量は膨大だ。普通、蕾が出来る事もないんだよ。蕾どころか、リリは花を咲かせた。満開だ! こんなの初代以来だね!」
「るー、しょだいて何?」
「この国の初代の皇帝さ!」
「ルー様、そうなのですか? あの伝説は真実なのですか?」
「初代が植えたら、忽ち大樹になって花を咲かせた、てやつかな?」
「はい、そうです。この国の建国の際の奇跡と、言い伝えられております」
「ハハハ、それは大袈裟なんだ。元々この場所に大樹はあった。ただ、弱っていてね。光の精霊が寄り付けなかったんだ。その大樹を甦らせ、今のリリと同じ様に初代は花を咲かせたんだ」
ほぉー、初代は凄い力を持っていたんだな。