115ー海の幸 1
ニルズが大きい鍋で茹でる用意をしてくれた。
「殿下、これこのまんま突っ込んでいいのか?」
「うん、いいよー!」
「生きてるぜ?」
「うん、いっちゃって!」
「よし!」
「殿下、剥きましたよ。」
「じゃあ、これは一口大に切って、前みたいにソイをつけて食べよう」
「こっちの大きな貝はどうしますか?」
「ああ、それもそこにナイフを入れて…… 」
「殿下、もういいか?」
「うん、おっちゃん。いいよ!」
「これどうすんだ?」
「もうこのまま食べれるよ。食べやすいように、ここにね…… 」
さあ、出来たぜ!
シェフが剥いたり切ったりしていたのが、伊勢海老とアワビだ。
刺身にしてもらった! 超新鮮! 超贅沢!
伊勢海老なんて身が透き通ってるぜ!
おっちゃんこと、ニルズが茹でてたのが……そう、蟹だ!
まず、茹で蟹を用意した。
「兄さま! みんな! 食べよう!!」
「リリ、生で食べるのかい?」
「はい! 兄さま、美味しいですよ! この、ソイをつけて下さい」
「さあ、殿下。どうぞ」
「シェフ、ありがとう! ソイをちょんちょんとつけて……んー! 超おいしい! とけちゃう!!」
「うわ、うまっ!!」
リュカ、お前はもう食ったのかよ! はえーな。躊躇がないな。リュカの横でオクソールまでアワビを食べている。前に船で刺身を食べているから、2人は生と言う事にもう全く躊躇しない。
「リュカ、生でも平気なのか?」
「クーファル殿下、いっちゃってください! 超美味いです!」
「そうか……ん、これは美味い……!」
いつのまにかオクソールが俺の真横にいて、伊勢海老を食べていた。
「オクソールも? リュカ、抵抗ないのかい?」
「ああ、前に船の上でも食べましたから、慣れました! クーファル殿下、これも美味いですよ、どうぞ!」
リュカに勧められて、クーファルが伊勢海老を口に入れる。
「そうか、じゃあ…… お、美味しい! 甘いな!」
「でしょ? クーファル殿下、美味いでしょ!?」
「リリ殿下、こっちはどうすんだ?」
「おっちゃん、足をバキッてやって!」
「え? マジか?」
「うん! マジ!」
「こうか?」
――バキッ……バキッ……!
「おっちゃん、1本ちょうだい!」
「おう! 熱いぞ。」
「うん! シェフ!」
「はい、殿下」
「これ、この切り口から剥いてほしいの」
「殿下、こうですか?」
「うん、そうそう。これをこうやってとって……ん、あまーい!」
「え? 殿下、甘いですか?」
「うん! シェフ食べて!」
「では……うん! 甘い!」
「でしょー!」
「シェフ、これね、焼いても美味しいの。グラタンもいいね。こっちはバターでソテーしても美味しい。ソイで甘辛く煮ても美味しい。これは、焼いても美味しいし、生でも食べれるよ。あー、しゃぶしゃぶしてもいいかなー」
「ふむふむ。ソテーですね。ん? しゃぶしゃぶ?」
シェフ、いつの間にかメモってるよ。
「で、殿下。これは何と言うのですか?」
「え? おっちゃん、これ何ていうの?」
「知らねー。俺たちは、『海の蜘蛛』て呼んでるが、ちゃんとした名前は知らねーよ。モグモグ…… 」
「えー!! 蜘蛛!?」
おっちゃん、めっちゃ食ってるよ!
「こいつはな、デケーだろ? 漁の網は破るし、魚は食い散らかすし、共喰いまでするんだよ。オマケにこの足だよ。鋏に挟まれて怪我した奴もいる。で、この見た目だ。昔から忌避されてきたんだ。まあ、単純に見た目で『海の蜘蛛』て、いつからか呼ぶ様にになったらしいぞ」
なるほど、それで食べていなかったのか。確かに俺が知ってる蟹よりかなりデカイ。バケモン級だよ。でもその分、身もたくさんあるぞー!
「殿下は何と?」
「かに」
「では、これは?」
「これは、伊勢海老」
「こっちは?」
「アワビ」
「はいはい。了解です」
「こら、ソール。お前食べ過ぎだ」
ん? ソールが? そのクーファルの声で、ソールを見てみると。どんだけ食べたんだ!?
ソールの前に、でっかい蟹の足の殻が小山になってるよ!
「だって殿下、めちゃくちゃ美味いですよ! 止まりません!」
いや、止めようぜ!
みんな食べてるのかな? と、思って見回してみると……
スッゴイ人が集まっていた。ビックリしたよ。
まあ、デカイし沢山あるから大丈夫だろうけど。
ニルズが茹でていたのは最初だけで、もう漁師のおかみさんらしき人達が、次から次へと茹でている。シェフも、奥さん連中に囲まれて色々作っている。
「殿下、どうしました?」
「テティ。みんな食べてるかな? て思って」
「食べてますよ。港中の人が集まってしまって、大騒ぎになっちゃいましたね」
「うん。ビックリしちゃった。テティは食べた?」
「はい。頂きました。とっても美味しかったです。今まで食べなかったのが、こんなに美味しいなんて。驚きました」
「アハハ、前も言ってたよ」
「前もそうですが、今日食べ方を教えて頂いたのは…… 」
「あれでしょう? 見た目で敬遠されていたんでしょう?」
「ええ、そうなんです。さっきうちの人も言ってましたけど、危険ですし」
「まあ、ね。だって見た目もだけど大きいもんね」
「ウフフ。ですね」
――大変だー!!
――大変だ!! 出たぞー!!
ん? 何だ? どうした?
「リリ殿下! 港に魔物が出た! 避難してくれ!」
「おっちゃん! 魔物て!?」
「ああ、クラーケンてやつだ! 早く!」
「オク!」
「はい! 殿下!」
「行こう!」
「いえ、殿下! 避難して下さい!」
「オク! 駄目! 行くよ!!」
「殿下!」
「リリ! 駄目だ! 避難しなさい!」
「兄さま! 大丈夫です!」
だって、あれだろ? クラーケンて、でっかいタコだろ!?
食えるんじゃないかな? もしかして。
てか、なんでもでっかいなぁ!
「オク! 抱っこ! クラーケンのとこまで走って!!」
「殿下! 駄目です!」
くそ! ユキがいれば、乗って走るのに!
「オク! おねがい! 大丈夫だから!」
――キャー!!
――なんで!? どっから来やがったんだ!?
「え? 今度は何?」
『リリ!!』
「えッ!?』
――シュタンッ!!
「リリ、呼んだか?」
ユキがどこからともなく現れた!
「えッ!? ユキ! 何で!? お邸にいたはず!」
「リリの声が聞こえたのでな」
「ユキ! 凄い! そんな事できるの!?」
「我はリリを守ると言ったであろう? どこにいても、リリの声は聞いておる」
「ユキ! ありがとう! 行くよ! 乗せて!」
「ああ!」
俺はユキの背に乗った。
「殿下! ユキ! 危険です!」
オクソールが叫びながらついてきている。
リュカもだ。よし! 行くぞ!
ご指摘頂きまして加筆しています。