105ーモフモフ
俺はユキを抱っこしながら、オクソールの馬に乗っている。
……が、しかし! ピンチだ! 限界が近い。
何がって? お昼寝だよ! お昼寝!
オクソールが後ろから、手で抱えてくれているからいい様なものの、もう既にコックリコックリしている。背中のオクソールの体温と、抱っこしているユキの温かみでもうとってもいい感じ。ホッコリするのさ。
「殿下、もう森を出ましたから、寝てしまっても大丈夫ですよ。」
「うん、オク。もう少し頑張る」
「無理なさらず」
「オク、リリはどうしたのだ?」
ユキが、コックリコックリしている俺を不思議そうに見ている。
「ユキ、殿下はお昼寝の時間を過ぎているから、眠いんだ」
「魔力の使い過ぎではないのか?」
「殿下、そうなのですか?」
「オク、ユキ。リリの魔力量はまだまだ余裕だぞ。今日やった位の事なら、なんともないさ。単純にお昼寝だ」
オクソールの肩に止まっていたルーが答えた。
「ユキ、自分一人で馬に乗っていられるか?」
「ああ、大丈夫だ。もうリリは目を開いてないぞ」
「そうだろうな。俺は殿下を支えるから、ユキは自分でしっかり馬に乗っていてくれ」
そう言って、オクソールは俺の体を引き寄せる。
ルーはまた、ポンッと消えていなくなった。
「殿下は寝てしまわれましたか」
「アスラール殿。いつもなら、もうお昼寝から起きられる頃ですから。森を出た途端に、コックリと始められました」
「こんなに、可愛らしいのに……殿下には、いつも驚かされます」
「はい」
「食べ物に魔石に、今日は神獣ですか」
「ハハハ、殿下ご本人は、なんとも思っておられませんが」
「そうですね。しかし、今日は殿下に領地を救って頂いたのと同じです。殿下がおられなかったら、浄化もできません。それ以前に、気付いてはいなかったでしょう」
「アスラール殿、殿下は良い子なのです」
「もちろんです」
「いえ、もっと良い子じゃなくても良いのです」
「オクソール殿?」
「もっと、悲しい、寂しい、嫌だ、憎い……そんな気持ちを、出して下さって良いのです。殿下はまだ5歳なのですから」
「そうでした。殿下はまだ5歳だ」
「領主隊の皆と、おられる時は5歳児の顔で笑っておられる。ですので、感謝しております。私は、あの様に殿下に接する事はできないので」
「いえ、感謝しているのは、我々の方です。本当に……殿下はこの国の光です」
「殿下が聞かれると、嫌な顔をされますよ」
「そうですか?」
「ええ。ボクは普通の5歳児だと、いつも仰ってますから」
「私共から見れば、全然普通ではないのですが」
「そうなのですが……しかし、まだまだお母上が恋しいお歳です」
「そうですね……殿下に来て頂いて私達は有難いのですが。殿下はお寂しいのでしょうか? 私達は、殿下に酷な事を望んでいるのでしょうか?」
「どうでしょう……私には、分かりません」
「……ふぅ……んん?」
「殿下、お目覚めですか?」
「ニル、ボクまた寝てたの?」
「はい。またオクソール様が抱きかかえて来られました」
またかよ。オクソール、いつも有難う。本当、すまないね。
「リリ、起きたか?」
「ああ、ユキ。紹介するよ、ニルだよ」
「知っている。オクに聞いた」
「そっか。ニル、ユキだよ」
「はい。私もオクソール様に聞きました」
「可愛いでしょ? 神獣なんだって」
「ええ。でも本当は大きいのでしょう?」
「うん……」
ヨイショとベッドからおりて、ソファに座る。
「ニル、りんごジュースちょうだい。」
「はい、殿下。ユキも飲みますか?」
「なんだ?」
「りんごジュース。めちゃ美味しいよ」
「じゃあ、我も飲む」
「はい、どうぞ」
「ニル、ありがとう」
ユキがペロペロと舐める。
「ユキ、どお?」
「うん、美味い!」
「でしょぉ〜! 美味しいの!」
俺もコップを両手で持って飲む。
「殿下、ユキの本当の姿を見てみたいです」
「え? ニル、怖くない?」
「怖い? 怖いのですか?」
「ボクは怖くないよ。超カッコいいもん。でも、ユキが本当の姿で領都に入ると皆がビックリする、て言われたから」
「そうですね。ユキヒョウですからね」
「ニル、りんごジュースおかわりが欲しい」
「ユキ、もう飲んだの?」
「ああ、美味い」
ユキの太めの長い尻尾が揺れてるよ。ユキは食いしん坊だよねー。
「アハハハ! ニルあげて」
「はい。ユキ、どうぞ」
「かたじけない」
「フフフ。こんな可愛らしい姿で、その言葉使いは似合わないですね」
「本当だね」
「……ケポッ…… 」
「ユキ、ゲップしてるよ。アハハハ!」
「可愛らしいですね!」
「笑うでない」
「ユキ、元に戻ってみて」
「いいのか?」
「この邸内なら、いいんじゃない?」
「そうか」
ユキの体がピカッと光って、光が体を包む。ブワッと大きく膨れ上がって消えた。
「まあ……!」
――ボフンッ!
「ニル!」
「殿下! 凄いモフモフですよ!」
ニルがいきなりユキに抱きついた。ビックリしたぜ!
「キャハハハ! ニル! ビックリしたよ!」
「リリ! なんとかしてくれ!」
「いいじゃん! ユキ!」
「モフモフ……スーハー……スーハー。」
「こら! 匂うでない! 離れろ!」
「キャハハハ! ニル! 最高!」
ユキが、無理矢理ニルを引き離した。
「あ〜! せっかくモフモフしていたのに!」
「いや、匂うな!」
「ええー! だってー!」
「キャハハハ! ニル、人格が変わってるー!」
「殿下、酷いです。モフモフには誰も抗えません! しかもユキはモフだけでなく……こう……スベスベと言いますか……」
おお! それには俺も大賛成だ! 胸のモフモフは超いい感じだぜ!




