113ー寝ちゃったよ
「アラ、卒業パーティーの時の事を覚えているかい?」
「はい、忘れられません」
「そうだね。私もだ。あのドレスの切り裂き方は、尋常じゃなかった。
遠く離れてしまって、何も出来ずにいたが、これでも心配はしていたんだよ。まさか、こんな事になっているとは。私の自慢の子供達はどうだい?良く出来た子達だろう?
だが、アラ。水臭いじゃないか。もっと早くに頼って欲しかったよ。無理矢理にでも、あの時に引き離しておけば良かったと思ったよ」
「勿体ないお言葉です」
「本当に……アスラール、アルコース。長い間、我慢させてしまったね。もう、君たち家族の邪魔をする者はいない。よく、頑張った」
「陛下!」
「陛下、有難うございます」
「アラ、今回君は確かに罪を犯した訳ではない。しかし、もっと早くに対処していれば、ケイアも此処まで歪む事がなかったかも知れない。何より、君の家族が苦しまなくて良かっただろう。その事を忘れてはいけない。二度と同じ過ちを犯してはいけない。約束してくれないか?」
「陛下、お約束致します。もう二度とこの様な事は!」
「アラ、もう、暫く子供達を頼むよ。観光にでも連れ出してやっておくれ。
さて、リリは……ああ、寝てしまったか。小さいのに、よくやってくれた。クーファル、案内してくれないか? 神獣を見ておきたい」
「はい、父上」
「……ふぁ〜……あれ?」
「殿下、おはよう御座います」
「ニル! 父さまは!?」
「昨夜、直ぐにお戻りになられました」
「そう……」
俺は、モタモタとベッドをおりる。
顔を洗って、着替える。
「昨夜は、陛下が抱いて来られましたよ。突然、陛下がいらしたので驚きました」
「うん」
「ユキを見に来られました」
「そう……」
「さ、殿下。食堂に参りましょう」
「うん」
部屋を出たらクーファルがいた。
「兄さま! おはようございます」
「リリ、おはよう。さあ、食堂に行こう」
俺はクーファルに抱き上げられた。
「リリ、元気がないじゃないか」
「兄さま、せっかく父さまがいらしていたのに、寝てしまいました」
「そうだね。リリはまだ小さいから仕方ないよ」
「でも、兄さま。もっと父さまと、一緒にいたかったです」
「リリ、兄さまじゃあ駄目かな?」
「いえ、そんな事はないです。兄さまも好きです」
「そうか。じゃあいつもの様に元気になってくれないか? 今日は朝食が終わったら、一緒にニルズに会いに行こう」
「兄さま、おっちゃんにですか!?」
「ああ。兄さまにも紹介してくれるかな?」
「はい、兄さま!」
「よし、じゃあ元気出して、しっかり朝食を食べよう」
「はい!」
「殿下! おはようございます!」
「シェフおはよう」
いつでも平常運転のシェフには救われるよ。
「殿下、今朝はエッグベネディクトに、さつま芋のガレットです。沢山食べて下さい!」
「シェフ、ありがとう」
「殿下、おはようございます」
「アラ殿、おはようございます。昨夜は途中で寝ちゃってごめんなさい」
「いえ、とんでもございません。殿下、食事が終わったらニルズに会いに行きましょう」
「はい! 楽しみです」
さあ、シェフの朝食を食べよう。
そして、おっちゃんに会いに行こう。
俺が元気がないと、心配かけてしまうだろう。
しっかり、食べよう!
「シェフ、これも初めて見る料理です」
「アスラール様、エッグベネディクトと言います。いつものパンよりも水分の多い丸いパンに、トロトロのポーチドエッグとベーコン等をのせて、オランデーズソースをかけたものです。美味しいですよ」
「はむ……」
「アスラール殿、これも城では定番だ」
「お兄様、定番ですわね」
「クーファル殿下、フィオン様、私は初めてです。シェフ、これもやはり殿下が?」
「アスラール様、勿論そうです」
「……?」
シェフ、勿論て何だよ。
「シェフ、さつまいものガレットも、とても美味しいわ」
「フィオン様、有難うございます」
「本当、シェフ美味しい!」
「殿下、有難うございます!」
「ガレットと言うのですか?」
「はい、アラウィン様。バターで炒めたさつまいもに、チーズを加えて焼いてあります」
「さつまいもの甘みと、溶けたチーズがいいですね」
「アルコース様、有難うございます」
「いつもはじゃがいもだけど、さつまいももいいな」
「クーファル殿下、そうでしょう?」
「ええ、私はさつまいもの甘みが好きだわ」
「フィオン様、有難うございます」
うんうん、美味いな。
とろーりチーズがいい感じだ。
「シェフ、これも?」
「はい、アスラール様。殿下です」
「フハハ、本当にリリアス殿下は素晴らしい!」
「……?」
「リリ、褒められてるよ?」
「兄さま、ボク何もしてないです」
「リリったら。でも、城では当たり前に食べていたのに、違うのね。珍しい物だったのね」
「フィオン、そうだね。定番すぎて、分からなかったね」
「兄さま、何ですか?」
「いや、リリはいいよ。沢山食べなさい」
「はい、兄さま」
「殿下とシェフのお陰で、食卓がとても豊かになりました」
「父上、本当に。以前とは全然違います」
「それに兄上。こうして、平和な朝食は良いですね」
「アスラール、アルコース。これからだ。今迄以上に、領地を守り、住み良くしないと。陛下への恩返しだ」
「はい、父上」
「夫人のお加減はどうですか?」
「フィオン様、有難うございます。大分顔色も良くなってまいりました。レピオス殿が、血を作るためにもゆっくり養生する様にと言ってくれてます」
「そうですか、無理なさらない様に」
「はい、有難うございます」
「……ゴクン。ごちそうさま! シェフおいしかった!」
「はい、殿下。今日は私もご一緒しますよ」
「シェフ、そうなの?」
「はい! また新しい食材に出会えるかも知れませんので!」
シェフ、張り切ってるなぁ。
いつものワゴンを押して戻っていった。