107ー両隣の国
「しかし、隣国は何を考えているのか。神獣に危害を加えるだけでなく、呪詛の弾丸を撃ち込むなど」
「クーファル殿下、本当に。両隣の国はどちらも物騒ですな」
「ああ、辺境伯。確かに……」
「クーファル殿下、あの取り出した弾はどうなりました?」
「ああ、リリが解呪して、ただのクリスタルになった。アルコース殿、見るかい?」
「クリスタルの弾丸ですか!? 見てみたいです」
「ああ、ソール」
クーファルが、控えていたソールに声を掛ける。ソールが持っていたのか。
布に包んだクリスタルの弾を、アラウィン達に見せた。
「本当にクリスタルなんですね。ソール殿、もう触っても大丈夫なのですか?」
「ええ。アルコース様、大丈夫ですよ」
アルコースが、興味深気に手に取って見ている。
「クーファル殿下、帝国では、銃はあまり発達していませんからね。魔法が使えるせいですね」
「アスラール殿、それもあるが……誰にでも使えて殺傷能力の高い銃を、わざわざ作る必要はないという父の方針の方が大きい。
隣国は魔法が使えたとしても、攻撃魔法は使える者がいないらしい。だから銃が必要なのだろう」
そうなのか? 全然知らなかった。
「ノール河沿いの森にいる魔物を、あまり討伐できていないのもそのせいだろう」
「クーファル殿下、やはりそう思われますか?」
「ああ、辺境伯」
「兄さま、質問です!」
はいッ! と、俺は元気に手をあげた。
「リリ、なにかな?」
「兄さま、どこの国の人も、みんな同じ様に魔法を使えるのではないのですか?」
「リリ、そんな事はないよ。帝国の両隣の国は、我が国程魔法が発達していないよ。どちらの国も、魔力を持つ人間自体が少ない」
「へぇ〜、知りませんでした」
「リリはまだ学んでいないからね。帝国と同程度に、魔法が発達している国もあるんだ。
北のケブンカイセ山脈を越えた所にある、ニヴァーナ神皇国がそうだ。山脈沿の小さな寒い国だが、我が国と同じ様に誰でも魔法が使える。そして、魔法が使える自分達は神の子孫だと信じられている。関わりたくない国だね」
なるほど、だから国名に神が入るのか?
「兄さま、どうしてですか?」
「リリ、面倒な国なんだ。自分達は神の子孫だから1番偉いと、特別だと思っているんだ」
「そうなのですか? 兄さま、本当に神の子孫なのですか?」
「さあ? どうだろね。じゃあ、同じ様に魔法が使える我が国はどうなるんだろうね? 魔法が使えるから、同じ神の子孫なのか? て、話になる」
まあ、理屈で言えばそうなるよな?
「でも、自分達だけが特別だと思っているんだ。だから、どの国ともあまり貿易をしていない。殆ど鎖国状態だ。それに、周りの国も関わりを持ちたがらないからね」
ほぉほぉ、クーファルもあんまり良い印象は持っていないみたいだな。
「兄さま。王国とは反対側、東の国はどんな国なんですか?」
「ああ、ミスヘルク王国だね。帝国とは違って人間だけの国だ。獣人に対しての差別が酷い。人間しかいないから、理解ができないのだろうね」
「兄さま、そのミスヘルク王国が、魔法をあまり使えないのですか?」
「そうだね。ミスヘルク王国も、反対側のガルースト王国も、王族かそれに連なる高位貴族しか使えない。魔法を使えると言っても、生活魔法程度だが。ああ、日常で魔石を使う程度は、皆可能だよ。だから、日常生活に不便はないのだろう。不便がないから、進歩もない。
しかし、魔物にはそうはいかない。攻撃魔法の代わりに銃が発達しているが、魔物にはあまり効果がないらしいね」
「そうなのですか。兄さま、ガルースト王国と言うのが……」
「ああ、2年前にリリを狙った王国だ」
なるほど。国名さえ全然知らなかったわ。
「兄さま、それ以外はどうなのですか?」
「リリ、この大陸にはもう一つ大きな河がある。知っているかい?」
「はい、兄さま。ヨスール河です」
「そうだね。ガルースト王国の、帝国とは反対側の国境が、ヨスール河だ。その向こうは森だね」
「兄さま、森ですか?」
「ああ。山脈沿いのニヴァーナ神皇国以外は全て森だ。大森林地帯だ」
「凄い広さですね。魔物はいないのですか?」
「勿論、いるよ。しかし、森の深い所にしかいない。だから、ミスヘルク王国は存在できているのかも知れないね」
「それだけ、ミスヘルク王国は魔物討伐ができないと言う事ですか?」
「リリ、ミスヘルク王国が、大河沿いに生息する魔物をちゃんと討伐できていたら、帝国にまで魔物が渡って来てはいないよ」
「兄さま、そうなのですか!?」
「そうなんだよ」
なんだそれは!? なんか、帝国は両側の国から迷惑かけられてるみたいじゃないか?
「リリ、もっと大きくなったら詳しい事を教えてあげるよ。兄さまは、リリが大きくなるのが楽しみだ」
「兄さま、本当ですか? ボクは早く知りたいです!」
「リリ、せめてもう少し大きくなってからにしようね。今は、元気に大きく育ってくれるのが一番だよ」
「はい、兄さま」
「殿下、お待たせしました」
「リリ、待たせた」
シェフに連れられて、元の大きさのユキが戻ってきた。
「ユキ…… 」
「リリ、なんだ?」
「ユキのお腹が、とっても大きくなってる」
「殿下、沢山食べたからです!」
「シェフ、そんなに?」
「おや、本当に。アハハハ」
「アスラール殿それ程か? ああ、本当だ。ユキそのお腹は酷いよ」
クーファルが身体を乗り出してユキのお腹を見る。
「クーファル、そんなに大きいか?」
「ユキ、そんなに大きいね」
「殿下、レピオス様が仰ったのですよ」
「シェフ、レピオスが何て?」
「体に銃弾が入っていて血を流していた様だから、肉なら赤身を沢山食べる様にと。それで、赤身を沢山焼いておいたら全部ペロッと食べてしまいました」
「そうなんだ。血を流していたからなんだ」
「それにしても、そこまで……クフフ」
「クーファル殿下、本当に沢山食べましたよ!」
シェフ、どんだけ焼いたんだ……?