118ー600年
「まあ! なんて美味しいのでしょう! 今迄食べていた海老と、全然違うわ!」
伊勢海老のグラタンを食べた、フィオンの台詞だ。
そーだろ、そーだろ! 美味いだろう!
そりゃそうだよ、伊勢海老だもんな! 高級食材だからな!
「姉さま、気に入ってもらえましたか?」
「ええ、リリ! 本当にとても美味しいわ!」
良かった良かった。シェフと相談した甲斐があるよ。
「これも、食べられていなかったのだな?」
「ええ、クーファル殿下。本当に勿体ない事です」
「父上、本当にそうですね」
「アスラールが仕留めたクラーケンもだな」
「父上、あれは私ではなくリリアス殿下ですよ」
「まあ、リリが!?」
アスラール、フィオンの前でそれを言ったら駄目だよー! フィオンは俺に超過保護だからな。
「姉さま、違いますよ。アスラ殿が仕留めたも同然なんです。ボクは、とどめを指しただけです」
「リリ、あまり危ない事はしないでちょうだい。姉様、心配だわ」
「姉さま、大丈夫です。オクもリュカもユキもいますから!」
「フィオン様、こちらもリリアス殿下が教えて下さった、カルパッチョです」
「シェフ、これは生なのね?」
「はい、オリーブオイルと酢のソースをかけてあります。とても、爽やかで美味しいですよ」
「そうなのね。いただいてみましょう」
タコと言っても、クラーケンなので大きいんだよ。その分、歯ごたえもスゲーんだよ。
だから、シェフが薄~く透ける程に切ってカルパッチョにしてくれた。
「弾力と甘みが! とても美味しいわ」
「シェフ、やったね!」
「はい! 殿下!」
「殿下方、この後少し宜しいでしょうか?」
「リリ、平気かい?」
「はい、兄さま。まだ大丈夫です」
「何かございましたら、無理には…… 」
「ああ、辺境伯。違うんだ。リリはまた寝てしまうからね」
「そうでした。そうお時間は取らせませんので」
「アラ殿、大丈夫です」
「では、リリアス殿下。少しお時間を下さい」
そして俺は、オクソールに抱っこされて、邸の地下に降りる階段をおりている。
アラウィン、アスラール、クーファル、フィオンに、ハイクとリュカが一緒だ。
「殿下、こちらです」
アラウィンが、白っぽい石でできた地下の扉を開けた。
長く使われていなかったのだろう。石の扉が、ゴゴゴ……と音をたてた。俺達は中に入る。
そこには一段上がった丸い土台に11芒星が、描かれている。
11芒星って、たしかウンデカグラムだっけか?
前世のアメリカの自由の女神の土台、あれが11芒星だったよな?
まあ、俺の知識なんて中途半端だ。うろ覚えって、やつだ。
11芒星の11個の頂点には白い石でできた柱が立っている。
そして11本の柱の中央には、幾何学模様のアラベスク柄が彫り込まれている。
その柄の中心に、11芒星の中央に向かって、透明な丸い魔石が嵌め込まれている。
向き合っている柱の上にも、同じ様な柱が渡してあって、中央に同じ柄と魔石がある。
柱は11本だ。正面右側の1本だけ、上に柱を渡してない。てか、奇数だから対にしていったら1本余るよな。
その柱にある魔石だけ大きさが違う。
他の柱の魔石より一回り? いや、二回り位大きい。この魔石が起動装置か?
これが転移門。中世ヨーロッパか、それとも古代ローマ遺跡か、て趣きだ。
邸の地下にこんな大きな設備があるなんてな。
「辺境伯、これは?」
「クーファル殿下、これがルー様が仰っておられた転移門です」
「これが…… 」
「大きいのですね」
「オク、下ろして」
俺は、オクソールの腕からおりて、転移門の方へ歩いた。
「リリ、ストップだ」
ポンッとルーが現れた。
「ルー、なんで?」
「リリ、気をつけて。て、言ったろ?」
パタパタと俺の肩に止まった。
「え? ルーこれも?」
「ああ。むしろこれは特にだろ?」
「そうなの?」
「ああ、そうだ」
「ルー様、リリがどうしたのですか?」
「ああ、フィオン。リリは光属性が強いんだ。初代も強くてな。初代の魔力の残滓があると、引っ張られるんだよ」
「引っ張られる……ですか?」
「ああ。意識が過去に引っ張られてしまう。見なくて良いものを、見てしまうかも知れない」
「ルー様、それは初代が見たものと言う事ですか?」
「クーファル、そうだ。言っただろう? 初代の頃は、今みたいに平和じゃなかったんだよ」
「そうでした。リリはまだ見ない方がいい」
「兄さま、ルー。そんなになの?」
「ああ、この部屋の扉がなんで石造りなのか分かるか?」
「もしかして……魔物?」
「そうだ。万が一の時に、魔物が入ってこれない様にだ」
「そうなんだ……」
扉や柱が白っぽいのも、魔物避けが使われているんだろう。
「これが、最後に使われたのが30年前だ。転移門が作られたのが、630年前だ。
600年間、魔力を補充しながら使われていたんだ。初代は凄いだろ?」
「うん、想像できないや」
マジ、残っているだけでも凄い事なのに、使われていたんだもんな。
「リリ、君が引き継ぐんだ。修復できるのは、リリしかいない。リリは以前花を咲かせた光の大樹と、この転移門を守り引き継ぐ事。それが役目になる。悪いな、プレッシャーかけてしまって」
いや、プレッシャーもあるが……
「ルー、ボクは修復できる事を誇りに思うよ。守り引き継いでいくよ」
アラウィンが感慨深げに話し出した。
「私はまだ子供でしたが、使われていたのを覚えています。実際に父と一緒に、転移した事もあります。先代の皇帝陛下が、光属性の魔力を補充する為に、定期的に来られていたのも覚えております。600年間、続けて来られたのです。
次代のフレイ殿下に、壊れたままお渡しするのは心残りでありました。リリアス殿下。殿下には心から感謝を。領地の事でも、大変ご迷惑をお掛けしましたのに」
違うんだ。辺境伯領だけの為ではない。迷惑なんかでもない。
「アラウィン辺境伯、迷惑などではありません。辺境伯領の為だけではなく、帝国の為です。ボクは、帝国第5皇子としてできる事をしただけだ」
俺は敢えて口調を変えて、アラウィンに言った。
そして、クーファルを見た。
「ああ。リリアス。そうだよ。辺境伯領が盤石でないと、帝国の平和にも関わってくる。リリアスだけでなく、フィオンも私も。帝国の皇家としての役目だ。辺境伯、この地を頼んだよ」
アラウィンとアスラール、ハイクは跪いた。
「必ず……必ず守り続けて参ります。陛下や殿下方から受けた恩義に報いる為にも。お任せ下さい。」