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111ークーファルは優しい。

 クーファルが俺に謝る。

 そんな……違うぜ。まあ、話しておいて欲しかったけどな。


「いえ、兄さまが謝る事ではないです」

「リリ、有難う」


 クーファルが優しい目で俺を見ながら、頭を撫でる。


「それから辺境伯は領地に戻って、なかなか会う事は出来なかったから、父上は心配していたらしい。それで父上は、自分は動く事は出来ないが、今回は良い機会だと思ったんだろう。まさか、こんな事になるとは、想像も出来なかっただろうけどね」


 そりゃそうだろう。まさか、夫人を殺そうとするなんてな。俺も思わなかったよ。


「こっちの状況を、ルー様が逐一報告されていたんだ」

「だから、よく行き来していたのですね」

「ああ。まあ、リリが発見した美味しい食べ物も目当てだったろうけど、それはついでだ。ルー様の好意とでも言うか。1番は、こっちの状況を知らせる事だったんだよ。まさか、精霊様を食べ物の配達だけに使う訳がないだろう」


 はぁ……父も気にしていたんだな。


「リリ、もうとっくに駄目だったんだ」

「兄さま……?」

「ルー様が以前に指摘されただろう? もっと早い時期に、辺境伯がしっかり突き放さないと駄目だったんだ。可哀想だから、気の毒だから。そう同情して、甘やかして付け上がらせてしまった」


 それにつけ込んでる感じがするな。


「兄さま、ケイアがアラ殿のお父上の代わりに、自分の父親が死んだと言ってました」

「ああ、それも事実ではない。最初から、ケイアの父親が指揮をとっていたんだ。

 いよいよ最前線に出る、て時に辺境伯の父上が、危険だから代わると言ったんだ。しかしケイアの父親は、自分の役目だからと討伐に出た。だから、代わりに亡くなったと言う訳じゃない」


 自分に都合の良い様に、すり替えていたのか。いや、まだ子供だったんだろう。そう思い込む事で自分の心のバランスをとっていたのかも知れない。


「辺境伯が気を使いすぎなんだ。同情なんだろうが、勘違いさせるのはいけない。気持ちをかけ過ぎては駄目だ」

「兄さま、アラ殿が負い目があると言ってました」

「兄さまに言わせると、負い目を感じる必要もないね」


 まあ、クーファルならそうだろうよ。


「リリ……」

「はい、兄さま」

「兄さまも優しいよ?」


 あれ? 何で分かるんだ?


「え? 当たり前です。兄さまは優しいですよ?」

「そうかい?」

「はい。でも兄さまやっぱり」

「リリ、何かな?」

「帰るまでにケイアに会っておきたいです」

「リリ」

「だって、調査に同行させると言い出したのは、ボクですから」

「リリ、それはきっかけにすぎないよ?」


 それでも嫌なんだよ。


「兄さま、今すぐでなくても良いです。帰るまでで、いいんです。おねがいします」

「リリ、分かった。但し、ケイアが今の状態のままだと、会う事は許せないからね」

「兄さま、そんなに酷いのですか?」

「ああ。酷いなんてもんじゃない。もう狂人だ」


 マジかよ!? そこまでなのかよ!?


「そんなになるまで、思っていたと言う事でしょうか?」

「思いと言うより、執着かな?」

「執着ですか?」

「ああ、プライドもあるんだろうね。ケイアは兄弟がいなくて、甘やかされて育ったらしいから。両親の死を、受け入れられなかったという事もあるだろうが。

 私が……私の方が……てね。リリ、分かるだろう? 嫉妬に繋がるプライドは良くない」

「はい、兄さま」


 2年前、俺が狙われた時も、実の姉の嫉妬があった。


「殿下、そろそろ」

「ああ、ソール。もうそんな時間か」

「兄さま?」

「リリ、夕食だ。食堂に行こう」

「はい、兄さま」


 クーファルよ、有難う。

 クーファルに話したお陰で、少し気が落ち着いたよ。

 と、感謝を込めて、クーファルに抱きついた。


「おや、リリ。どうした?」

「兄さま、ありがとうございます。兄さま、大好きです」

「リリ! そうか! 兄さまが大好きか!?」

「エヘヘ、はい、兄さま」

「リリはいい子だ」


 クーファルに抱き上げられた。

 きっと食堂までこのままだ。

 リュカよ、生暖かい目で見るのは止めてくれ!



 クーファルに抱っこされたまま食堂へ入る。


「まあ、お兄様。ズルいですわ。私だってリリを抱っこしたいのに」


 そう、フィオンの言葉だ。

 頼むぜ、やめてくれ。

 しかし、このフィオンの一言で場が和んだ。

 フィオン、有難うよ。


「フィオン様は、本当にリリアス殿下がお好きなんですね。少し、妬けてしまいます」

「アルコース殿、ご冗談はやめてくだい」


 おやおや、フィオンが真っ赤になったぜ。


「さあ、殿下。夕食をどうぞ。今日は先日の左ロンブスをムニエルにしました」

「シェフ、ありがとう。おいしそうだ」


 ヒラメをムニエルとは、贅沢だなー。


「ムニエルですか?」

「おや? 辺境伯様。これもご存知ありませんか?」

「ええ、初めて聞きました」

「道理で……」

「シェフ、どうしたの?」


 シェフが変な顔してるぞ?


「私がムニエルを作っておりましたら、料理人達が集まって来たので。何事かと思っておりました」

「そうなの? いただきます」

「シェフは何でもよく知っているのだな。これも、良いバターの風味で美味い」

「辺境伯、私ではありません。リリアス殿下です」

「リリ?」

「兄さま、ボクは知りません……モギュモギュ」

「殿下は覚えておられないだけですね」

「そうか。リリ、やっぱりリリみたいだよ?」

「モギュモギュ……」


 俺は知らないと、首を横に振る。


「兄上、いつもの事ですわ。だってムニエルも定番ですもの」

「フィオン、そうだな」

「ほんの数日、滞在されただけで、リリアス殿下は我が領地に沢山の恵みをもたらして下さいました」

「アラ殿、やめてください。大袈裟です」

「いえいえ、決して大袈裟ではありませんよ。今まで魚は、ソテーか干した物かしかありませんでしたから」

「あ! アラ殿。ボク干した物を見てみたいです!」

「ああ、そうでしたな。では見に行きますか?」

「本当ですか? 嬉しいです」


 干物だぜ。気持ちを切り替えて、干物ゲットしに行くぜ!


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