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109/442

109ーフィオンの励まし。

「何すんのよ! 離して! 離しなさいよ!!」


 アルコースがケイアを拘束していく。兵がケイアを連行していった。


「フィオン様、無茶はしないで下さい」

「アルコース殿、有難う」

「フィオン様! お怪我は!?」

「夫人、手当してもらいましょう」

「フィオン様……有難う……有難う御座います」


 フィオンに礼を言う夫人の目から涙がこぼれ落ちた。


「レピオス、いるか?」

「はい! クーファル殿下」

「夫人を頼む」

「はい!」


 レピオスが中に入っていく。

 夫人は怪我をしていたのか?


 その時、夫人が崩れる様に倒れた。


「母上!」


 アルコースが叫ぶ。

 近寄っていたレピオスが、咄嗟に夫人を抱きとめた。


「リリアス殿下!」


 レピオスが俺を呼ぶ。ビックリしたぜ。何だ? 俺か?


「レピオス、どうしたの?」

「夫人にハイヒールを!」


 ハイヒールだと!?

 見ると夫人の脇腹から、血が流れていた。ドレスに隠れた床には小さな血溜まりができていた。


「そんな!! 酷い!」


『ハイヒール』


 ブワンと光が夫人を包み、傷を癒やしていく。


「殿下、有難うございます」

「レピオス、大丈夫なの?」

「はい。血を流されてますから、後は時間をかけて薬湯で治す方が良いでしょう。アルコース様、ご夫人をベッドに」

「はい。有難うございます」


 夫人の侍女らしき女性が駆け寄っていった。


「姉さま、気付いていたのですか?」

「リリ、夫人の怪我かしら?」

「はい。ボクは全然分かりませんでした。」

「ドレスで隠していらしたのよ。こうなっても、まだ助けたかったのでしょうね」

「そうだね。でも、ここ迄くると、もう駄目だね」

「兄さま」

「もう、守る意味がない。守っても増長して、どんどん悪くなるだけだ」

「兄さま……」

「あとは、兄さまの仕事だよ。二人共、戻りなさい」 

「兄さま」

「リリ、戻りなさい」

「さぁ、リリ。行きましょう」

「姉さま……」



 俺は、オクソールとリュカに連れられて、部屋に戻ってきた。

 フィオンが俺の肩を抱いてくれている。


「フィオン様、お怪我はありませんか?」

「ニル、有難う。大丈夫よ。温かい紅茶を頂けるかしら?」

「はい、畏まりました」


 ニルがフィオンに紅茶を、俺にはりんごジュースを出してくれた。

 いつの間にか小さくなっていたユキは、ニルの姉に撫でられながら、りんごジュースをもらっている。


「姉さま、無理矢理部屋に入ったのは……」

「夫人の命が危ないと思ったのよ。少し強引だったけど、他に思いつかなかったの。ごめんなさいね」

「どうして、姉さまが謝るのですか? 姉さまはアリンナ様を助けました」

「でも、リリはケイアも助けたかったのでしょう?」

「姉さま……ボクは分かりません」

「リリ?」

「ボクはケイアの事情をよく知らないので。どうして、あんなに辺境伯や夫人がケイアを庇うのか、理解できませんでした。だから、ボクはケイアの問題を、後回しにして避けていたのかも知れません」

「リリ、何もかも全て円満にはいかない事も沢山あるわ」

「でも……姉さま。ケイアはケイアで苦しいのかと思ったのです」

「そうかも知れないわね。でも、ケイア以上に夫人は苦しかったのではないかしら?」

「はい……」

「私達が駆けつけた時には、もうケイアは夫人を傷付けていたわ。それはどんな理由があっても、してはいけない事よ。リリもよく分かっているでしょう?」

「はい……」

「リリ、仕方ないのよ。もう問題が拗れすぎていたわ」

「姉さま、ボクが調査にケイアを連れて行かなければ……」

「リリ、それは違うわ。もう遅すぎたのよ。それにね、後は辺境伯一家の問題だわ。リリのせいじゃないのよ。分かるわね?」

「はい……姉さま」


 分かるさ。分かっているが……

 ケイアだって魔物に両親を殺された被害者だ。

 そう考えると、なんとかならないかと思ってしまうんだ。甘いけどさ。



 その後俺は、クーファルとフィオンと一緒に昼食を食べたが、全然味が分からなかった。

 そして、俺がお昼寝から起きたらアラウィンとアスラール、そして側近のハイクが戻ってきていた。


「殿下、行かれない方がよろしいかと」


 アラウィンに会いに行こうとする俺を、ニルは止めた。


「ニル、どうして?」

「クーファル殿下と辺境伯様のお仕事です」

「ニル」

「フィオン様が仰っていらした様に、仕方のない事です」

「ニル……」

「りんごジュースをご用意しましょう」

「うん……」


 俺は仕方なくソファーに座った。


 ――コンコン


「失礼致します。殿下、起きておられますか?」

「ハイク?」

「殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」


 ハイクが深く頭を下げた。


「ハイク、謝らないで。ボクもアリンナ様が傷付いているのに気付けなかった」

「殿下、何を仰います」

「ボク、何も出来なかったよ」

「いいえ。奥様がお目覚めになられました。殿下に、お目に掛かりたいと申しております。宜しければ、お部屋までお願いできますでしょうか?」

「うん。分かった」


 ユキをニルに頼み、俺はリュカと一緒にハイクの後を歩く。


「殿下、しっかりして下さい」


 トボトボと歩いていたら、リュカに突っ込まれてしまった。

 リュカが俺の背中に手をあて、トントンしてくれる。ヤバイぜ。マジ幼児だぜ。


「リュカ……」

「殿下は何も悪くないのですよ。殿下は神ではありません。立ち入れない事があって当然なのです」

「リュカ、そんなつもりはないよ」

「では、しっかり背を伸ばして。いつもの殿下でいらして下さい。でないと夫人が心配されますよ」

「そっか。そうだね。リュカ、ありがとう」

「はい、殿下」


 そうだ、しっかりしろ。

 前世55歳のおれが、息子位の歳のリュカに励まされてどうすんだ。

 リュカの言う通りだ。夫人に心配を掛けては駄目だ。



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