116ーいきまーすッ!
ユキに乗って、港の端まで来た。いたいた! 超デカイ、タコだ!
おや? もう、領主隊が数人来ている。早いな。
「リリアス殿下! 危険です! 離れて下さい!」
「殿下! お戻り下さい!」
アスラールと領主隊が慌ててやって来た。
「アスラ殿。よく出るの?」
「いえ、港にはめったに」
そうか。じゃあ何が原因なんだ?
「アスラール様! 分かりました!」
「ウル! どうした!?」
「どうやら、沖の方でメガロシャークが出たようです。それで逃げて港に迷い込んだのでしょう。沖に出ていた漁船が確認しています!」
「メガロシャーク?」
「まあ、めちゃくちゃでっかいサメの魔物です」
「そんなのが!? て、言うか、ウルいたんだね」
「あー、はい! 頂いてました! 美味かったです! ハハハ!」
そりゃ良かったよ!
「アスラ殿、どうするの?」
「私が風魔法で仕留めます」
「えっ……」
「え? 殿下?」
「アスラ殿、足切らないでね」
「は? 殿下?」
「あれ、美味しいよ?」
「……!! まさか殿下!!」
「本当。マジだよ? 食べてみたくない?」
「分かりました! 頭ならいいですか?」
「うん!」
――ギュイィィーン!!!!
「アスラ殿、すごーい!!」
アスラが剣に風魔法を付与して斬撃を飛ばした!
こっちに来る時も見たけど、目の前で見ると本当スゲーよな! 俺もやりたい!
「あー! アスラール様! 致命傷になりませんでしたねー!! 残念!」
アスラールが飛ばした斬撃は、巨大なタコの眉間の辺りを斬ったが、致命傷にはならなかった。
「はい! はーい! 次はボクがやります!!」
「え!? 殿下が!?」
俺はユキに乗ったまま、元気に手を上げた。
「いきまーすッ!!」
『ウインドエッジ』
ヒュンッ!! と、風の刃が飛んだ。
丁度、アスラールが傷をつけた辺りを切り裂いた。
――ザバーーン!!
巨大なタコが水飛沫をあげて倒れた。
「やったー!!」
「殿下! お見事!!」
「エヘヘ」
――おぉーー!
――殿下! スゲー!
――ヤッター!!
港が沸いた!
へへへ、やったぜ! ちょっと気持ちいい。
「リリ! 怪我はないか!?」
クーファルが慌ててやってきた。
「兄さま! 大丈夫です! なんともありません!」
「リリ、本当にヒヤヒヤしたよ」
「我が付いておる。怪我などさせん」
ユキは本当に男前だよ。
「ユキ、ありがとう。兄さま、ごめんなさい。でもあれ、美味しいですよ!」
「はぁ!? リリ!?」
クーファルがビックリしているが、この際スルーだ。ちゃんと鑑定で確認したからな。大丈夫だ。
「シェフー! おっちゃーん!」
「おう!」
「はい! 殿下!」
二人揃って、ビュンとやってきた。
「あれ、食べるよ!」
ビシッとクラーケンを指差して俺は言った。
「「ええーー!!」」
うん、2人とも良い反応だぜ。
「んんーまーい!! プリップリ!」
シェフに言って、アヒージョっぽくしてもらった。
プリップリじゃねーか! 魔物なのに、超美味い! 魔物なのに。
「いやぁ〜、食べると言い出した時はビックリしたが。美味いもんなんだな! めっちゃ酒に合うな! ガハハハ!」
ニルズはワインの入ったコップを片手に、上機嫌だ。いつの間に飲んでたんだ?
「おっちゃん、酔ってる?」
「これしきのワインで酔うもんか!」
本当かよ? 酔っ払いは皆そう言うんだぜ? もう顔が赤いじゃん。
「ねえ、おっちゃん。同じ様なので、頭が三角なのいない?」
「いるぞ。今日の頭が丸くて赤いのが、レッドクラーケン。頭が三角で白いのが、ホワイトクラーケンだ」
「その三角なのも、美味しいよ」
「そうかッ!」
「殿下、他の調理法ですが……」
シェフ、メモ片手に聞いてきた。プロだねー。
早速、シェフが作ったらしい。タコの唐揚げと、タコのカルパッチョ。それに、ソイと砂糖で煮物まで。タコのフルコースだ。
「シェフ凄い! 天才!」
「殿下、有難うございます! いやぁ、クラーケンが、まさかこんなに美味しいとは思いませんでした!」
「うん! 塩でしっかりヌメヌメを落としたら、美味しいでしょ」
「はい! 大きいから大変ですけどね」
「おっちゃん、魔物じゃないのも、いるでしょ?」
「あー、いるにはいるが。捕まえられないんだ。逃げ足が早いからな」
「おっちゃん、罠を仕掛けといたらいいんだよ」
「殿下、罠か?」
「うん。網の筒みたいなのの中に餌を入れておいて、海底に沈めておくんだ。海の温度が低いと、動かなくなるらしいから、暖かい時がいいね」
「そうか! やってみるわ!」
「うん!」
「殿下! めちゃ美味いです!」
リュカ、まだ食べてんのかよ。
「リリ殿下、しかし凄いのを連れてるんだな」
「え? おっちゃん何?」
「それだよ、ユキヒョウだろ?」
俺の横で、タコを夢中になって食べているユキを指差した。
「ああ、そうだけど。神獣なんだって。ユキて言うの。よろしくね」
「し、神獣!? 初めて見たぞ!」
ニルズよ。リアクションは良いけど、手に持ったワインこぼすぜ?
「ハハハ! 俺達も初めてですよ!」
「リュカ、お前もか?」
「はい、初めてですよ」
「なんか、スゲーな! リリ殿下は、マジで規格外だな!」
「ニルズさん、何言ってんスか! 殿下は精霊様も友達ですよ」
「あん!? 加護じゃねーのか!?」
「加護もですけど、友達だそうですよ。ねえ、殿下」
「ん? ルーの事?」
「はぁ!? 名前あんのか!?」
「ボクがつけたの。友達だからね」
「はあ〜! 慣れねー! 慣れねーわ!!」
「アハハハ!!」
リュカ、お前はいつも酔ってるのか?
「殿下、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「オク、もうそんな時間?」
マジか、半日いたんだな。
「なんだ? 昼寝すんのか?」
「おっちゃん、ボクまだ5歳だからね。お昼寝大事!」
「ガハハハ! そうだった! まだ5歳だったな!」
なんだよ、それ。忘れてたのか?
「リリ、戻ろうか?」
「はい、兄さま。ユキ、沢山食べた?」
「ああ、美味かった」
「良かったねー!」
「ユキ、どうする? 殿下は私がお乗せするが、小さくなるか?」
オクソールが聞いてきた。
「いや、面倒だ。このままついて行く」
「オク、ボクはユキに乗って帰るよ」
いつも乗せてもらってるの悪いしさ。ユキかっこいいじゃん? 乗って走りたいぃ!
「殿下、途中で寝てしまわれたら危ないですから」
「あー、そっか。じゃあオク、お願い」
「はい、殿下。では参りましょう」
仕方ない。寝てしまったら落ちてしまうぜ。俺は両手を上げて、オクに馬に乗せてもらう。
「おっちゃん! またねー! 今日はありがとう!!」
「何言ってんだ! こっちこそ、有難うよ! また、いつでも来なよ!」
「うん! ありがとう! テティ! またねー!」
「殿下! 有難うございました!」